第37話 行動

 ゴートの森を進むことさらに二日間、ようやく深部と呼べる領域に差し掛かった。

 ここから深部と言われる領域が広がり、そのさらに先には滅多に人が足を踏み入れることのない最深部と呼ばれる領域が広がっている。


 最深部の情報はほとんどなく、俺たちもそこまで足を踏み入れる予定はなかった。


「冒険者ギルドの話を信じるならこの辺りから深部だな」


「信じても良さそうです」


 周囲の植生が変わったとロドニーが言った。

 それを受けてアリシアとリチャード氏も同意する。


「高価な薬草を見かけるようになりました」


「キングエイプが好む果実の実る樹木もチラホラと見かけます」


「あの黄色い果実ですか?」


 メリッサちゃんが巨大なビワのような果実を視線で示す。


「あまり知られていないが、キングエイプ捕獲のベテランの間ではそれなりに知られていることだ」


「キングエイプなら片手で持てそうですね」


 ボーリングのボールほどもある巨大なビワをキングエイプが片手に持ってかぶり付く姿を想像してしまった。

 あの大きさなら一つで満腹になりそうだな。


「あたしだったら、あの果実半分でお腹いっぱいなっちゃう」


「毒があるので口にしてはダメですよ」


 俺と同じような発想をしたノエルに発言にリチャード氏がピシャリと言った。


「人間には毒なのにキングエイプは平気なんですね」


「そういう薬草は結構ありますよ」


 身震いするノエルにアリシアが言う。

 すると、リチャードが直ぐ近くに自生していた植物を指して、


「あれなどは粉末にすると人間に軽微な麻痺をもたらすが、野生の鹿やイノシシには無害だな」


「へー、リチャードさんは物知りなんですね」


 感心するノエルにリチャード氏が「君が勉強不足なだけだ」と厳しく返した。


 言葉は厳しいが意外と物知りなことに驚いた。

 こんなことならもう少しリチャード氏と会話をしておくんだった。


「若旦那、正体不明の魔物と思われる臭いがします」


 ロドニーが風上を真っ直ぐに見据えていた。


「近いのか?」


「それなりに離れているとは思いますが、何とも言えません」


「アリシア、風上を中心に索敵を頼む」


 ピーちゃんにも哨戒飛行させて欲しいと頼んだ。


「分かりました」


「正体不明の魔物がいるなら謎の戦闘集団も一緒にいると考えよう。レイチェルは最後尾、ロドニーとノエルは左右の警戒を頼む」


 即座に三人から小気味のよい返事が返ってきた。


「リチャードさんたちは隊列の中央へお願いします」


 リチャード氏とメリッサちゃん、雑用係のジェリー、三人が直ぐに動いた。

 最前列が俺とアリシア、隊列の中央に商業ギルドの三人、三人の左右をロドニーとノエル、最後尾にレイチェルという隊列が直ぐに出来上がる。


「ニケ、お前も何か気付いたら教えてくれよ」


「ミャー」


 警戒しながらしばらく進んでいると、アリシアが他の人に聞こえないようにささやく。


「ピーちゃんが何かを見つけたようです」


 アリシアの視線が上空を旋回するピーちゃんに注がれていた。

 ピーちゃんの飛び方でざっくりとした情報を読み取っているのか。

 

 大したものだ。


「どの方向か分かるか?」


「囲まれたようです。いえ、正確には囲もうと動き回っているようです」


「こちらの位置を把握できていないということか?」


「恐らくは……」


 アリシアよりも広範囲の索敵能力を謎の戦闘集団が擁しているとは考えにくい。

 明確に敵と判断するか……。


「リチャードさん、謎の戦闘集団を敵と見なすとして、不都合や気を付ける点は何かありますか?」


「相手から攻撃されるまでは手を出さないことが最善です。しかし、これまでの状況を考えると先制攻撃もやむなしでしょう」


「ありがとうございます」


「何か察知されたのでしょうか?」


 リチャード氏の視線が、一瞬、アリシアに向けられた。

 アリシアの索敵に敵が引っかかったと思ったのだろう、顔に緊張が表れている。


「我々を包囲するように動いている集団があります」


「それは……」


 リチャード氏だけでなく皆が息を飲んだ。


「包囲されるのを黙って待つつもりはありません。包囲しようとしている集団を――、敵を各個撃破します」


 こちらの索敵能力は高い。

 包囲しようとしている集団を出し抜くことも可能だと判断しての作戦である。


「先に発見出来たとしても、敵は相当の手練れです」


 正体不明の集団を敵認定した上で、勝算はあるのかとリチャード氏が聞いた。


「索敵能力と機動力を活かしての各個撃破なら勝率は跳ね上がります」


 自分で言っておいて、答えになっていないな、と内心で苦笑する。


 正直なところ、包囲された上に正体不明の魔物の相手では被害を出さずに勝てるかは疑問だ。

 しかし、各個撃破なら望みはある。


「索敵能力と機動力ですか」


 俺は無言で首肯した。


「ならば、直ぐに動きましょう」


 作戦は決まった。


「俺たちを包囲しようとしている複数の集団がある。包囲される前にこちらから接触して各個に撃破する。先制攻撃をするな、などと甘っちょろいことを言うつもりはない。しかし、攻撃のタイミングは俺の指示を待ってくれ」

 最初の攻撃は俺が放つ!


「アリシア、最も近い集団の位置を割り出してくれ」


「はい」


 俺たちは対人戦を想定して移動を開始した。






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        あとがき

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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました

皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします


作品ページです

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