第29話 商業ギルドの二階で

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        謹賀新年

□□□□□□□□□□□□□□□ 青山 有


旧年中は応援頂き誠にありがとうございました

改めて御礼申し上げます

今年もどうぞよろしくお願いいたします



―――― 本文 ――――



 魔術師ギルドでの手続きを終えた俺たちはリチャード氏たちと合流すべく商業ギルドへと移動する。

 商業ギルドに入ると既にリチャード氏たちが待っていた。


「お待たせしました」


「いいえ、時間通りです」


 リチャード氏が懐中時計を確認しながら言った。


「リネットさんが見当たらないようですが?」


「彼女ならギルドで手続きをしたら直ぐに分かれました。十一時過ぎには商業ギルドを出て行きましたな」


 高く売れそうな商品がないか町中の商店や露店を見て回ると言っていたそうだ。


「アサクラ様の商品に興味があるようなことを言っていた割には、随分あっさりと消えちゃいましたねー」


 興味なさそうなメリッサちゃんの後にレイチェルとノエルが続く。


「町に着く早々の別行動も文句一つ言いませんでしたね」


「案外、ふらっと戻ってくるんじゃないかしら」


 十一時過ぎからアリバイなし、か。

 手紙の差出人がリネットさんの可能性も出てきたわけだ……。


「お帰りなさい」


 クレアちゃんが遠慮がちに俺とアリシアに挨拶をした。


「お昼は何を食べたの?」


「イノシシのお肉とお野菜!」


 しゃがんで話しかけるアリシアにクレアちゃんが元気いっぱいに答えた。

 さて、話し合いたいことが幾つかあるが、クレアちゃんのいるところで話すようなことでもないよなー。


 二度手間にはなるがガイたちにクレアちゃんを任せて、リチャード氏とメリッサちゃんの二人と先に情報交換をするとしよう。


「メリッサちゃん、ギルドの会議室を少しの間借りられないかな?」


「掛け合ってきます」


 メリッサちゃんはその場を離れてカウンターへと向かった。

 俺はリチャードさんに確認する。


「宿屋は押さえて頂けましたか」


「もちろんです。クレアちゃんの分も含めて全員同じ宿屋を確保しました」


 商業ギルドの隣にある宿屋だと言った。


「ありがとうございます」


 その後、少しの間雑談をしているとメリッサちゃんが戻ってきた。


「二階の会議室を借りられます」


 早速情報交換と行くか。


「ガイ、俺とアリシア、リチャード氏、メリッサちゃんで二階の会議室を使う。その間、クレアちゃんを頼む」


「お安いご用です」


 ガイが返事をする傍らでレイチェルとノエルがクレアちゃんに話しかける。


「クレアちゃん、お腹空いてない?」


「お姉さんたちと何か甘いものでも買いに行こうか」


「いいの?」


 クレアちゃんの視線が俺とアリシアをさまよう。


「大丈夫よ。お姉さんたちと美味しいものを食べてらっしゃい」


「ありがとう」


 はしゃぐクレアちゃんに見えないよう、五人分の食事代としてガイに金貨を渡す。


「これは幾らなんでも多すぎます」


「予定外の仕事の報酬込みだ」


 子どもの面倒を見るくらい予定外の仕事などと思っていないと、金貨を受け取ろうとしないガイになおも言う。


「クレアちゃんの面倒をあと数日見て貰うことになるかも知れない」


「え?」


「彼女の気を紛らわしてやってくれ」


「分かりました」


 気の重い表情をしてガイが引き下がった。

 そのやり取りを直ぐ横で聞いていたメリッサちゃんが何とも言えない表情でこちらを見ている。


「二階へ移動しよう」


 俺がそう言うとリチャード氏が無言で階段へ向かった。


「クレアちゃん、あとでな」


 俺に続いてアリシアとメリッサちゃんがクレアちゃんに手を振る。


「お姉さんたちと楽しんでらっしゃいねー」


「何を食べたか後で教えてね」


 俺とアリシア、メリッサちゃんはリチャードさんに続いて二階へと上がった。


 ◇


「クレアちゃんの両親の所在は分かりましたか?」


 会議室の椅子に座るなり、メリッサちゃんに聞く。


「分かりましたが……」


 メリッサちゃんの顔が歪んだ。


 一階でも反応がおかしかったが、悪い知らせだろうか……。

 彼女が言葉を続けるのを待っていると、リチャード氏が後を継いで話しだす。


「クレアちゃんのご両親――、ヨハンさんとマリアさんは確かにこの町に住んでいました。ですが、四日前に薬草の採取をしているとき盗賊に襲われて亡くなられたそうです」


 一瞬、頭のなかが真っ白になった。

 リチャードさんもメリッサちゃんも沈痛な面持ちで黙り込む。


「四日前?」


「ええ……。襲われたのはクレアちゃんのご両親を含めて七人。商業ギルドに在籍する薬師が四人と護衛の三人です」


「なんでそんなことに……?」


 メリッサちゃんの説明を聞いたアリシアが呆然とした様子で聞いた。


「場所はゴートの森の浅いところで薬草採取をしているときに密猟の現場を目撃したため、殺害されたのではないかと言うことです」


 冒険者ギルドで聞いた、無属性の魔石を乱獲する連中がいるとの話が脳裏をよぎる。

 嫌な予感を覚えながら聞き返す。


「密猟?」


「無属性の魔石を採取し、無断で国外に持ちだしている集団がいます。それが現在起きている無属性の魔石が供給不足となっている原因だと考えられています」


「その集団がやったと?」


「現場の状況から推察するとその可能性が非常に高いと言うことです」


 不審な殺害事件はこれだけに止まらない。

 この一月あまりで四回、二十四人が謎の集団によって殺害されていた。


「野放しなのか?」


「いいえ。衛兵はもとより騎士団も動いていますが、相手が巧妙でこれまでもほとんど証拠が残されていないそうです」


「クレアちゃんにどう知らせるかは後で考えよう」


 俺はリチャード氏とメリッサちゃんに商業ギルドで入手した情報について話を聞くことにした。

 結果、俺たちが冒険者ギルドと魔術師ギルドで入手した情報と合致した。


 無属性の魔石の供給不足。

 その原因は正体不明の集団による密猟と無許可での国外持ちだし――、密輸によるものだということが判明した。


 そして、黒幕がタルナート王国の騎士団かそれに近い組織である可能性が浮上する。


「カラムの町で起きた誘拐事件と役者が似すぎていると思わないか?」


 俺の疑問に三人が無言で同意した。


 これまで無属性の魔石の供給不足とカラムの町で起きた誘拐事件を関連付けて考えることはなかった。

 いまでも、役者が似すぎていると言うだけで明確な繋がりは見つかっていない。


 それでも関連付けて考えなければいけない。

 そんな不吉な予感が胸の奥で渦巻く。


「クレアちゃんにこのことは?」


「いずれ話さないとならないことだが当面は伏せておこうと思うが、どうだろう?」


「あたしは賛成です」


「あたしもです」


「私も賛成です」


 四人の意見が揃った。


 辛いことを先延ばしにしているのは重々承知しているし、何の解決にもならないことも分かっている。

 それでも、幼い子どもの悲しむ顔を直ぐには見たくなかった。




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        あとがき

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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました

皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします


作品ページです

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Bookwalker様商品ページ

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