22.瞬殺とパワレベ
単独撃破するまでもない。倒しやすいように3人纏まってくれているのだから。
職構成は……全員アタッカー。近接が2人、遠隔が1人。何故か遠隔も後ろに下がらず横並びだ。
倒されるためにやってきたのか、とスラストは同業者として溜息をつく。
「こういう雑魚がいるから、辻斬りPKの質が下がって肩身がどんどん狭くなるんだよ。なあ?ストロベリィ……ってクッソ遠い。賢く逃げたな」
ストロベリィ・ピンクは知らない間に視界の外へた逃れていた。構わない。いても足手まといになるだけだし、死なれてもリスポーン地点まで迎えに行くのが面倒だから逃げて正解だ。
「3人でかかってくるとか恥ずかしくないのかよ」
「PKが何人とか関係ないだろ。犯罪者ロールプレイしてる奴にいちいち突っ込む方が──」
言い終える前に、既に詠唱を終えていたスラストの槍が後衛アタッカーの身体を刺し貫いた。HPの減り具合を確認する前に逃げられないように範囲で移動速度減少スキルを放ち、そこから対多数のコンボを撃てば、コンボの途中にはもう全滅していた。
「3人がかりで返り討ちに遭うとかチュートリアルからやり直せ! 俺を倒したいなら10人は連れてこい!」
死体の上で飛び跳ねながら、襲撃者を煽り散らす。PKが悪いのではない。弱いのが悪いのだ。
「なんか俺殺した時と似た構図」
「親の顔より見た死体蹴り」
聞き慣れた茶化しの声にスラストが振り向けば、革命的敗北主義者とパインキラーが遠巻きに眺めていた。
「正当防衛だ。か弱い姫職を血祭りに上げようとしたんだから当然の報いだろ」
とっくに消えたPKer達の残骸の辺りを眺めてスラストは言った。
「ていうかさ、その服装なんだ? 遂にSS勢デビューかそうかそうかよかったな」
「なんでちょっとイラついてんだ? お? そういうのはリアルで2日に1回は風呂入ってから言ってください」
元々スラストはキャラクターの服装には気を遣っている方だった。革命的敗北主義者は裏切りだとばかりに糾弾してくるが、元々的外れとしか言いようがない。
「敗北者さん毎日風呂入ってないってマジなのですか?」
「この時期風呂いらないだろ。はい終わり終わり。ピンクのおっさんは?」
革命的敗北主義者の風呂事情に首を傾げつつ、ゲーム外VCでストロベリィ・ピンクに通話をかける。
『もう殺したぞ。戻ってこい』
『は〜い』
洞窟の入り口からふよふよと浮かんで戻ってきたことで、スラストもディーバに戻る。
「ディーバって強いんか? 弱そう」
「強えよ。バフの性能がぶっ壊れ。タイマンは雑魚中の雑魚だけど工夫すればできないこともない」
「タイマンできなさそうならパス。俺タイマンしかしないし。レベルアップ報酬だけもらって封印確定」
「Vanguard入ったしちょっと触ってみようかな。集団強いなら」
革命的敗北主義者はパス、パインキラーは興味を持った。しかしディーバの解放クエストをやっていないのでは仕方ないのでさっさとやるように言った。
「パワレベすればいいんだよな。じゃあ適当に狩ればいいか」
印を結び出すと、レベルの低いディーバの2人はそそくさと避けて戦闘を見守った。
流石に革命的敗北主義者のレベルでは一撃である。この辺りでは持て余すので、洞窟の最奥で狩ることになった。
いくら初心者用の惑星とはいえ、洞窟の最深部ともなればそれなりに要求水準は上がる。スラストも攻撃を食らったら死ぬくらいだ。
溶岩が煮えたぎる洞窟の中で、安全な場所に陣取ってパワレベをする一行の姿は随分とおかしく見えた。
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