14.対戦相手
集団戦の前準備の時に人が引っ掛かっていた猿山の頂上、そこには今、上を向いた魚頭の被り物をした半裸の男性キャラクター──しかも半裸──が腕を組んで仁王立ちしていた。
そこに現れた女性キャラクターが2人。
背の高いサイバネティック・エルフの女性が、若干引き気味のドライアドの少女を連れて魚頭のスペースノイドを見上げている。
「ユキカゼさん、こっちが加入希望のパインキラーさんです」
「あれがユキカゼさん、なんだ……見た目……」
猿山の岩肌を登りながら、不審者に近い格好をした男性に話しかけるサイバネティック・エルフの女性──スラストは少し遅れて登っているドライアドのパインキラーにVanguardのマスターを紹介した。
「あ、パインキラーさんはじめまして! Vanguardマスターのユキカゼと申します。スラストさんの紹介ですよね?」
魚頭の男、ユキカゼは奇怪な外見からは想像もつかないやけに爽やかな声で自己紹介をし、パインキラーもつられてお辞儀エモートをした。
「じゃあまあ、ざっと紹介しておくね。スラストさんにもう説明したって言われたんだけど、一応。演習と集団戦は自由参加です。もちろん参加してもらった方がいいですけどね。欠席が続くようだと席はなくなるんでそこだけ注意です。うちはやる気重視なので! 情報漏洩とかなければ言動も自由です。PKも……スラストさんいるんでわかると思うんですけど、制限はないです。それくらいかな」
頷くパインキラーに飽き始めてきたスラスト。特に規約といった規約もないが、アクティブ率維持のために
「審査あるって聞いたんですけど、それはどんな感じなんですか?」
「あー、うんありますね。次、パーティー戦で戦うじゃないですか? それで審査の代用ということで」
スラストとパインキラーの動きが止まる。パーティー戦の第1回目の対戦相手は誰だったか。2人も話半分に聞いていたため、おぼろげにしか覚えていなかった。
「第1回戦で当たるんですか!?」
「そうですね。洛叉さんとも一緒に組んでますよ」
「洛叉? タンクあいつなんですか」
「……頑張ります」
それは負けてはいられないとばかりに語気が強まるパインキラーだったが、別に勝つ必要はない。もちろん負けるつもりは毛頭もなかったが、よっぽど酷い戦いをしなければギルド加入を拒否られることはまずないということをスラストは知っている。
「それじゃ、次会う時はパーティー戦で! 終わったら契約するんで、また来てくれると助かります」
互いに手を振るエモートをして別れの挨拶をすると、猿山から降りる。
パーティー戦まで昼寝をするというパインキラーはその場でログアウトし、1人になったスラストはどうやって暇を持て余そうか考えた。
「それで、俺を呼んだってわけね」
「パーティー戦までマジで暇だし、お前と当たるって聞いたから」
固定のメンバーと集まっていた場所とは違う、イベント会場内の飲食スペースの長椅子に寝転がりながら、スラストは洛叉と話していた。
「1回戦は俺の勝利確定だな」
「ワンマンじゃないんだから、まだ決まったわけじゃないだろ。ヒーラーがエンジョイ勢とか言ってなかったか?」
相手の盾が自分より格下の洛叉なら勝てると見込み、余裕といったふうに上から目線で喋りだすスラストだったが、ヒーラーのストロベリィ・ピンクがエンジョイ勢というのは事実だ。
「うちのヒーラーは強いぞ。昨日の集団戦で俺もお前も瀕死から持ち直して貰ってるし、めちゃくちゃ世話になってると思う」
「零夜とかいうハイプリーステスだろ? 俺が前いた時はいなかったよな。装備強えし地雷まみれのヒーラーの中では相当マシだわな」
「2ヶ月前に入った人なんだ。Dii Consentesから引き抜いてきたら、めっちゃ有能で。VCは聞き専なんだけど女の人って噂もある」
零夜という名前にはスラストも聞き覚えがある。ハイプリーステスの板では結構な有名人で、全一候補にもノミネートされていたほどだ。
「で、零夜、お前、ユキカゼときて近接アタッカーは誰なんだ」
「近接は古参のアータルさん」
「ああ。強いな。昔ボコられたことがある。すぐにボコし返してやったがよ」
アータルはVanguardの創設メンバーでもある侍だ。スラストが初心者の頃は叩き潰されたものだが、今では勝てない相手ではない。
「万全の布陣だ。まあ、決勝で会おうができないのはちょっと残念かな」
「悪役みたいなこと言ってんねえ。束になっても俺には勝てねえよ。仲間がエンジョイ勢だろうが関係ねえから」
絶対的な自信を持って語るスラストの話を聞きながら、どっちが悪役だと洛叉は思った。パーティー戦は1人が欠ければ崩れて負けが確定するというのに。こっちは歴戦のプレイヤーで固めている。スラストには負け越しているが、洛叉もロイヤルナイトの格付けでは上位に来ている方だ。
だがスラストがトッププレイヤーの中でも圧倒的に強いのは事実。アタッカーの2人もそれなりに上手いと聞くし、勝敗はその時になるまでわからないだろう。
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