第33話 方針
翌日の早朝。
俺たちは早めの朝食を済ませて村を出発した。
ゴートの森の入り口へ到着したのは昼過ぎ。
森へと続く小径から少し外れたところにある平地で昼食の準備をしている間、周辺の探索していたロドニーとノエルが戻ってきた。
「足跡が少なすぎます」
戻ってくるなりロドニーが言った。
小径と森の入り口付近を探索していたのだが、ゴートの森に向かった人数と足跡の数に大きな乖離があった。
寒村からゴートの森に向かったのは俺たちを除いて三十四組のパーティー。
総数で二百人を超えている。
ゴートの森は広大なので奥に入ってしまえば他のパーティーと鉢合わせをする確率はかなり低い。
しかし、入り口付近ともなれば別だ。
「別のところから森に入ったのかも知れませんが、わざわざそんなことをする理由の説明がつきません」
ロドニー同様に不自然だと主張するノエルにメリッサちゃんが聞く。
「外国の冒険者パーティーが半数くらいでしたから、トラブルを避けて少し離れたところから入ったのではないでしょうか?」
「小径の足跡も入り口からかなり離れたところから大きくそれていました。普段は人が足を踏み入れないようなところから森へ入ったのだと思われます」
トラブルを避けるというよりも、入り口から入ったパーティーと遭遇すること自体を避けているようだと言った。
「普段利用している入り口から入ったのが不慣れな外国人のパーティーで、大きくそれたところから入ったのが地理に詳しい地元の冒険者パーティーというところでしょうか……」
とメリッサちゃん。
そう考えるのが普通だよな。
しかし、口にしたメリッサちゃん自身が釈然としない様子だ。
「逆だと思います」
地元の冒険者たちに気付かれないよう森に侵入したのは外国の冒険者パーティーだろう、とロドニーが指摘した。
「根拠は?」
「勘です」
自信たっぷりに言い切った。
「勘か……」
「今回の外国人パーティーは怪しすぎます」
「俺たちもその外国人パーティーだけどな」
「それはそうですが……、何て言うのかな……。こいつらは、いままで息を潜めていたくせに突然現れたと思ったら、地元の冒険者たちを出し抜くような動きをしています。そんなヤツラが素直に入り口から入るとは思えないんですよ」
ロドニーがもどかしそうにしていると、リチャード氏が割って入った。
「アサクラ様、もうここまで出遅れたのですからここは慎重に行きましょう。ロドニー君の言うことも懸念事項として取り上げるに値すると思います」
リチャード氏は謎の手紙の件には触れなかったが、慎重になろうとする理由の根底にそれがあるのは表情から分かった。
「具体的にどうすればいいとお考えですか?」
「小径から逸れた冒険者たちが進んだ方向と人数、分かる範囲で把握してから森に入りましょう」
リチャードさんの言葉にロドニーとレイチェルが続く。
「俺からもお願いします」
「あたしもそうして頂けると幾らかでも安心できます」
最近著しく評価を落としてはいるが、リチャード氏は商業ギルドでは有能なベテランギルド員で通っている。
ロドニーもレイチェルもベテランではないが、短い期間でランクを上げた優秀な冒険者だ。
その三人の勘を無視は出来ない。
「分かりました。森へ入るのは周辺の調査をしてからにしましょう」
幸い、索敵や探知、探索に適した能力には事欠かない。
俺たちは半日をかけて調査をすることにした。
◇
上空からの広範囲索敵担当はピーちゃん。
スハルの裔からはガイとロドニーとノエルを探索チームとし、レイチェルはリチャード氏と商業ギルドから派遣された二人の雑用係の護衛兼周辺警戒要員とした。
ガイとメリッサちゃん、ロドニーとノエルの二組に分かれ、それぞれ小径から外れたと思われる場所から森の浅いところまでを探索する。
俺とアリシアはレイチェルと一緒に、リチャード氏と商業ギルドの雑用要員二人の護衛をしつつ、周辺警戒と索敵を行うことにした。
「ニケ、何かあったら教えてくれよ」
「ミャー」
胸元から顔を覗かせたニケが得意げに鳴いた。
俺は辺りの警戒をニケに任せて他の作業を進める。
「ダイチさん、それは何でしょう?」
振り向くとアリシアだけでなく、リチャード氏やレイチェル、雑用要員の二人まで興味深そうに見ていた。
「これは空から地上の様子を確認出来る道具だなんだ」
俺はそう言ってドローンを上空へと上昇させる。
「わぁー」
「飛ぶのか!」
アリシアとリチャード氏が上昇するドローンを目で追いながら驚きの声を上げた。
「相手からも見えてしまうから、隠れて索敵するのには向いていないんだ」
「これはアサクラ様の故郷の魔道具ですか?」
「そうです」
「私、空を飛ぶ道具というのを初めて見ました……」
と、ドローンを目で追うリチャード氏。
「この大陸には空を飛ぶ魔道具はないんですか?」
「聞いたこともありません」
