第30話 ゴートの森へ
翌日、ゴートの森へ出発する準備をアリシアとガイたちに任せて、俺はリチャード氏とメリッサちゃん、クレアちゃんとともに商業ギルドを訪れていた。
通されたのは二階の会議室、昨日借りた部屋よりも少し広めの部屋だ。
「お待たせいたしました」
神経質そうな老紳士と二十代前半の女性が二人入ってきた。
リチャード氏がすかさず立ち上がって老紳士に握手を求める。
「この度は無茶なお願いを聞いて頂きありがとうございます」
「有望な商人に便宜を図るのも我々の仕事です」
老紳士はここのギルドマスターでモーガン・ガードナーさん、彼と一緒に入ってきた女性二人はコニーさんとダリアさん。
「初めまして、クレアちゃん」
ガードナーさんがクレアちゃんに笑顔を向けると、少し緊張したようにクレアちゃんも笑みを帰した。
「こんにちは」
「こちらはコニーお姉さんとダリアお姉さんだ」
ガードナーさんが二人を紹介すると、コニーさんとダリアさんがクレアちゃんに微笑んだ。
「こんにちはクレアちゃん」
「よろしくね」
突然、大人が自分に挨拶したことに戸惑ったのか、俺とアリシアを交互に見る。
俺はしゃがんで彼女に言う。
「クレアちゃんのお父さんとお母さんが見つかるまでの間、このお姉ちゃんたちが君と一緒にいてくれることになったんだ」
ゴートの森に赴くにあたり、最も大きな心配はクレアちゃんだった。
「お父さんとお母さん、まだ見つからないの?」
「ここは大きな町だからね。捜すのに少し時間が掛かっているんだ」
キツい。
笑顔でいることがこれほどキツいとは思わなかった。
薄々感じていたが、俺は嘘や隠し事に向いていないのかも知れない……。
「お姉ちゃんたちは……? お姉ちゃんたちはどこかへ行っちゃうの?」
クレアちゃんがアリシアにすがる。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんはお仕事で森へ行かないとならないの。その森はとっても危ないところだからクレアちゃんを連れて行けないの」
アリシアが「少しの間、お利口さんにしていてくれると嬉しいな」と優しく語りかけた。
「少しってどれくらい?」
幼いながらもわがままを言える状況でないことを察したようだ。
涙を堪えているのが分かる。
「失礼、申し訳ないが急用を思い出した」
リチャードさんは突然立ち上がると、一目散に部屋の外へと飛び出していった。
意外と涙もろいな。
クレアちゃん以外の者はリチャードさんが涙を堪えきれずに飛び出したことに気付いていた。
アリシアが何ごともなかったようにクレアちゃんの質問に答える。
「少し、じゃ分からないわよね。そうね、十回朝がきたらかな」
「あたし、数を数えられない……」
寂しそうに
「クレアちゃん、数ならお姉さんたちが代わりに数えてあげるわ」
「そうよ。クレアちゃんがお勉強するなら数だけじゃなくて文字だって教えてあげるわよ」
とコニーとダリア。
「俺たちが帰ってくるころにはクレアちゃんのお父さんとお母さんが見つかってるかも知れないぞ」
「ありがとう」
無理に笑顔を作っているのが分かる。
自分が元気づけられていると感づいたようだ。
「それじゃあ、クレアちゃんとは一旦ここでお別れね」
「お土産買って戻ってくるからね」
アリシアとメリッサちゃんの言葉に涙を堪えたクレアが小さくうなずいた。
俺はガードナーさんとコニーさん、ダリアさんに改めて頭を下げる。
「それではよろしくお願いします」
「安心して任せてください」
ガードナーさんが力強くうなずく傍らで、コニーとダリアも小さくうなずいた。
◇
クレアちゃんをコニーとダリアにお願いした俺たちは直ぐ出発をすることにした。
宿屋に預けていた馬車に乗り込み門へと向かう。
入ってきたのとは逆の門――、南門と呼ばれる門である。
「今日はゴートの森に向かうパーティーが随分と多いな」
町を出る手続きの際に門場がぼやいた。
「そんなに多いんですか?」
「あんたたちでもう三十四組目だよ」
それがどの程度多いのか分からない俺は普段どれくらいの数のパーティーがゴートの森に向かうのかを聞いた。
すると気のいい門番が答える。
「最近は特に減っているよ。だいたい五、六組かな。多くても十組を超えるくらいだ」
「それは多いですね」
「特別に多いのは外国人のパーティーが増えたからさ」
もう一人の門番が言った。
ここは国境の町だし、無属性の魔石が採取できる魔物が生息する地域なので、外国人のパーティーも決して珍しくはないはずである。
「外国人のパーティーがそんなに多かったんですか?」
「多かったね。ゴートの森に向かった半数は外国籍じゃなかったかな?」
「競争相手が多そうだなー」
「ボウっとしていると手ぶらで帰ってくることになるかもな」
そう言って快活に笑う門番に耳打ちし、
「手ぶらで帰ってくるのは避けたいので、ゴートの森に向かったパーティーの詳細が分かるものを見せて頂けませんか?」
銀貨を握らせる。
門番は無言で指を二本立てた。
追加でさらに銀貨を渡すと、
「少し待っていてくれるか? 資料を整理したら直ぐに手続きを再開するから」
そう言って、今日、南門を出て行った者たちの名簿をテーブルの上に広げた。
ありがたい。
門番がわざと背を向けている間に名簿に目を通す。
ゴートの森に向かった外国人の半数以上がタルナートを拠点とする冒険者パーティーだった。
「本当かよ……」
思わず声が漏れた。
「どうしました?」
「何かあったんですか?」
アリシアとメリッサちゃんも名簿をのぞき込む。
「姿を見かけないと思ったら先回りですか……」
「彼女、タルナート国籍だったんですね」
そこには今朝一番に門を出たパーティーのメンバーとしてリネットさんの名前が書かれていた。
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あとがき
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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました
皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします
作品ページです
https://sneakerbunko.jp/series/mutekisyonin/
Bookwalker様商品ページ
https://bookwalker.jp/deca6c822c-70af-447e-bee6-d9edb8a53c46/
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