第七話 錬成の剣舞

 俺はこの日、三年ぶりに魔術師として、魔装を纏うことになった。

 フード付きの淡い青白のロングコートを羽織っている。

 全身からは白銀のオーラを放ち、今も尚闘争本能が高まり続けている。

 俺は懐かしいようで、どこか皮肉さを感じていた。



 そのオーラを感じ取ったのか、魔物は俺の方に鋭い眼光を光らせた。

 俺も魔物の方を睨みつける。

 互いに睨み合う一人と一匹。

 建物内に戦慄が走る。



「うがぁっ!」


 先に動き出したのは魔物の方だった。

 ハンマーを振り上げ地面を蹴り、二階にいる俺の方に飛び掛かってきた。



 ハンマーが振り落とされる瞬間、ギリギリのところで俺は右サイドへと素早く移動した。

 その後休む間もなく、瓦礫から特定の物質を操作し、二本の剣を生成した。

 それらを握ると、魔物の脇に数発斬撃を喰らわせた。

 傷口からは黒い血が吹き出し、僅かだが怯んだように見えた。

 だがそれは一瞬のことであり、再び襲い掛かってきた。



 今度は大振りの攻撃ではなく、小刻みに動かした連続攻撃だ。

 俺は距離を取りながら避け、時に直撃しそうになると2本の剣で防御していった。

 その度に、ハンマーの重圧は全身を返してビリビリと伝わっていくを感じた。



 まずこの剣がどこまで耐えれるかが心配だった。

 これ以上攻撃を受け続けると、間違いなく壊れてしまう。

 となると、態勢を立て直す準備をしておく必要がある。



 そうしているうちに、もう壁際まで追い詰められていた。


 ヤバい!?


 そう思った時には、ガラスが割れたような音が鳴り響いていた。

 とうとう耐久値の限界を超えてしまったようで、剣が粉々に砕け散ってしまった。



 魔物は勝ち誇ったような笑みを浮かべると、ハンマーを勢いよく振り回した。

 これで積んだ・・・・・・なんてことはなく、俺は笑みを浮かべて、


「隙だらけ」


 と呟くと、即座に電柱くらいの大きさの水晶の柱を生成した。

 そして、それを魔物の腹部目掛けて突き付けてやった。



 魔物は短い悲鳴を上げ、大きく後方に吹き飛ばされる。

 俺はこの機を逃しまいと、一気に駆け出した。

 再び二本の剣を、更に前方には四本の短剣を生成し、攻撃の準備を整える。



 まず四本の短剣で攻撃を仕掛けた。

 四本の短剣はそれぞれ列を作りながら、宙を舞う魔物に狙いを定めると、一斉に斬りかかった。

 短剣が魔物の体表を横切る度に傷が付き、黒い血が飛沫を上げっていく。



 だが、魔物は空中で体勢を起こすと、足を地面に突き刺しブレーキを掛けた。

 ピタッと静止すると、ハンマーで短剣を一掃してしまった。



 しかし、問題ない。

 俺は魔物との距離を二メートル近くにまで詰めていた。

 加速に乗せ、魔物の腹部に剣を突き刺す。


「せいっ!」


 掛け声とともに、剣は見事に直撃した。



 が、刺さって黒い血は吹き出ているのに、手応えがない。


「!?」


 俺はそれで一瞬隙を作ってしまい、魔物はそれを見逃すことはなく、俺の胴体を左手で鷲掴みにされた。

 そして、剛腕スイングにより、広場のある一階の方へ投げ飛ばされてしまった。


「うおっ!?」


 俺はそのまま十数メートル程のところまで宙を浮いており、壁に激突してしまう。


「がはっ!」


 その衝撃は魔装の耐久性を僅かに凌駕しており、ダメージを喰らってしまう。

 地面に倒れ込み、しばらく痛覚の余韻に浸ることとなった。



 俺はなんとか上体を起こそうとした。


「なんだよ、あいつ。初戦の相手にしては強すぎだろ」


 つい弱音を吐いてしまう俺

 ただ、これまでの戦いの中で敵の情報は大体理解できていたので、急いで頭をフル回転させ作戦を立てた。

 敵の情報をまとめ、それらから対策を練り、今後の動きを考える。

 そして、それら全ての構成を整え終えると、俺はゆっくり立ち上がった。


「よし、行くか!」



 直後、魔物は二階から飛び降り、ハンマーを振り上げながら突進してきた。

 俺は迎え撃つが如く、上空に無数の短剣を生成し、魔物目掛けて一斉攻撃を仕掛けた。

 短剣は瞬く間に魔物を包囲し、次々と体表を傷付けていく。

 魔物は行く手を阻もうとする短剣にハンマーで退けようとする。

 それで何本かは破壊されてしまうが、それでもほんの数本程度。

 何ら問題ない。



 短剣は着実に魔物の身体にダメージを与えている。

 ただ、傷を付けていくだけではなく、その上にさらに傷を付けてより深くしていく。


 取り敢えずここまでは作戦通りか。


 俺は一本一本の短剣をコントロールすることに意識を集中させているため、身動きが取れない状態である。

 だが、もうそろそろ動くつもりだ。



 しばらく攻撃を続けていると、とうとう痛みに耐えられなくなったようで、魔物が地面に膝を付いた。


「よし、これで最後だ!」


 俺は指を鳴らし、魔物の周辺を飛んでいた短剣を消滅させた。

 両手を広げ、二本の剣を生成した。

 最初に生成したものとは一回り大きく、強度の高い大剣を構え、攻撃態勢を整える。


「行くぜ!」


 俺は地面を蹴って、勢いよく突進した。



 魔物もフラフラと立ち上がり、ハンマーを構える。

 俺は距離を詰め、右手に持っている大剣を振り上げて攻撃を仕掛けようとする。

 魔物もほぼ同じタイミングでハンマーを振り上げた。

 そして大剣とハンマーが衝突すると、鋭い金属音が建物の壁を返して鳴り響いた。

 一撃、二撃と攻撃を加えていると、魔物の持っているハンマーを弾き飛ばすことに成功した。

 俺はそれを見逃さず、猛ラッシュを掛けた。



 剣を振るう度に黒い鮮血を浴びてしまうが、動じずに無我夢中で斬りまくる。

 今目に映るのは魔物のみ。

 それ以外の景色なんて目にもくれなかった。

 俺はひたすら剣を振り回し続けた。


「らあぁぁぁ」


 俺は絶叫を発し、十数撃叩きつけたところで、魔物の胸部に目掛けて剣を突き刺した。

剣は今度こそ貫通した。



 直後、魔物の口から大量の黒い血液を吐き出した。

 弱々しく両腕が下に垂れ、力なく倒れそうになっている。

 俺は下敷きにならないように、突き刺した方の剣から手を放し、後ろに下がった。

 魔物は地面にばたりと倒れた。

 黒く腐食し、そよ風に靡かれながら塵となって大気中に散っていく。

 俺の全身に浴びた返り血も例外ではなかった。

 どうやら倒すことができたらしい。



 俺は溜まっていた緊張を息として吐き出す。

 そこには勝利に浸る気力すらなかった。


 終わった・・・・・・。


 ただ安堵以外何もなかった。



 俺は徐に入り口のゲートの方に振り向いた。

 すると、見覚えのある一人の少女がそこにいた。

 ユイだ。

 ただ、どこか悲しげな表情でこちらを見ていた・・・・ような気がした。



 それから休みが明けるまで、彼女とは会話をしていない。

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