第4話 ミリアさんの家に招待されました
ミリアさんの家に通されたオレは、ボロボロの木製の椅子に腰を下ろした。
それにしても、まだ確定してないとはいえ、まさかオレが異世界に来ちまったなんて。
とはいえ、起きてしまった事はどうしようもない。ミリアさんに出会えた事と、言葉が通じる事を幸運と思うしかない。
そういえば、なんで言葉は通じるんだ?
転移する際に神様からそういう能力は与えられるってのはよくあるけど、今回もそのパターンなんだろうか。
「汚い家でごめんなさい」
「いえいえそんな。むしろ置いてくれてありがとうございます、ミリアさん」
まじで雨風凌げるだけでもありがたいんだよな。
「なら良かった……あっ、敬語もさん付けもしなくて大丈夫ですよ。なんか使われ慣れてないからか、くすぐったくて」
「あっわかり……ごほん、わかったよミリア。ミリアも使わなくて大丈夫だぞ」
「私はこっちの方が使い慣れてるので。お気遣いありがとうございます」
ミリアさん……いや、ミリアは優しく微笑みながら言うと、オレの対面に腰を下ろした。微笑み超可愛い。
「ソラさん、もう一度聞きますが……あなたはどこから来たんですか?」
「えっと……日本って国から来たんだ」
オレは正直に答える。
「ニホン……知らない所ですね」
「そっか。そこで事故にあいかけたんだけど……気づいたらあの森に倒れてたんだ」
「事故?」
「車に轢かれかけたんだよ。いや、轢かれたの方が正しいのか……?」
「クルマ??」
ミリアは日本も車も本当に知らないようで、キョトンとした顔をしている。
伝わらないって事は、やっぱりここは異世界なんだろう。とぼけてる可能性もあるけど。
「私、森の外に出た事が無いんです」
「そうなのか?」
「はい。エルフは一生を森の中で過ごすのが殆どなんです。極稀に外に出ていったエルフもいるそうですが……」
こんな森の中で一生を終えるのか。オレならそんなの嫌だな。
けど、最初からそう教わっていたら疑問に思わないのかもしれない。
「だから、ニホンやクルマの事も知らないんです。ソラさん、よかったら色々お話を聞かせてもらえませんか?」
「それはいいけど、面白くないかもしれないぞ」
「大丈夫です! 私、外にすごく興味があるんです!」
ミリアは目を輝かせながら少しだけ身を乗り出す。ワクワクしている顔もめっちゃ可愛い。
ここまで期待されてるんだし、オレの知っている事を話すか……と言っても、オレは卓球バカだから、卓球以外だと本当に話す事が限られちゃうけどな。
そんな事を思いつつ、オレはミリアに色々話し始めた。
卓球の事は勿論、学校に行ってる事や街並み、車の事など……なるべくかみ砕いてわかりやすく伝えると、ミリアは終始楽しそうに頷いていた。
「すごい……外にはそんな世界があるなんて……!」
「あーいや、外の世界とは多分違うと思うぞ」
「そうなんですか?」
だって異世界だしな。この森を出た所で同じ世界が広がってるとは思えない。
「そんなに興味があるなら、外に出ればいいんじゃないか? 少ないけど、外に出たエルフもいるんだろ?」
「はい……けど、外に出ると二度と森には帰れません。それに私、グズでノロマだし……呪われてるから……」
呪われている。さっきも誰かが陰口で言ってたけど……どういう事なんだろう。
「……ソラさんは聞かないんですか?」
「呪われてるって事を?」
「はい」
「辛そうな話っぽいからな。ミリアが聞いて欲しいならいくらでも聞くよ」
ここでその話なに!? なんて聞く程オレは図太くないし無神経でもない。どう考えても良い話じゃなさそうだから尚更だ。
「優しいですね」
「そうかな」
「凄く優しいです。その……聞いてもらえますか?」
「ミリアが聞いて欲しいなら」
小さく頷いて見せると、ミリアは少し悲しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。エルフという種族は、普通は金髪で生まれてくるんです。それに、弓術の才能を持ってるんです。けど……私の髪は見ての通り銀色。それに弓の才能は全くなくて、少しだけ魔法の才能があるんです」
言われてみれば確かに他のエルフはみんな金髪だったな。日本人が黒が多いっていうのと同じなのか? まあ茶髪もいるけど。
