第38話 接触

「包囲しようとしている連中の動きに変化は?」


「詳細な情報は掴めませんが、移動したようすから考えてこちらの位置はまるで掴めていないと思います」


「俺たち以外にも無事なパーティーがあると思うか?」


「はい」


 アリシアが手元のメモを見た。

 それはピーちゃんからの情報で掴んだ敵の位置とその後の動きを書き込んだものだ。


 どの集団がどこからどういう経路で移動したか。

 そして、いまどこにいるのかが書かれていた。


 ピーちゃんからの情報なので詳細までは把握できないが、それでも敵の移動した形跡を見る限り明確なターゲットを定めて包囲しているようには思えない。


「従魔からの情報でここまで把握できるものなんですね」


 感心するメリッサちゃんの傍らでリチャード氏が言う。


「ノイエンドルフ王国全土を見渡しても、このような芸当ができるのはアリシア様と宮廷魔道士のバイカル様くらいのものだよ」


「そんなことないと思いますよ」


 類似することが出来てもそれを国が公にしていないだけだ、と彼女の曾祖母であるセシリアお祖母さんが言っていたと微笑んだ。

 上空から従魔を使って敵と味方の位置を把握する。


 高い精度でそれができるならこれほど戦争に有利なことはないだろう。

 当然、その存在は秘匿するよな。


 何となくだが、セシリアお祖母さんも従魔の二、三匹隠し持ってそうな気がしてきた。


「左側五キロメートルのところに四人。正面の集団と同じように固まった状態で索敵をしながら進む集団があります」


「正面の敵との距離は?」


「二キロメートルです」


 アリシアの淀みのない答えが返ってくる。

 これで二つの敵集団の位置と数を把握した。


 ニケも正面を注視している。


「他の集団とはまだ距離があるんだよな?」


「はい。最も近い集団でも十キロメートル近く離れているはずです」


 手元のメモを見ながら言った。


「作戦通り俺が先行して正面の五人と接触する。皆は距離を保って付いてきてくれ」


 皆が無言でうなずいた。


 五人がある程度固まって行動しているということは、索敵能力に長けた者が一人しかいないか、距離を開けた場合の連絡手段がないと仮定した。

 正面の敵集団の索敵能力は高くない。


 それが彼らの動きを上空からトレースして出した結論だった。

 導き出した正面の敵集団の索敵能力は一キロメートル以下。


 先行した俺を敵が発見して包囲しようと動きだしたとしても、他の皆は敵集団の索敵範囲外にある。

 全ての攻撃が俺に向けられる。


 ここまで、大きな攻撃音が聞こえたのは三十回にも満たない。

 おそらくはリディの町の冒険者パーティーが魔獣との戦いで放った攻撃魔法なのだろう。


 俺たちが発見した遺体からも分かるように、謎の武装集団は音を立てずに冒険者たちを始末していた。

 戦闘を周囲に察知されたくないのだろう。


 それはこちらも一緒だ。

 腕に覚えもあるようだし、一対五となれば姿を現す可能性は高いだろう。


「いたぞ、ニケ」


 俺は前方から歩み寄る二人を見つけて思わず口元に笑みが浮かんだ。

 大きく手を振ってこちらの存在をアピールする。


「仲間とはぐれてしまったんです。少しの間でいいから同行させてもらえないでしょうか」


「仲間はこの近くにいるのか?」


 近付いてくる二人に答える。


「はぐれて三時間くらいですから、そんなには離れていないと思います」


「そいつは大変だったな」


 左右から三人が姿を現した。

 これで五人。


「五人のパーティーでしたか。これは心強いです」


 同行の承諾は得ていないが、同行させて貰えるものと信じて安心する若者を演じる。


「こっちも安心したよ」


 左右の三人が長剣を抜いた。

 不意打ちすらなしかよ。


「ちょっと待ってください。敵意はありません。本当です。お二人からも仲間の方に説明をしてください」


 正面の二人にも訴える。


「そうだな」


 次の瞬間、正面の二人が剣を抜き放って駆けだした。


 こいつら、遅くないか……?

 手練れを想定していただけに拍子抜けだ。


 左右の三人もニヤニヤと嫌な笑いを浮かべたまま動かない。

 これなら一瞬で片が付く。


「あばよ、小僧」


「自分の間抜けさを恨みな」


 薄ら笑いを浮かべて斬りかかってきた二人との距離を瞬時に詰める。

 間合いに飛び込むと同時に、真横に薙いだ長剣の一振りで二人を腰の辺りから両断した。

 

 剣技もへったくれもない。

 桁外れの身体強化と魔装にものをいわせての力業である。


「な?」


「え?」


 正面の二人は自分が斬られたことすら気付いていなかった。


 俺はそのまま右側の二人に迫る。

 こちらの二人も反応が出来ていない。


 長剣を真横に薙ぐ。

 やはり、豆腐を切るような感触しかなかった。


 キングエイプと比べるのもどうかと思うが、剣から手に伝わる感触――、抵抗が小さすぎる。

 もしかして、魔装の強度が上がっているのか?


 疑問を抱きながら振り返ると、最後の一人は剣を握ったまま呆然と立っていた。

 構えることすらできないのか。


「お前も覚悟を決めてのことだろ?」


「ヒッ」


 男の顔が恐怖に歪んだときには、逆袈裟に切り上げた俺の長剣が男の心臓を両断していた。


「さて、次の集団だ」


 俺はニケの反応する方向に向かって駆けだした。






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        あとがき

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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました

皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします


作品ページです

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