第2話 みんな、どこに向かっているの?

2019年4月4日。雨のち晴れ。

魚の群衆がみな同じ方向に進んでいる。どこに向かっているのだろう。

目的地はあるのだろうか。

白黒模様、黄色と様々な魚が私を見る間もなく通り過ぎていく。

同じ種類で同じ色の魚だと、こうも目で追う事はしないと思う。人間でも同じだ。男性同士、女性同士で歩いていてもなんとも思わない。男性と女性が肩を並べて歩いていると、ふと見てしまう。

嫉妬だろうか…。いや違う。

そんな事を考えていると…何処となく声が聞こえてきた。

??? 『泣いているの?』

私は驚いた。

何故なら私は泣いている……水中で。

川か海かは、私自身分からない。

でも周りに魚がいるんだから、きっと水の中に違いない。

だから驚いた。地上で泣いても誰にも声をかけられず、手を差し伸べられるず…気づいてすら貰えない。そんな私を水中で声をかけてくれている。

水の中で泣いている人を見た事があるだろうか…水の中でハッキリと声が聴こえるだろうか。

そんな中で私に質問する。


??? 『どうして泣いてるの?』


『分からない…けど泣かないと落ちてしまいそうになるの。』


???『落ちてしまったらいけないの?』


『ううん、落ちてしまいたいけれどもう少しゆっくり落ちたいの…』


???『そっか、でもねその願いは叶えられないよ。』


『どうして?私の邪魔をするの?』


???『そうだよ、邪魔をする。落ちてしまいたい貴女に邪魔をする。』


『分かった…いいよ、邪魔をしても…。そんな扱い慣れているから…』

そう言い残し、私は目を閉じ思い出す。


死んだ魚の様な目をしているね。

そう言われた…。

案山子の足を折っているかのようなその発言に私は笑顔でこう答えていた。

『眠たかったんだ。』

本当は眠たくなんてない。普通の目をしていたつもり。

それ程私は醜く滑稽な目をしていたのだろうか。

生きてもいなければ人でもない。

そんな目をしている私は一体。

私は何者か。

私は誰だ。

私は。私は。私は。私は。私は。私は。


???『役目が果たせたようね…。貴女は貴女よ。誰かに何を言われようと貴女は貴女。でも、日々変化している。目に生気が無かろうと。貴女は生きている。貴女は、強いわ。昨日の貴女より、今の貴女の方が強い。だけど、明日の貴女はもっと強くなっているわ。

だって、自分の痛みを知っているんだもの。

貴女を馬鹿にするような事を言う人は自分の痛みを知らないの。だから、平気で酷い言葉を吐けるの。

例え、比喩だからと関係ない。人によって言葉の重みは違っても、同じ刃なのには変わりない。』


『私が君みたいに、水中で泣いている人の涙に気づける人間になれるかしら。』


???『心配しなくても、もうなっているわ。自分の涙に気づいてあげられた貴女は、人の涙も見えるわ。それに貴女は……。』


私は目を開けた。

自分の部屋のベットに横たわっている。

夢を見ていたのだろうか。

涙は出ていない。

だけど、ほんのり潮の香りが身体から鼻に押し寄せる。

窓に目をやると曇った雲から陽の灯りが刺す。窓を開けるとアスファルトの匂いが部屋に立ち篭る。

そして、私は背と手を高く伸ばしこう囁く。

『私は私だ…!』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青生 苦ヲ @kuwo_90

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