第3話 エルフの里に案内されました
何なんだこの状況は?
目が覚めたら森の中にいて、コスプレしている女の子が変なオオカミに襲われていて、助けたら美少女集団に弓で殺されそうにってか?
いやマジで訳がわからないんだが!
「そこの男。なぜ我々の森にいる? どうやって結界を超えてきた」
「え、えっと……その……」
きつめの目をした、金髪のベリーショート美少女にそう聞かれた。
けど、いつ殺されてもおかしくないこの状況に、オレの頭は真っ白になっていた。
「リリアーダ様! 彼は私を助けてくれたんです! それに、こんな状況では答えられるものも答えられないです!」
「ミリア……
「うっ……」
「その、目が覚めたらこの森にいて……」
やっとの思いでオレは答えると、リリアーダと呼ばれた美少女は更に表情を歪めた。
「ふざけた事を。あくまで答えぬというなら……この場で殺す」
ギリギリ――と、弓を引き絞る音が辺りの森に木霊する。
完全に囲まれたこの状況。ああ、完全に終わった。オレはこんなよくわからないスゴ技コスプレ集団に殺されるのか。
ごめん母さん……オレ、一流の卓球選手にはなれないみたいだ。
「……いや待てよ。こいつは使える……くくっ」
恐怖で目をギュッと瞑っていたオレだったが、いくら待っても攻撃は飛んでこなかった。
それに……使えるって? 一体この人は何を言っているんだ?
「全員武器を下ろせ。こいつは里に通す」
「リリアーダ様!? どういう事ですか!」
「こんな素性のわからない男などさっさと殺すべきです!」
「私の決定に逆らうのか? 貴様らも随分と偉くなったものだな」
周りの金髪美少女達は、リリアーダさんの指示に食って掛かる。
けど、リリアーダさんに睨まれた彼女達は、一気に大人しくなった。
「とはいえ滞在は数日しか許さん。そして勝手な行動は許さない」
「……わかりました」
オレは家に帰りたいんだけど、これを拒否したら殺されてもおかしくない。
そう考えたオレは、リリアーダさんの言葉に素直に頷いた。
なんとか助かったって事で……いいんだよな? どういう風の吹き回しかは知らないけど、命拾いした……。
「ミリア、我らは先に里に帰る。貴様が責任をもって男の面倒を見ろ。これは命令だ」
「は、はい!」
それだけ言うと、リリアーダさんは周りの金髪美少女達を連れて、元来た方向へと帰っていった。
なんとか命拾いしたオレは、安心感でその場に座り込んでしまった。
「助かった……」
「ごめんなさい。私がもっと早く伝えていれば、見つからなかったかもしれないのに……」
「ミリアさんのせいじゃないです。むしろかばってくれて、ありがとうございます」
「あ、あれはその……私のせいで死んじゃったら夢見が悪いだけであって……」
何故かミリアさんは頬をほんのりと赤くしながらそっぽを向いた。めっちゃ可愛い。
……可愛いって思えるくらいの余裕は出てきたみたいだ。
「では里にご案内しますね」
「……行って殺される、なんてことは無いですよね?」
「無いと思います。リリアーダ様の命令は絶対ですから」
本当だろうか……正直不安でしかない。
けれどこのまま逃げたら、自分はやっぱり不審者ですって言ってるようなものだし……行くしかなさそうだ。
「私が案内します。立てますか?」
「あ、ああ……ありがとう」
オレは差し出されたミリアさんの手を取って立ち上がった。
女の子の手を触ったのって、母さん以外じゃ初めてだ。ずっと卓球漬けの毎日で友達なんていなかったし。
女の子の手って柔らかいんだな……。
「こっちです。ついてきてください」
ミリアさんの後を追って十分ほど歩くと、少し開けた場所に出てきた。
「すげえ……木の上に家とか橋があるのか!」
「エルフは木の上で生活をしているんですよ」
木の上で生活とか大変そうだな。でも、さっきの人たちみたいな身体能力があれば大丈夫なのか?
「結構な人数の住人がいるんだな」
人が何人いるのかは置いとくとして――見かける人の全員が女性だ。それに金髪しかいない。
あと、動きやすい服を選んでいるのか、みんな露出の多い服を着ている。
め、目のやり場にとても困ります……男子高校生には刺激が強すぎる!
けど、ミリアだけはローブを着ているし、武器も弓じゃなくて杖だし、髪も金髪じゃない。そのせいか、かなり浮いている気がする。
「あいつが結界を超えてきたっていう?」
「やーねー……ミリアったら変な人間拾ってきて」
「ただでさえ里の厄介者だっていうのにねぇ」
「これだから呪われた子は……」
どこからか、オレ達の事を話すヒソヒソ声が聞こえてくる。
正直、部活の先輩に陰口を叩かれてる時を思い出して凄く嫌だ。
それに……ミリアが厄介者? 呪われた子? 一体どういう事なんだ?
「ミリアさん……」
「気にしなくて大丈夫ですよ。さあ、私の家はこっちです」
少し無理した笑顔で答えたミリアさんは、里から少し離れた所にある小屋に案内してくれた。
なんでこんな離れた所に……しかもボロボロだし、この小屋だけ木の上に建っていない。
中に通してもらうと、中もボロボロで、家具も必要最低限の物しかない。それと、電化製品の類が一切置いてなかった。
「今火をつけるので待っててくださいね」
ミリアさんは壁掛けのランプを手に取ると、スッと綺麗な真紅色の目を閉じる。
すると、ランプは淡い光に包まれて――気づいた時には、ランプに灯がともっていた。
「え……? 今のどうやったんですか?」
「魔法ですよ? かなり簡単なものですけど……」
魔法? それってあの魔法? そんなものがこの世にあるわけないだろう。
「魔法なんてあるはずないでしょう? 手品の間違いでは?」
「テジナというのはわかりませんが、魔法は才能があれば誰でも出来るものですよ」
馬鹿な、魔法なんて非科学的な物があるはずないだろう……少し前までのオレなら確実にそう答えていた。
けれど、本当は気づいていた。
いや、気付いていないフリをして、ミリアさん達はコスプレをした変人集団で、今目の前の事象も手品って誤魔化していたんだ。
現実でそんな事が起こるはずがないと思っていたから。
目が覚めたら別の場所。
エルフやモンスター、魔法の存在。
オレの持つ、常識を超えた威力を持った、意味不明なラケットとピンポン玉。
信じられないけど、多分……いや、間違いない。
オレは異世界に来てしまったんだ――
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