第39話 崩れた包囲網

 甲高い金属音が森のなかに響き、青白い輝きを伴って軋みを上げる。

 鋼の剣と剣とがぶつかり合い、魔装と魔装とが削り合う。


 まだ削り足りないのかよ!

 魔装の硬さに辟易とする。


「くっ、こいつやるぞ」


 それはこっちのセリフだ。


 魔装の硬さもそうだが剣技が厄介過ぎる。

 最初は身体強化への魔力の割り振りを減らしていたので、剣と剣がぶつかり合うどころじゃなかった。


 軽くいなされて敵の魔装を削る事も出来なかった。

 身体強化への割り振りを増やして、動きにようやく着いていける状態だ。


 先ほどの連中も手強かったが、この六人はそれ以上の手練れだった。

 それも六人とはな……。


「同時に仕掛ける。タイミングを合わせろ」


 リーダーらしき男の言葉に他の五人が素早くい動いたと思うと、俺との間隔を等距離に保って周囲を囲む。

 遙か遠方で火柱が上がった。


 アリシアたちとは距離も方角も違うことに安堵する。

 俺たち以外の冒険者が戦っているのか?


「ちっ」


 火柱に男の一人が気を取られた。


 いまだ!

 一気に加速して舌打ちした男に迫る。


「しまった!」


 一瞬の油断――、後悔の念と恐怖とが男の顔に浮かぶ。

 だが遅い。


 振り下ろした長剣が男の左肩を捉えた。

 瞬間、長剣と左肩との間からエフェクトのように青白い輝きが放たれる。


 魔装と魔装との干渉、強力な魔装同士でなければ発生しない現象――、シスター・フィオナとの戦いで発現した現象だ。

 俺が長剣を押し込むと輝きが増し、男の顔が恐怖に引きつる。


「ガハッ」


 押し込んだ剣が魔装を貫いて男の心臓に達した。

 あと五人。


 刹那、俺の身体に五本の剣が突き立てられた。

 突き立てられた剣が青白く輝き、俺の魔装を削る。


 だが、これも俺の戦闘スタイルだ。

 最も剣を叩き込みやすい位置にいた男の首に長剣を突き立てた。


 青白い輝きをともなって男の魔装を削る。

 輝きが消えた瞬間、長剣が男の首を貫いた。


「グフ」


 あと四人。


「こいつ、聞いていた以上だぞ」


「どんな魔術師にだって限界がある。何度も攻撃を叩き込んで魔装を削るぞ!」


 事前に俺の能力を知らされていたのか?


 俺の眼前に炎が広がる。

 攻撃魔法に切り替えたのか?


 これを待っていた!

 俺は広がる炎のなかに飛び込んだ。


 炎を抜けると攻撃を終えた姿のまま佇んでいる男がいた。

 魔力の割り振りを誤ったな。


 個人差はあるが魔法の出力には限界がある。

 百パーセントをどう割り振るか――、俺の場合は身体強化に四十パーセント、魔装に六十パーセントを割り振っている。


 攻撃魔法に魔力を割り振れば、当然、身体強化と魔装の魔力は落ちる。

 俺の突き出した剣が男の左胸を容易く貫いた。


 あと三人。


 右の視界の端に男が右手を突き出して、攻撃魔法を発動させようとしている姿が映った。

 次のターゲットはお前だ!


 男の方へ踏み出した瞬間、強烈な輝きが視界を覆った。

 攻撃魔法と魔装とが干渉し合う輝き。


 何かの攻撃が命中したようだがダメージはない。


「俺の情報を知った経緯を聞き出したかったが、それは諦めることにするよ」


 飛び込んだ勢いのまま、剣を横薙ぎに振り抜く。

 剣が軌跡に心臓を捉えた。


 あと一人。


「そんな……!」


 拮抗していた戦いが一人の油断から一気に崩れた。

 その事実に男の顔が驚きと絶望に歪む。


「なあ、俺のことを知っていたようなことを言っていただろ? どういうことだ?」


 答えはなかった。


 ここまでだな。

 先に仕掛けたのは俺。


 混乱した様子の男に真っ向から剣を振り下ろす。

 甲高い金属音と青白い輝き――、魔装と魔装とが削り合う。


 魔装の硬さが尋常じゃないのが分かる。

 こいつ、身体強化を捨てて魔装に全振りしたのか?


 熟練した剣技があるからこそ出来る選択だった。

 だがな、こっちには奥の手があるんだよ!


「ニケ!」


「ミャー」


 至近距離でニケの水の弾丸ウォーターバレットが連射される。

 突然の攻撃魔法に男が驚愕した。


 ニケの水の弾丸ウォーターバレットが魔装に当たって霧散するなか、振り下ろした長剣をさらに押し込む。

 俺の長剣とニケの攻撃魔法が男の魔装を瞬く間に削る。


「バ、バカな……!」


 それが男の最後の言葉。

 ニケの水の弾丸ウォーターバレットが男の心臓を貫いた。


 俺はその場を後にして、アリシアたちと合流する。


 ◇


「お疲れ様です。今回は随分と手こずったようですね」


「これまでよりも時間が掛かったので心配しましたよ」


 アリシアとメリッサちゃんが真っ先に出迎えてくれた。


「これで六組目ですな」


 リチャード氏の言葉を受けてアリシアが更新したメモ帳を開く。


「敵集団を六組無力化したので、残りはあと三組です」


「敵集団は十組じゃなかったのか?」


「一組は別の冒険者パーティーと交戦して無力化されたようです」


 アリシアの言葉にノエルが言う。


「その敵をやっつけたパーティーと接触して共同戦線を張れないでしょうか?」


「無理とは思わんが、難しいだろうな。そのパーティーの立場で考えれば、誰が敵で誰が味方なのか判断がつかない状態でさまよっているはずだ」


 リチャード氏の言葉にロディーが賛成する。


「俺もリチャードさんの意見に賛成です。まして俺たちは彼らから見れば外国籍の冒険者ですから、警戒されるどころか出会った瞬間に攻撃をされかねません」


「そう、ですね」


 残念そうなノエル。


「アリシア、次の敵はどの方向だ?」


 次のターゲットを聞くと、渋い表情で答える。


「残りの三組は連携しているのか付かず離れず行動しています」


「分断は無理と言うことか……?」


「ですが、包囲網は完全に崩れました。無事な冒険者たちが彼らと接触せずに撤退することもできます」


 それは朗報だ。


「正体不明の魔物もそのなかにいるようです」


 ロドニーの言葉を肯定するようにアリシアがうなずいた。


「生き残っている冒険者パーティーと接触するよりも先にその三組を叩く」


「ピーちゃんに先制攻撃をしてもらいましょうか?」


 他の冒険者を巻き込む心配がほとんどないことをアリシアが告げた。


 先制攻撃で混乱したところを不意打ちするか。

 俺は上空でピーちゃんを待機させるよう告げた。






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        あとがき

■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有


『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました

皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします


作品ページです

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