幼い双子とボトルメール
バルバルさん
こうして双子は、手紙を出した。
「王子さまは、小さな小瓶に手紙を入れて流しました。」
フルドの森にある、小川の近くの一軒家。その内部にある暖かい暖炉の傍で、双子の兄妹に母親が物語を読んでいた。
この双子、見た目は幼い人間の様だが、人間には無い特徴がある。
男児の方は、獣の耳が頭にくっついていてふさふさの尻尾もある。
女児の方は、背中に天使のような翼が一対。そして目には不思議な輝きが宿っている。
その二人に物語を読む母親にも獣のような耳が付き、その近くで優しく双子を見守る父親の背には、大きな翼が。
そう、この双子は天使と獣人の間に生まれた双子なのだ。
「小さな小瓶は、ゆっくりと小川を流れていきます。ゆっくり、ゆっくり」
母親が歌うように奏でる物語を、夢中になって聞いている双子の兄妹。
だが夜も更けてきた。そろそろ寝る時間だと見守っていた父親が、双子を抱きかかえる。
「ほら。ママの話をずっと聞くのもいいが、もうそろそろ寝る時間だぞ」
「えーまだ聞きたい」
「聞きたいよー」
双子は駄々をこねるが、母親もパタンと本を閉じて。
「今日はここで終わり。さ、一緒に寝ましょう」
「ぶー」
「むー」
「あはは。二人ともママの読む物語が大好きだな」
父親は笑いながらも、両脇に抱き抱えた双子を連れ、ベッドのある部屋へ。
母親もその後ろをついていき、ベッドに双子を寝かせる。
「明日、ちゃんと続きを読んであげる。だからね」
「むー。絶対?」
「ええ。ママは嘘つかないわ」
「むー。分かった。ママは嘘つかないもの。寝るー」
「寝るー」
父と母の間で、ゆっくりと夢の中へと落ちていく双子。
その体を、頭を撫でながら。
「ほら見ろよリリー。安心しきって寝てるぜ」
「うん」
「だからあの時言っただろ。ちび二人は幸せなんだよ」
「うん」
「だから、そんな罪悪感で死にそうな顔すんじゃねぇよ」
母親は子供二人を見て、何か辛そうな、我慢するような表情をしている。
それを心配げに見つめる父親は。双子が完全に寝たのを確認し、母親の、妻の頭を撫でてやる。
「お前は、生まれるべくして生まれて、こうして生きるべくして生きてる。それは、このちびたちも同じ」
「わかってる。でも」
「でももへったくれもない。リリー。お前を失敗作だと神のジジイが言うなら、俺は何万回でも違うって言うし、何万回でも同じ選択をするぜ」
「……ふふ、本当に貴方は」
「不良だが、天使だからな」
こうして軽く笑い合い、二人もゆっくりと目を閉じ、双子を守りながら眠りについた。
◇
遥かなる神は、かつて完全なる生命を目指して、天使と獣人を作りました。
天使のオリジナルは完全なる生命として成功作でしたが、獣人のオリジナルは失敗作でした。
神は天使を量産し、獣人はそのオリジナル以外作らずに幽閉しました。
天使のオリジナルはその獣人を哀れみました。そして、天使の一体をあえて不完全な存在に作り、獣人のオリジナルの話し相手として引き合わせてみました。
せめて獣人のオリジナル、リリーが寂しくないように。
ですが、ここで予想外なことに、不完全な天使は、リリーを深く、深く好いてしまったのです。
そして、リリーと不完全な天使は、その世界から……
◇
ある日の川のほとり。双子は魚釣りを楽しんでいた。
今日のご飯のおかずになるのかな?
それとも、飼ってみようかな?
なんて話しながら。
だが今日は不漁なのか、全く魚がかからず、双子は退屈し始める。
「にぃに」
「なんだよ」
「魚つれないね」
「うん」
暫くして、妹が思いついたように。
「そうだ。にぃに、手紙書こうよ」
「え? なんで」
「昨日、ママが王子様が手紙をボトルに入れて流すって言ってたでしょ?その真似をするの」
「んー。それは面白そう!」
「もしかしたら、誰かが読んでくれるかも!」
「じゃあ、紙は僕が用意するから、ボトル探してきて!」
「わかった!」
こうして、幼い双子は紙とボトルを用意しました。
そしてしばらくして、手紙が書きあがる。
~~
初めまして! ぼくはヴォル。
初めまして! わたしはヒュール。
ぼくたちは双子なんだ。美味しい物。楽しい事。何か怒られる時なんかも、いっつも二等分してるんだぜ。
わたしは泣き虫だから、いっつもにぃにの陰に隠れちゃうんだけど、わたしのほうがお勉強はできるんだよ?
ぼくはママ譲りの耳と尻尾を持ってるんだ。かっこいいんだぜ?
わたしはパパ譲りの大きな羽があるんだよ。でも、まだ飛べないんだ。
パパが言うには、世界はとっても広いらしいけど、ぼくたちはまだ家の周りの事しか知らないんだ。
ママはね、一杯お話を知っているんだ。いつも聞かせてくれて、楽しいし、面白いんだよ?
いつか、この手紙を拾った誰かと会いたいな。
わたしも。お友達ができたら、一杯しゃべりたいの!
じゃあね! このボトルを拾った誰かへ。ヴォルより。
じゃあね! このボトルを拾った誰かへ。ヒュールより。
~~
そして、手紙に自分たちの似顔絵を描き、ボトルに詰めた。
決して上手な絵ではないが、自分たちの特徴はしっかりと書かれている。
そして、二人はボトルを川へと投げ入れた。
そのボトルは、ゆっくり、ゆっくりと川を流れていく。
「誰が読んでくれるのかな。楽しみだねー」
「だねー」
さてさて。彼らのお話はこれにて、一旦おしまい。
双子のお手紙が、誰の手に渡るのか?
それを知るのは、神であろうか。それとも……
幼い双子とボトルメール バルバルさん @balbalsan
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