第36話 痕跡
ダグラスたちの遺体を発見してから二日後の昼過ぎ、ゴートの森の深部へと入り込んでいた。
「若旦那、また死臭が漂ってきます」
「これで四組目ですね」
アリシアが沈痛な表情を浮かべた。
「この先、二キロメートルと言ったところです」
四度目ともなればロドニーも慣れたもので、俺が方角と距離を聞く前に告げた。
ロドニーを促して死臭のする方向へと進む。
他のメンバーも無言で続いた。
最初に発見した遺体はダグラスたちだった。
見知った者たちということもあったが、第三者の手による殺害という事実がメンバー全員に大きな衝撃を与えた。
二組目となる遺体との遭遇は、そこからわずか四時間後。
リディの町の冒険者パーティーでダグラスたちと同様、何者かによって殺害されていた。
このパーティーは争った形跡もなく全員が剣の一撃で殺されていた。
この段階で敵が手練れというよりも、不意打ちやだまし討ちをした可能性が浮上する。
「他のパーティーを信用しないようにしましょう」
とのリチャード氏の言葉に異を唱える者は一人もいなかった。
その翌日。
三組目となるパーティーの遺体を発見した。
「魔物にやられたようですね」
ロドニーの言うように、明らかに昨日の二組とは異なるありさまをしている。
身体のあちこちが爪のようなもので切り裂かれた、手足や腹部に噛みちぎられた跡があった。
「酷い……」
「可哀想に……」
アリシアとメリッサちゃんが目を背ける。
レイチェルとノエルも顔をしかめてはいたが、それでも魔物との戦いの痕跡を調べていた。
「ブラックタイガーかしら……?」
「だとしたら、特別大きな個体ということになるわね。……或いは同系統の大型の魔物かな」
死体にはどれも鋭い爪痕と噛みちぎられた痕跡があった。
二人の会話に割り込む。
「ブラックタイガーの可能性があるのか?」
「可能性はあると思いますが、仮にブラックタイガーだとしたら通常の二倍くらいあります」
「爪の形状が違います」
ノエルの言葉をロドニーが即座に否定した。
そのロドニーにアリシアが聞く。
「魔物の正体は分かりますか?」
「そこまでは……」
爪痕と噛み痕で判別しようにも、ロドニーの知識にない痕跡だと首を振った。
「リチャードさんでも分かりませんか?」
メリッサちゃんが聞いた。
魔物を狩ることはないが、商業ギルドで多種多様な魔物を見てきているベテランである。
俺もメリッサちゃんとともに期待の目を向けた。
「残念ながら私にも分かりません。私も初めて目にする爪痕と噛み痕です」
「リチャードさんでも無理でしたか……」
メリッサちゃんが本人を目の前に落胆した。
「魔物の正体は分かりませんが、牙が魔装と革鎧を貫いて心臓まで届いています」
この謎の魔物がアーマードベアを縄張りから追いだした魔物である可能性が高いと思う、そうロドニーがつぶやいた。
翌日。
四度目となる冒険者の遺体に遭遇した。
「随分と派手にやり合ったな……」
「キングエイプと戦闘になったようです」
ロドニーとノエルが言った。
キングエイプの死体は見当たらなかったが、辺りに付着した血と臭いで冒険者とキングエイプが戦ったのは確かだという。
「謎の戦闘集団と正体不明の魔物も戦いに加わっています」
冒険者とキングエイプとの交戦中に謎の戦闘団と正体不明の魔獣に襲撃されたと考えられる痕跡があるとロドニーが言った。
「それは四つが入り乱れての戦闘だったということかね」
リチャード氏の質問にロドニーが「いいえ」と首を振って話を続ける。
「キングエイプと交戦中の冒険者に、謎の戦闘集団と正体不明の魔物が共闘する形で戦闘に加わったと思われます」
六人パーティーのうち四人が正体不明の魔物の爪と牙による攻撃が致命傷となっているが、戦場から最も離れている二人は剣による傷が致命傷となっていた。
戦場から逃げだそうとしたところを剣で斬り殺されたことになる。
逃げ足が速かったから魔物でなく人に殺されたということか。
「魔物と人が共闘?」
「テイマーがいる可能性がでてきましたな」
とメリッサちゃんとリチャード氏。
なるほど、従魔か……。
従魔――、それはモンスターテイムのスキルを持つ者が従える魔物。
アリシアの従えるピーちゃんも従魔だ。
「確かにそれなら、キングエイプの死体がない説明が付きます」
アリシアがうなずく。
謎の戦闘集団のなかにテイマーがいる可能性が浮上した。
高い戦闘力を有した大型の魔獣を操るテイマーか……、何とも面倒そうな相手だ。
「警戒は怠らないようにしないと今度は俺たちが餌食です」
ロドニーの言葉に皆がうなずいた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
あとがき
■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有
『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました
皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします
作品ページです
https://sneakerbunko.jp/series/mutekisyonin/
Bookwalker様商品ページ
https://bookwalker.jp/deca6c822c-70af-447e-bee6-d9edb8a53c46/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます