第八話 捻じ曲げられた真実
休み明けの月曜というのは、一段とテンションが上がらないものだ。
金曜日に休みだとはしゃいで家に帰り、二日間思う存分羽を伸ばす。
家に閉じこもってゲームや漫画といった娯楽物で過ごす者。
外に出て、友人や家族と買い物や旅行に出かける者。
そうやって土日を有意義に過ごす、唯一現実から目を逸らすことが許される期間。
そして月曜になり、また次の土日休みを期待しながら、仕事や学業に励んでいく。
だが、そうじゃない人間もいる。
俺、光剣寺ミツキはというとこの土日休み、全く休むことができなかった。
土曜、三年ぶりに出現した黒い穴。
そして、その穴から現れた魔物との戦闘。
この日だけで事が終息していれば、日曜休めていたであろう。
しかし、実際はその戦闘による疲労、怪我、筋肉痛で魘されていた。
正直、今でもまだ痛むくらいである。
「痛ーーーーーーーーー」
俺は机の上でうつ伏せになり、何気にそう呟いてみた。
だが、その様子を見て声を掛けてくる者はいない。
別に構ってほしいから言った訳ではないのだが、なんだか寂しい気分になってしまった。
「なあ聞いたか?フォレパーで爆発事故があったって」
「ああ聞いた聞いた。てかニュース見た」
どこからか男子生徒二人の会話が聞こえてきた。
フォレパーっていうのはみらいフォレストパークの略称のことだが、今はそんなことはどうでもいいか。
みらいフォレストパーク基フォレパーで起きた魔物騒動は、ガス漏れによる爆発事故として世間では公表されている。
ただそれはこの未来市にある魔術協会が流した偽りの情報だ。
魔術協会は、魔道具や魔導書といったものを管理し、人間社会との均衡を保つことを目的とした組織だ。
魔術に関する事件が起きれば、その終息に当たり、事をなかったことにする。
もちろん、今回のような事件も例外ではない。
魔物の殺戮から逃げきれた生存者に関しては、証拠隠滅のため記憶処理を行っている。
そのため、いくら目撃情報を聞き出そうとしても、ガス爆発のことしか話さないということになる。
「いやー、土曜は大変だったねー」
聞き覚えのある声。
俺はその方向に視線を向けた。
右斜め前の席で、三人の女子生徒が会話をしている。
俺が世話になっている家の長女時島ユイと、その友達であるカオルとマルコだ。
どうやら彼女たちも、その隠蔽された事件について話しているらしい。
とても事故に巻き込まれた被害者とは思えない程、テンションが高い。
「確かにほんと大変だった、ね?」
無邪気に騒ぎながら、二人はユイの方へ視線を向けた。
「え・・・・、うん・・・・」
だが、ユイはどこか思いつめたような表情を浮かべていた。
間違いなくこっちが普通だろう。
あの三人は休みの日に起きた事件の被害者だ。
つまり、それによる精神的ショックがあってもおかしくない・・・・はずだ。
二人はそんなユイの態度を見て、辛そうな表情になった。
「ごめん、無神経なこと言っちゃって。いつもみたいに騒いでたら、少しは気ぃ紛れるかなって思ったんだけど・・・・やっぱ、ダメだったわ」
「本当はうちらも怖かったよ。それはマジだから」
先程までの様子とは一変して、二人は自分たちが抱いていた不安を吐露していた。
やはり、恐怖を感じていないはずがなかったようだ。
直後、教室の引き戸が開いた。
「おーい、お前ら席付け」
チャイムが鳴るとともに、グレーのスーツを着た40代くらいの中年男性、というかうちのクラスの担任が教室に入ってきた。
会話を中断させ、教室の至る所で屯していた生徒たちは、一斉に自分の席に戻り始める。
俺は筋肉痛で痛む身体をなんとか起こそうとした、その時だった。
ピロンッ
着信音が鳴った。
ポケットからスマホを取り出し画面を見る。
ユイからのチャットだった。
何でこのタイミング?と疑問に思ったが、急いで画面を操作し、メッセージの内容を確認してみることにした。
『1限目になったら保健室に来てください。大切な話があります。』
チャットに書く内容にしては、随分と改まった文章だった。
そして、その分の内容に違和感がし、もう一度読み返してみる。
しかし、その違和感は健在で、文章に強調されるが如く残っていた。
なんで保健室なの?
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