17.濃度の低い勝利

予想通り順調に勝ち上がる4人。拍子抜けとも思えるほどの手応えのなさに半分呆れながらも次で決勝だ。


「これで勝ったらこのゲーム全一……って、ちょっと手応えなさすぎないか」

パインキラーは休憩時間にこぼした。


「全一が全員出てるわけじゃねえから。俺がたまたま三冠になりたかっただけ。つか大会とか大体こうだぞマジで」

実際、偶然利害が一致してこの場に立ってはいるものの、固定でパーティーを組んでいる他のプレイヤーもゲームプレイ的には利がないためほとんど出ない。

ちなみに三冠という名称はない。スラストがこれから名乗る予定だが、大会自体が今までなかったのだから当然だろう。



休憩時間を終えていよいよ決勝。

公式から配信されている闘技大会だが、決勝だけ見るというプレイヤーも多い。


スラストは正面に現れた相手の四人に目をやって身定めた。


ああ、会ったことはないが知っている。

格闘ゲーム界隈では割と有名なストリーマーだ。

その辺りも嗜んでいるスラストにとっては知った名で、このゲームでも名を馳せているということもフォーラムで見ていた。


フォーラムでは上の方の評価だが、ゲーム歴が短く格上との戦闘経験は乏しいとみえる。同格との戦闘は確かに純然たる強さをあらわすものだ。が、このゲームは格闘ゲームでもシューティングゲームでもレーシングゲームでもない。


Time to WinのMMORPGだ。

理不尽で、人生を破壊し、民度は最低、ストーリーは分かり辛く、要求されるマシンスペックが高い混沌のゲームだ。

このゲームを続けている限り、勝てない道理はない。


スラストは折角最後の勝負だからと嬲り殺しにするつもりである。革命的敗北主義者はそんなスラストの様子を見ていつも通り呆れ、パインキラーとストロベリィ・ピンクは息をついて真剣に試合に臨んだ。


試合開始の電子音と共にスラストは布陣など全く気にせずに勢いのままに移動スキルを放った。敵に一斉にクラウドコントロールがかかり、範囲攻撃のコンボを撃った。

範囲攻撃は単体攻撃よりも攻撃力が低く、職自体火力があまり出ないロイヤルナイトでは殺し切るには程遠い。起き上がる寸前で味方の方へ駆け出し、そこでやっと布陣を組む……かと思えばまた飛び出した。


予め決めておいた作戦とは全然違う、アタッカーのような動きで敵の中央に突っ込んでいくスラストを見て、革命的敗北主義者はVCで叫ぶ。


「大丈夫かスラスト! オリチャー爆走を決勝でおっぱじめるのかよ!?」

「うっせーぞモンカス! 俺は盾最強だからよォ!」

意味不明な言い訳をかましながらも縦横無尽に闘技場を跳び回るスラストは、決勝だから気合を入れるというより、決勝だから気を抜いているという方が正しいように見えた。


「スラストくん、えっ、待っ……ぅわ!」

ストロベリィ・ピンクの護衛騎士がすっ飛んでいってしまい、無防備になった妖精の占い師に向かっていった敵アタッカー2人は、手裏剣で硬直したところを盾で押しつぶされて死んだ。


残るはタンクとヒーラーか。


「タンクは俺がタイマンで甚振って殺すからよ、ヒーラーはさっさと殺っちまっていいぞ」

相手のパラディンはロングソードと丸盾を構えて健気にもカウンターを狙ってくるが、させない。小細工無しの正面突破で相手の巧みなガードを貫通させ、一気に撃破した。


ヒーラーは既に3人が撃破しており、決勝の勝敗は一瞬で決まった。


「これで2個目の栄冠か。ま、あと1個は確定だしフォーラムで俺の健闘を称えてくれたまえ、観客の諸君」

4人はエモートをいろいろと繰り出してアピールした。スラストは素直じゃないので寝るエモートをしていたが、この後は長々と自分の活躍を方々に語り散らすということは、知り合いのほとんどが予想していた。

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