第十二話 クレイジーな来客

 時島家宅。

 二階建てで、外観は洋モダンのデザインとなっている。

 広さは三十坪くらいで、庭はリビングに自然とつながった構造だ。

 ユイはそんな我が家に入ることなく、ただ門の前でじっと立っていた。


「ミツキ帰ってるのかな・・・・・」


 ユイは不安な表情で呟いた。



 ミツキと仲直りがしたい。

 誰から言われたからではなく、自分自身の本心だ。

 しかし、それを実行する勇気が出なかった。

 そのことでずっと悩んでいた。



 自分から動かなければ何も始まらない。


 カオルやマルコから諭されて、一度は勇気が出たものの、目前にして立ち止まってしまった。

 やっぱり怖いのだ。

 ミツキとの和解に失敗して、口を利かない日々になるのが。

 また、振り出しに戻るかもしれないと思うと、どうしても足が竦んでしまう。

 やっと、少しだけ会話ができるようになったと思ったのに_____。

 やっと、少しだけ打ち解けられたと思ったのに_____。



「一体・・・・どうすればいいの・・・・・・」


 ユイは煉瓦造りの門の柱に寄りかかり、その場に座り込んでしまった。

 自分がここまで優柔不断な人間であると、残念に思いながら息を吐く



「あのー、どうなさいましたか?」


 そう呼び掛けられる声が聞こえたので首を捻った。

 三十代くらいの女性が、自分の顔を覗いていたのだ。


「具合でも悪いのですか?」


 そう聞かれたところで、ユイは慌てて立ち上がった。


「い、いえ大丈夫です。お気遣いなさらず」


 と、あたふたしながらも丁寧に言葉を返した。


「そうですか、なら良かった」


 そう言うと女性は優しく微笑み、ゆっくりと立ち上がった。

 高身長で百七十センチはあるだろうか。

 身体も細く、まるでモデルのような体型をしている。

 おまけに美人で、テレビで見るような女優みたいだった。



 ユイは見惚れていると、女性の方からまたしても質問された。


「ところで貴方、確かここ時島さんのお宅ですよね?」

「え?はい、そうですが」

「貴方は時島さんのお知り合いですか?」


 ユイはここまで質問されたところで、その女性に対して不信感を覚えるようになった。



 この女性とは会った記憶はない。

 そうなると母の知り合いか何かなのだろうか。

 だとすれば、海外に出張しているため、会うことはできないのだが。

 ユイはその女性に母の不在を伝えてみることにした。


「母なら仕事で当分帰ってきません」

「母?ということは、貴方が時島ユイさんですか?」

「え?はいそうですが・・・・・」


 ユイはその女性に尚も不信感を持ちながらも、正直に答えた。



「あ、そうですか」


 女性は納得したようで、再び微笑んだ。


「実は貴方にお話ししたいことがあって来たのですが、お時間よろしいですか?」

「お話、ですか?」

「はい」


 女性は頷くと、ユイに右手を翳した。

 ユイはその女性の奇妙な行動に首を傾げた。



 すると、女性の右手から青黒い炎が出現したのだ。

 そして、それはユイ目掛けて発射された。


「ひゃっ」


 ユイは咄嗟に頭を押さえしゃがみ込んだことで、なんとか避けることができた。


「ちょっと避けないでくださいよ」


 女性は不快な表情で、悪びれる様子もなく答える。



「いや、避けるでしょ!何するんですか!」

「何って、記憶操作が本当に効かないのか試しているだけですが」

「記憶操作?何言ってるんですか?」

「あら?覚えてないんですか?それならこっちとしては都合が良いのですが」


 一体何を言っているの、この人は?


 ユイは女性の言動に違和感がするも、自分の置かれている状況が非常にまずいということは理解した。

 恐怖心がピークに達してしまい、最早過呼吸状態にまで陥ってしまう。



「大丈夫ですよ、殺したりしませんよ」


 女性はユイに右手を翳したまま、ゆっくりと歩み寄る。

 ユイは恐怖のあまり腰が抜け、崩れるように尻餅をついてしまった。


「やめてくださいよ。これじゃまるで私が悪者みたいじゃないですか」


 女性は不気味な笑みを浮かべると、再び青黒い炎を出現させた。

 そして、ユイは瞳にじわりと涙を浮かべ目を閉じた。

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