第31話 追う者

 リディの町を出発した日の夕方、街道沿いで小休止をしているとロドニーが立ち上がって背後を見た。


「誰か来ますね」


 彼の言葉に全員が街道を見詰める。


「ゴロゴロ」


 ニケが甘えているくらいだから危険はなさそうだが確認だけはしておくか。

 身体強化を使って背後を凝視する。


 俺の目が土煙巻き上げて迫る騎馬の一団を捉えた。

 ほぼ同時にアリシアも声を上げる。


「騎馬ですね」


「飛ばしてるなー」


 ガイがロドニーとレイチェル、ノエルに警戒するように指示を出す。


「土煙からして大した数じゃなさそうだな」


「油断しないでよ」


 たしなめるレイチェルにロドニーが犬歯をむき出しにして笑う。


「油断なんかするかよ、俺はいつでも臨戦態勢だぜ」


 騎馬の一団が近付くと彼らの正体が分かった。

 ダグラスたちである。


「若旦那ー、アリシア様ー」


 馴れ馴れしい口調と笑顔でダグラスが騎馬から飛び降りる。

 すると彼のパーティーのメンバーも騎馬の足を止めた。


「騒々しいヤツだな」


「ダイチさんも、そう邪険にしなくてもいいじゃないですか」


 とアリシアが微笑む。


「そうですよねー。耳寄りな情報を持ってきたんですから歓迎してくださいよー」


「こっちにきて座って下さい。いま、皆さんの分もお茶を用意しますね」


 アリシアが火にかけていたポットへと手を伸ばした。


「ありがとうございます」


 リーダーのダグラスがその場に座り込むのを合図に、他のメンバーも次々とアリシアにお礼を述べて辺りに座り込む。


「それで耳寄りな情報ってなんだ?」


「せっかちだねえー、若旦那はー」


「談笑するほど仲良くもないだろ」


 文字通り、昨日あっただけの仲だ。

 しかも、理不尽に絡まれている。


「そんな、酷えよ。俺たちはー、若旦那とアリシア様をこんなに慕っているのにー」


「分かった、分かった」


 俺は火にかけていたソーセージを彼らに振る舞いながら、


「でも、耳寄りな情報を伝えるために来たわけじゃないだろ」


 と突いてみる。


「まあ、それはそうなんですけどねー」


「と言うことは、ゴートの森が目的地か」


「さすが若旦那。察しがいいねー」


 ダグラスは、自分たちも無属性の魔石を採取する依頼を請け負ったのだと言った。

 それを聞いたメリッサちゃんがリチャード氏に話かける。


「競争相手が増えちゃいましたね」


「我々の目的は調査だから特にこまらんよ」


 とリチャード氏。

 俺とアリシアは魔石の採取が目的なので困る、困るがそれは別の話だ。


「急にどういう風の吹き回しだ?」


 ゴートの森での魔石採取。

 受けないとは言っていなかったが、警戒をしていたはずだが……?


「はい、どうぞ」


 アリシアが彼らにお茶を配り終えるのを待ってダグラスが話しだす。


「実はですねー。今朝早くに結構な数のパーティーが、ギルドの依頼なしでゴートの森に向かったって情報が飛び込んできたんですよ」


 ダグラスが「絶対に無属性の魔石の採取が目当てですよ」と付け加えた。


 知っている。

 リネットさん率いるパーティーがその筆頭だ。


「結構な数ってどれくらいなんだ?」


「ハッキリした数は分かりませんが十四、五組くらいじゃないかって話です」


「町を出るときに俺たちを含めて三十四組のパーティーがゴートの森に向かったって衛兵が言っていたが、ほぼ半数が依頼なしで向かったことになるな」


「まだ続きがあるんですよ」


「じらすなよ」


 ダグラスが人懐っこい笑みをうかべた。


「このパーティーって言っても地元のパーティーじゃないんです。どうやら外国のギルドに籍を置く連中って話です」


 確認の取りようがないので断定は出来なかった。

 しかし、少なくともリディの町に籍を置く冒険者たちでないことは間違いなかった。


「それで、出し抜かれちゃ堪らないということで急いでいたのか」


「それもありますけどー、礼儀も仁義も欠く連中にちーっと、お灸を据えてやろうかとおもってね」


 これも俺たちの町の平和のためです、などと言った。


「俺のときみたいに返り討ちに遭うなよ」


「若旦那は特例ですよー。俺、こう見えてもAランクの冒険者なんですよ」


 魔術師としてもBランクなのだと気まずそうに付け加える。

 Aランクの冒険者ということは貴族と繋がりがあるのかよ!


「意外だな。お前、貴族の前にでてよく打ち首にされなかったな」


「酷えなー」


 抗議するダグラスの後ろで彼の仲間たちが笑い転げる。

 すると、ダグラスの抗議の対象が仲間に替わった。


「お前ら後で覚えてろよ!」


 その後も彼らと雑談を交わすが、落ち着いたところでダグラスたちが先に出発する。

 不心得者にお灸を据えるのもあるが、それ以上に無属性の魔石の採取で後れを取りたくないと言う気持ちもあるのだと笑っていた。






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        あとがき

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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました

皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします


作品ページです

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