「こんな見た目と才能だから、里の皆には気持ち悪い、弓が出来ないエルフの面汚し、役立たずの穀潰し、呪われてるって……」
「ミリア……」
「そんな悲しそうな顔しないでください。私は大丈夫ですから。不思議ですね……最初は不審者って思ってたのに、ソラさんには何でも話せちゃう気がします」
髪先を指でクルクルするミリアの笑顔は凄く辛そうで……オレには無理して笑っているように見えた。
「嫌われてても……私はこの生まれ育った里も、エルフのみんなも好きなんです。だから、外に行くのをためらっちゃって」
「そうだったんだな。無神経な事を言ってごめん」
「いえそんな! 私は大丈夫です!」
こう言っちゃなんだけど、気丈に振舞ってるのが丸わかりだ。
それに、才能に恵まれてなかったり、周りから嫌われてるって所が他人事とは思えない。そのせいか、ミリアに悪口を言う連中に腹が立って仕方なかった。
その後も、ミリアから沢山の話を聞いた。
自分には魔法の才があるけど大した魔法は使えないから、あのオオカミと戦えなかった事。
エルフは女しか生まれないため、外から強い男を連れてきて子孫を残すという事。
里長は最強の戦士が務める決まりで、今はリリアーダさんが里長をしているという事。
これは強ければ誰でもなれるそうで、エルフ達の賛成があれば外部の人間でもなれるらしい。
そして、里長の命令は絶対である事。
色々聞いて里の情報は手に入ったけど、結局なんでオレが里に通されたかはわからないな。
そんな話をしている間に、気付いたら外はもう真っ暗になっていた。
「もうこんな時間ですね。ご飯の準備をするので待っていてください」
そう言うと、ミリアは部屋の隅に備えてある小さなキッチンへと歩いていった。
キッチンもボロボロだ。かまどのような物と鍋、あとは包丁とまな板くらいしかない。
「あ……火がついた」
「これも魔法なんですよ」
すげえな。マッチとか使わずに火をつけられるなんて、やっぱり魔法なんだな。
しばらくキッチンに立つミリアを眺めていると、彼女は温めていた鍋からスープのような物を皿に移して持ってきてくれた。
「ごめんなさい、余り物しか無くて……」
「いや、むしろごはんまでありがとう。お腹空いていたんだ」
木製の皿の中には、コンソメスープのような見た目の液体が入っている。
異世界の料理か……食っても拒絶反応とか起こらないよな?
「じゃあ……いただきます」
オレは木製のスプーンを使ってスープを口に運ぶ。
「…………」
おいしいと言えるものでは無かった。薄味だし具も少ないから食べ応えがない。
けど、母さんが死んでから殆ど食べなかった手作りの料理だからなのか、食事をして緊張の糸が切れたのか――オレの目から涙が流れ落ちた。
「え、ごめんなさい不味かったですか!?」
「ごめん、そうじゃない……オレもよくわからないんだ……」
オレは自分の涙の原因がわからないまま、気付いたらスープを完食していた。
「ごちそうさま。ありがとうミリア」
「いえいえ。お粗末様でした」
腹が多少膨れたからか、急に強烈な睡魔が襲ってきた。
今日は色々ありすぎたからな……めちゃくちゃ眠い。
「はふ……私も眠くなってきました。そろそろ休みましょうか」
ミリアは可愛らしい欠伸をしながら提案する。
寝るのは大賛成なんだけど、この家にはベッドは一つしかない。
仕方ない、オレは床で寝るか。
「ソラさんがベッド使って良いですよ」
「ちょっと待て。それだとミリアはどこで寝るんだ?」
「床で寝るに決まってるじゃないですか」
何を言い出すんだミリアは? 女の子を床に寝かせるとかあり得ないだろ! なんとか言い聞かせてミリアをベッドに寝かせないと!
「家主がベッドを使わないとかおかしいだろ」
「客人を床に寝かせる方がおかしいです」
「……女の子は体を冷やしちゃダメだろ」
「男の子だって冷やしちゃダメです」
くっ……なんて言えばミリアに納得してもらえるんだ。こんな時に気を利かせたセリフなんて持ち合わせていないんだよ!
オレが頭を悩ませていると、ミリアはとんでもない事を言い出した。
「それなら……一緒にベッドで寝れば解決ですね!」
……は???
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