第十一話 ゲーム廃人の憂鬱
俺の登下校ルートから少し離れたところにアーケード街がある。
夕方というのもあって、仕事を終えたサラリーマンや下校中の中高生でごった返していた。
俺はそのアーケード街の入口付近にあるゲームセンターにいる。
気が付くともうすでに一時間が経過しており、同じゲームの筐体で遊んでいた。
二十四勝0敗という驚異の記録をたたき出し、現在進行形で更新中である。
「おい、あいつスゲーよ。連勝だぞ、連勝」
「ああそうだよ。あいつここの常連で、一度も負けたことがない無敗の王だぜ。俺いつもここ来てるからよく見かけるけど」
「まさかプロゲーマーか」
「あり得るな」
と、背後から男性二人の話し声が聞こえた
いいえ、普通のゲーム廃人です。
俺はここに来るのは日ごろの鬱憤を晴らすためである。
いろいろなゲームをやっているのだが、特にこの格闘アーケードゲームはストレス解消に丁度いい。
そのため、来る度にプレイするようになり、気が付けばこのゲームの上位アンカーに上り詰めていた。
俺は手慣れた手つきでボタンとステッキを操作し、画面に映る相手プレイヤーを容赦なくボコボコにしていった。
そして、相手のライフゲージが0になると、『K.O.』と画面に表示され、バトルは終了した。
その後『WINNER』と俺の勝利を讃えた。
これで二十五勝目と連勝記録を更新した。
本来ならこれでストレス解消できるだが、今日はそうならなかった。
俺はとうとう飽きてしまい、椅子から立ち上がると、ゲームの筐体から離れた。
「なんでこうなっちまったんだ」
自動ドア開き、三歩くらい歩いて外に出る。
見上げると、日が傾いて空が朱色に染まっていた。
俺は歩きながら、今までの出来事を思い起こしてみることにした。
週末、突如出現した黒い穴と魔物の襲来。
記憶処理が効かないイレギュラーがユイだったこと。
そしてそのユイと只今喧嘩中ということ。
ここまで浮かんだところで、俺は息を吐いた。
もう考えたくないくらい頭が痛い。
ただでさえ、魔物出現でイライラしているというのに、頭がパンクしそうだ。
特に彼女との喧嘩は個人的な問題ということもあり、一番気掛かりに感じていた。
どうにかして、あいつともう一度話さねぇと。てか、もうほぼ俺のせいなんだけどな・・・・・・。
それから家に帰ってからの段取りを考えていると、ふとあることに気が付いた。
あれ、なんでそんなこと気にしてんだ?もうあいつと関わりたくなかったんじゃないのか?
俺は今の自分の矛盾した行動に、違和感を覚えてしまう。
記憶操作が効いていないことでユイのことをイレギュラー対象として認識している。
それまではただの同居人、いや最悪空気だったはずなのに。
「俺、どうしてあいつのことを気に掛けてんだ?」
立ち止まり、戸惑う、その時だった。
突然、強い突風が吹いたのだ。
俺は不意に右腕で顔を隠し、なんとか吹き飛ばされないように踏ん張った。
そしてすぐさま身構える。
嫌な予感がしたからだ。
まさかまた魔物が出現したのか?
そう思い周囲を見渡した。
しかし、黒い穴はどこにも見当たらない。
もう既に魔物が出現して消えてしまったとも考えられるので、俺は注意を払うのを怠らなかった。
だがいくら周りを見渡し続けても、それらしき影を見つけることができなかった。
俺はとうとう職業病になってしまったのかと渋々思いながら、構えを解いた。
とはいえ、仕事をしたのはこの前の土曜だけなので、恐らく違うと思うが。
「気負いすぎか」
俺は再び歩き出そうと足を動かした。
しかし、突然目の前で何かが通り過ぎるのを捉えたのだ。
俺は驚いて咄嗟に後方に下がり、なんとか避けることができた。
振り返ると、そこに奴がいた。
魔物だ。
全身は深緑の鱗で覆われていて、見た目は蜥蜴のように見える。
鋭い爪と牙を擦り合わせ、低い唸り声を上げて威嚇している。
「今度は蜥蜴人間かよ・・・・」
俺はそう呟きながら、その蜥蜴人間を睨みつける。
その様子を見て周囲の人々は悲鳴を上げながら、その場から一斉に逃げ出した。
だが、蜥蜴人間はそれに目も暮れず、鋭い眼光を赤く光らせ、じっとこちらを睨み続けている。
「狙いは俺ってことか」
俺は制服の襟からクリスタルを取り出し、首から外すとそれを強く握り締めた。
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