第32話 寒村に残された手紙
翌日、俺たちはゴートの森から徒歩で半日ほどのところにある寒村に到着した。
リディの町をでて二日目の日暮れである。
「馬車二台と馬が十二頭、確かにお預かりしました」
中年の男性が馬車と馬の預かり証をメリッサちゃんに渡す。
「よろしくお願いします」
この寒村の住民は農業や牧畜の傍ら、森周辺での狩猟やゴートの森に入る冒険者たちの道案内や荷物持ち、冒険者たちがこの村まで乗ってきた馬車や馬を預かることを生業としている。
「俺たちよりも先に結構な数のパーティーが来ていると思うが、最後のパーティーが出発してからどれくらい経つ?」
馬車から馬を外している少年に尋ねる。
「十一時頃に出発しています」
九時過ぎに到着し、遅めの朝食を済ませると直ぐに出発したのだという。
現時点で六時間遅れか。
隣で話を聞いていたアリシアも驚く。
「全員騎乗していたとはいえ、ダグラスさんたちも随分と無茶をしますね」
「馬も疲れた顔をしていますよ」
馬場の片隅で水を飲んでいるダグラスたちの馬をガイがめざとく見つけた。
この様子だと最初に町を出発したリネットさんたちのパーティーとの差は予想よりも大きいかも知れないな。
「この二日間で最初に出発したパーティーとの差がどのくらいか教えてもらえるかな?」
「今夜村に泊まって明日の朝出発するなら、丸一日です」
俺の質問に少年が即答した。
最初に出発したパーティーは今日の明け方到着し、そのまま休むことなくゴートの森へ向かったのだそうだ。
「強行軍だなー」
「出し抜く気満々だな」
ガイとロドニーが呆れたように言った。
その傍らでアリシアが聞く。
「リネットさんのパーティーでしょうか?」
「念のため確認しよう」
俺は最初に到着したパーティーについて少年に聞く。
「綺麗な女性がリーダーだったろ?」
リネットさんの背格好と容貌を伝えると見事に合致した。
「ダイチさんと取り引きをしたいと言っておきながら、邪魔になるようなことをしようだなんて……」
「無属性の魔石は高騰しているから、目先の利益に目がくらんだのでしょうけど……。このやりようはあんまりですよね」
メリッサちゃんがアリシアに同調した。
二人ともリネットさんには含むところがあるようだ。
「どうします? こちらも直ぐに出発しますか?」
「無理はやめよう。今夜はこの村に泊まって明日の早朝出発しよう」
ガイの提案を退けて予定通り進むことにした。
「あのー、ダイチ・アサクラ様というのはどなたでしょうか?」
「俺です」
村に住む女性がメリッサちゃんに尋ねるのが聞こえたので彼女の下へと歩みよる。
すると、一つの手紙とナイフを差し出した。
「こちらの手紙を」
しっかりと封がされた封筒の表に「ダイチ・アサクラ様へ」と書かれていた。
一瞬、俺とメリッサちゃんの目が合う。
彼女も俺と同様、リディの町で渡された手紙を連想したようだ。
「差出人はどなたでしょう?」
「こちらの手紙が馬場の支柱にナイフで刺してありました」
村の住民に聞いたが誰が支柱にさしたのか分からなかったのだと言った。
そして手紙とナイフを改めて差しだす。
「ありがとうございます」
俺は女性から手紙とナイフを受け取りながら聞く。
「手紙を発見したのはどなたでしょうか?」
何時頃発見したか知りたいのだと告げると、女性は自分が気付いたのだと言った。
「時間は八時頃だったと思います」
「手紙が刺してあった支柱を教えて頂けますか?」
この寒村に立ち寄った冒険者パーティーは俺たちを除いて三十四組。
人数にして二百人余だ。
朝の八時では絞り込みも難しいとは思うが、もしかしたら何かしらの手掛かりがあるかも知れない。
「ご案内します」
俺はメリッサちゃんとロドニーを伴って女性に付いて行った。
案内されたのは馬小屋近くの支柱。
しっかりとナイフの刺さった跡が付いている。
「足跡から何か掴めないか?」
嗅覚を含めた探索能力の高いロドニーに聞いてみた。
ロドニーは支柱の周辺を少し歩き回ると、
「男が五人に女が二人です」
それがこの支柱に手紙を突き刺した可能性のある人数だと告げた。
根拠は足跡。
明らかに村人とは異なる、魔物との戦闘を目的とした防具を兼ねた靴の痕跡があった。
加えて、男女を匂いで嗅ぎ分けている。
「その中に村人がいる可能性は?」
「匂いが違います」
ロドニーが自信たっぷりに言い切った。
ハーフとはいえ狼人種の嗅覚は凄いものだな。
「手紙に残った匂いから差出人が誰か分からないか?」
念のため聞いてみた。
「リディの町で受け取った手紙同様、嗅覚を攪乱するための刺激臭が染み込ませてあります」
「やっぱりだめか」
俺はお礼を言って案内をしてくれた女性にチップを渡して解放した。
「取り敢えず、手紙の内容を確認しましょう」
俺は女性が離れたのを見計らって手紙を開封する。
「ここでもかよ!」
無意識に手紙を持つ手に力が入り言葉が漏れた。
「何て書いてありました?」
俺は『タルナート王国の目的は無属性の魔石と魔力のない子ども』と書かれていた手紙をメリッサちゃんに渡す。
「そんな……」
メリッサちゃんの目に涙が浮かんだと思うと瞬く間に溢れだす。
押し殺した鳴き声が漏れた。
「フィオナのときと同じ……」
気付くとロドニーがいつの間にか離れた場所にいた。
俺はメリッサちゃんが落ち着くのを待って、リチャード氏とアリシアに手紙のことを伝えることにした。
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あとがき
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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました
皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします
作品ページです
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