4.装備更新

試練の迷宮に突入する。


スラスト、ストロベリィ・ピンク、革命的敗北主義者、それにパインキラーの四人は先程のエレベーターホールのような空間からエレベーターに乗り込む。間も無く扉が閉まり、かなりの速度で景色が変わりながら下降していった。

体感があるわけではない。所詮はVRだ。

スクロールと薬品と食事でバフをかけながら無言で降りていく一行。

エレベーターの速度が遅くなり、もうすぐ着くだろうという時に、ヒーラーの占い師であるストロベリィ・ピンクが水晶玉を青色に光らせて他メンバーに次々とバフを掛けた。

全てのバフがかけ終わったちょうどその時、目当ての階層に到着する。


試練の迷宮、第10000階層。

白い石造りの朽ちかけた神殿が積み重なっている。空もまた白く、地平線の彼方まで同じ光景が続くため、この景色がどこまで続くのかわからなくさせた。


「親の顔より見た景色」

「もっと親の顔見ろ」

スラストと革命的敗北主義者が決まりきったやり取りをし、その合図に全員が武器を構えて陣形を組んだ。


スラストは突撃槍と盾を構え、最前へ。

革命的敗北主義者は脇差を、パインキラーは長弓をそれぞれ持って中央へ立つ。

ストロベリィ・ピンクは水晶玉を小さな掌に浮かべてアタッカー二人の間でふよふよと飛翔した。



白すぎる廃墟群を進み出してまもなく、半球型に組み合わさった無数の手に眼球がびっしりと付いているMOBが数体、一行の目の前に現れた。

プラスター・イーブルアイ。

見た目はおぞましいが、数週すればすっかり慣れる。10000階層以降の頻出MOBだった。


「イーブルアイ何匹か釣っていくわ」

スラストがプラスター・イーブルアイ達の前を通り過ぎると、プラスター・イーブルアイはMOBの習性で追いかける。

スラストは少し先にいたプラスター・モノアイ───プラスター・イーブルアイと似てはいるが、こちらは幽霊のような丸い体に巨大な一つ目が付いたMOBだ───の集団まで走っていき、その中心で止まる。突撃槍でMOBの群れに突きを入れると、仲間も次々と攻撃を繰り出した。


まず、ストロベリィ・ピンクが広範囲氷結魔法【フリージングダスト】を撃って敵の動きを封じる。

氷結が解除されるまでアタッカー二人は火力の高いスキルを使って殴り続ける。

忍者の革命的敗北主義者は通称おにぎりと呼ばれる印を結んで忍術で多彩な攻撃を仕掛け、フォレストガーディアンのパインキラーは弓術で矢の雨を降らせた。


一グループを倒し終われば次のグループを釣り、凍らせ、殴り、倒す。また次のグループを釣り、凍らせ、殴り、倒す。

そのルーティンを繰り返し、周回を続けた。




「これ何周目だっけ」

「数えてないけど、四時間くらいは経ったと思うっすね」

かなりの時間が経った後、ストロベリィ・ピンクは他のメンバーに進捗を聞いたが、まともな返答を返してきたのはパインキラーだけだった。

ゲーム中には基本黙り込むスラストは聞こえていないようで何も答えない。ただ釣りをして殴るだけの半BOTと化している。革命的敗北主義者はアニメを見ているらしく「わからない」とだけ返事をした。


「試練装備の素材は六割方集まったんで、あと三時間くらいで終わりそうです」

「さ、三時間……」

一日七時間も狩りをしなければいけない事実にうなだれるストロベリィ・ピンク。狩りに慣れている三人は平然とスキルを出し続け、ストロベリィ・ピンクは干からびた表情で凍らせる作業に没頭した。




それから三時間後。


「試練盾入手したし俺の最強度が増した」

「手に入れた素材に『魔龍の眼』を組み合わせて………できた。必要部位の試練装備。でもあの構成には試練装備以外もいる筈だったよな……」

試練の洞窟での目的も果たし、二人とも装備素材が集まったところで、一行は行きとは逆にエレベーターで昇っていた。ストロベリィ・ピンクは想定外の狩りの疲労で無言で酒缶を空ける。


「試練装備以外はどこで入手するんだ……と思うだろ? 俺の方でいらない素材が余ってたから作っておいたぞ。遠慮せず受け取ってくれ」

革命的敗北主義者は、作った装備を自分のバッグからパインキラーにプレゼント機能で送り付けた。決して安価ではない装備を贈られたパインキラーは驚いて訊ねる。


「いらない素材って、これも簡単に入手できるものじゃないのに。いいんですか?」

革命的敗北主義者はひらひら手を振って面倒臭そうに言う。


「どっちにしろ今は要らないから、チームメンバーに送っても罰は当たらないだろ」

「じゃあありがたく受け取っておきます。ありがとう」

パインキラーのことを、スラストと同類のろくでなしかと思っていた革命的敗北主義者は、意外にそうでもなさそうだと評価を改める。


「案外礼儀正しいんだな。スラストなら何も言わないのに」

「いや、スラストさん基準はちょっと」

褒め言葉になっていない褒め言葉をかけられて、パインキラーは苦笑した。



人数も集まり、装備も整えたのであとはエントリーするだけだ。

練習などはあるが、結局相手がどんな構成をしてくるかによるので当てにはならない。

これからは個人で技の精度を高めたり、回線を見直したりすることが重要になる。


個人戦と集団戦の準備も控えているので、四人はしばらく互いに別れを告げることにした。

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