「あたしも知りません」
アリシアの視線が上空のドローンから俺の手元に移っていた。
「もしかして、手元の道具で操作しているのでしょうか?」
勘がいいな。
「当たりだ。そして、この道具で地上の様子を見ることが出来る」
タブレットPCの画面を見せると、
「これ、地上の様子ですか?」
「どうなっているんだ?」
二人が画面に映る森の様子を食い入るように見詰めた。
どれ、少し遊んでみるか。
森の上に移動させていたドローンを小径の上空へと戻した。
「ダイチさん、人がいます」
ズームさせると、
「え? え? これって、もしかしてあたしたち……ですか?」
驚いたアリシアが画面から俺へと視線を移した。
「こうやって見える範囲や距離を変えられる」
ズームをさらに拡大すると、個人の顔が十分に判別出来るほどの鮮明さとなった。
「これは、騎士団に売れそうですな」
「残念ながら、上空を飛ばしていても目立つ道具なので隠れての偵察活動には不向きですよ」
リチャード氏が残念そうに唸った。
◇
辺りの探索をすること六時間余。
夕食を囲いながら探索の結果を共有し合っていた。
「そんな面白い道具があるんですか? 俺も見たかったなー」
残念そうにするロドニーにレイチェルが得意げに言う。
「あたしなんて、操作もさせてもらっちゃんだー」
「ずりー」
「えー、いいなー」
ロドニーだけでなくノエルまで悔しがる。
「アサクラ様、話の続きをお願いします」
「済みません」
リチャード氏に促されて、ドローンからの画像を録画したタブレットPCを皆に見せる。
「小径からそれて真南に進んだとところに人影がありました」
タブレットPCに表示された動画に皆の視線が集まる。
「直ぐに隠れてしまいましたね」
「確認できたのはこれだけですか?」
とガイとメリッサちゃん。
「残念ながらこれだけです。ですがロドニーの勘の通り、入り口から入らなかったパーティーの一つがタルナート国籍だと確認できました」
本当は短気なヤツが攻撃魔法でも撃ってこないかと期待してドローンを飛ばしたのだが、残念ながらそこまでの間抜けはいなかった。
しかし、警戒すべきが彼らであることを裏付けている。
ガイやロドニーたちからの報告も同様だった。
「匂いはダメでした」
「こちらも同じです。匂いをごまかす粉があちこちに撒かれていました」
ロドニーとメリッサちゃんが残念そうに言った。
随分と念の入ったことだな。
「撒かれていた粉には、手紙に染み込ませてあったのと同種の薬が染み込ませてありました」
とロドニー。
支柱にナイフで刺してあった手紙と同種の薬ね。
自分たちがやりました、と言っているようなものだ。
「警戒すべき相手がハッキリしましたね」
「ああ、リネットさんを筆頭にタルナート国籍のパーティーには注意をしよう」
アリシアに同意した。
ノイエンドルフ王国、ミストラル王国、タルナート王国。
これら近隣の国の住民は人種だけでも多種多様な人種が生活している。
これらの人種に加えて、獣人、ドワーフ、エルフなどの多種族もかなりの割合がいた。
問題はどのパーティーがタルナート国籍か判断が付かないことだ。
「それで、どう警戒するのでしょう?」
リチャードさんが痛いところを突いてきた。
「消極的ですが近付かないことが最も有効でしょう。タルナート国籍の冒険者パーティーがどこを狩り場に使用としているのかは知りませんが、我々は地元の冒険者たちと同じルートを進みましょう」
面白くはないが、ここは手紙の警告に従うとしよう。
「なるほど。それなら確かに鉢合わせをする可能性は低くなりますな」
「あたしもその意見に賛成です」
「あたしも賛成です。得体の知れない人たちとは関わりたくありません」
リチャードさんに続いてアリシアとメリッサちゃんが同意した。
これで決まりだ。
俺たちは明朝、地元の冒険者同様に小径から続く入り口から森へ入ることとした。
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あとがき
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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました
皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします
作品ページです
https://sneakerbunko.jp/series/mutekisyonin/
Bookwalker様商品ページ
https://bookwalker.jp/deca6c822c-70af-447e-bee6-d9edb8a53c46/
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