13.数時間の休息
翌朝、公式フォーラム掲示板のロイヤルナイト板をチェックして自分の名前を探すスラストは、ある書き込みを見て満面の笑みになった。
『スラストVanguard入ったらしい。昨日いたけど化け物だった』
『193キル0デスだろ? チート使ってんのか疑うレベルで強い。やっぱ全一はスラストで決まりだろ』
民度下がるだの、装備だけだの色々と他にも言われていたが、雑魚の戯言なのでどうでもいい。
昨日は3時間休憩なしで戦い続けていたが、今日も四対四のパーティー戦がある。イベント惑星でストロベリィ・ピンク、革命的敗北主義者、それからパインキラーと会って打ち合わせをすることになっていた。
スラストは自他ともに認める戦闘狂ではあったが、昨日の今日では流石に疲れているし、打ち上げならともかく打ち合わせは非常に面倒だ。現在時刻11時25分、パーティー戦は集団戦と同じ20時開始である。8時間以上前から打ち合わせをしてどうするつもりなのだろうか。
スラストがゲームにログインし、イベント惑星に到着すると、他のメンバーは既に集まっていた。場所は会場のカフェテリアのようなスペースだ。中央に近い円形のテーブルを囲んで、3人が思い思いの椅子に座ってこちらに手を振る。
「……お待たせ」
「お疲れさま! 声元気ないよーっ」
ストロベリィ・ピンクがキラキラ光る粉の軌跡を描きながら、スラストの周りを飛び回る。
「お、ヴァンガ期待の新人登場」
「スラストさん超元気なさそう」
あとの2人は茶化し気味に言った。Vanguardに加入したことがもう知られていてスラストは微妙に気恥ずかしくなったが、円形の机の横に並べられた椅子の一つに腰掛けて本題を切り出す。
「8時間も前に集めて一体何話すんだ」
「いや、ぶっ通しで話すわけじゃない。そんなに会話のレパートリーがないからな。まあ、直前になって話すよりいいかと思って今説明しようってことになってる。土日だしな」
「なるほどな。じゃあすぐ終わるのか」
「そういうこと。皆把握してそうな気もするけど、ルールっていうより今回は闘技大会そのものの説明だな。ちゃんと公式サイト見てなさそうなんで、改めて俺から解説させてもらうってわけだ。特にスラスト」
「確かに当たっているが、それはちょっと偏見が過ぎるだろ」
スラストは不服そうに抗議したが、事実公式サイトは流し読みしてすぐに読む気をなくしていた。
そもそも、パーティー戦は王道から外れると負けだ。盾職が守り、アタッカー2人が攻撃し、ヒーラーが回復する。その枠組みから外れない中でダメージ量を増やすゲームとして成り立っている。PvEのインスタンスダンジョンのパーティー4人構成をPvPに落とし込んだのがパーティー戦なので、ルールも相手の全滅で勝利といったようにシンプルだ。
「20時からスタート、始まる時にイベント惑星内にいることが条件。ここまではいいな? トーナメント戦だから遅刻すると3人で戦うことになって詰む。1戦2分弱で終わるだろうから遅くとも21時までには終わると思う。普通に戦っていればいいがスラストの前方には出るなよ、死ぬから」
革命的敗北主義者の話を聞く3人。
「じゃ、解散ってことで! イベント惑星入ると回線とか不安定になるから、余裕持った時間で頼む」
各々適当に返事をしてその場は解散ということになったが、誰も特に行く所がないのか4人とも椅子に腰掛けたままだった。
「Vanguardってどうなんです? 雰囲気とかどんな感じ」
パインキラーがスラストに話題を振る。そういえばこいつはギルドとか固定とかに入りたがっていたんだったとスラストは思い出した。
「民度は高くはないけど無法地帯っていうほどじゃないな。人が多いからグループで纏まってるところはあるかもしれない。審査あるけど、素行とか不問で、装備整っててやる気あればいけるよ。あと紹介あると入りやすくなる。演習週2、集団戦が週3」
「すげえ拘束時間だよな。疲れて抜ける奴が多いのもわかる」
「大変なんだねえ」
Vanguardは集団戦ギルドの中でもトップの地位を保つため、練習時間をとる方だ。それでも決着が付かなかったり、複数ギルドに攻撃を受けて負けたりすることの方が勝利よりも断然多いというのだから、集団戦はシビアで疲れるコンテンツと言われているのだった。
「演習が週2で、集団戦が週3!?」
パインキラーは拘束時間の多さに仰天したが、レベルの高い集団戦ギルドなんて大体こんなものだと聞いているので、加入への意欲を見せた。スラストは気分次第で出られる特別待遇なのが癪に触るが、強いのだから仕方のない話だ。
「もう加入申請送っておいたから。マスター、近くにいるしいっぺん会うぞ」
「早っ。俺が固定入る時にはあんだけ文句言ってたのに……」
「うるせえな。じゃあ動物園エリアの猿山行くぞ」
水色のおさげで顔にそばかすのある、素朴な村娘といった風体のサイバネティック・エルフは勢いよく椅子から立ち上がると、可愛らしいドライアドの少女を引き連れてカフェテリアから出て動物園コーナーへと向かった。
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