第25話 ギルド、騒然
手加減をしていたこともあり、殴り倒された男たちの怪我は大したことはなかった。
それでも念のため全員をアリシアが治療している。
俺の攻撃をかわして降参を申し出た男――、ダグラスと名乗った彼は怪我をしていなかったのだが、アリシアの治癒魔法を見て自分も治癒魔法をかけて欲しいと申し出た。
「はい、終わりましたよ」
アリシアがダグラスに治療が終わった事を告げる。
「いやー、一昨日負った傷まで治してもらって申し訳ありません」
「いいんですよ」
ついでですから、とアリシアが微笑むと男は馴れ馴れしく媚びを売る。
「お嬢さんみたいな凄い治癒魔法は初めてですよ」
「おい、アリシアに懐くな」
「もしかして若旦那の彼女ですか?」
「いやだわー」
反応したのはアリシア。
頬を染めて身体をくねらせている。
ダグラスが俺へと視線を移した。
「やっぱり若旦那の彼女でしたか」
「あんたには関係ないだろ。そんなことよりも俺たちに絡んで来た理由を聞こうか?」
俺は椅子に座っている男たちを
四人はビクリと首をすくめたがダグラスだけは飄々とした受け答えをする。
「若旦那、酒でも飲みながら話しましょうよ」
「誰が若旦那だ」
ロドニーに倣っての若旦那呼びを注意すると、「では、お名前を教えて頂けますか?」と言って人懐っこい笑みを浮かべた。
どうにも調子の狂うヤツだな。
俺は周囲の冒険者やギルド職員が遠巻きにしてこちらの様子をうかがうなか自己紹介をする。
「ダイチ・アサクラ。カラムの町に拠点を置く商人だ」
「魔術師でしょ?」
「魔術師はついでだ」
本業は商人だと念を押す。
するとダグラスがロドニーに視線で問いかけた。
「アサクラ様は商人が本業だ」
ロドニーの言葉にチンピラ五人が目を丸くした。
「あのう、あたしの自己紹介も必要でしょうか?」
会話が途切れたところでアリシアが遠慮がちに聞くと、チンピラ五人が「お願いします」と口をそろえて言った。
「アリシア・ハートランド。錬金術師の見習いをしています」
リディの町へは俺の手伝いで商人としてきたのだと説明をした。
続いてロドニーが冒険者だと自己紹介をする。
「スハルの裔のサブリーダーだ。いまはアサクラ様とアリシア様の護衛を務めている」
「若旦那の護衛?」
ダグラスが不思議そうに聞き返した。
「護衛だ」
気恥ずかしそうに答えるロドニーに男の一人が恐る恐る聞く。
「てことは若旦那よりも強い?」
五人の視線がロドニーに集中する。
彼らがロドニーの答えを待っていると、入り口付近からざわめきが聞こえだした。
「ミャー」
入り口の方に視線を向けると訪れた冒険者と一緒にニケが入ってきたところだった。
頭の上にピーちゃんを乗せて……。
「冗談じゃねえぞ!」
「なんでこんなところにこんなのがいるんだよ!」
「見間違い、だよな?」
「逃げろ!」
入り口の方へ逃げる者はいない。
全員が訓練場へと続く扉に殺到する。
職員の一人が叫ぶ。
「高位ランクの冒険者は対処をお願いします!」
随分と冷静に対処出来る職員もいるんだな。
「冗談じゃねえ、室内でブルーインフェルノの相手なんかできるかよ!」
「外へ、町の外へ誘導するのが最優先です!」
「バカヤロー! 自分たちが外に出るのが先だ!」
騒然とするなか、アリシアの涼しげな声が響く。
「ピーちゃん、こっちよ」
「ピー」
甲高い鳴き声で応えるとニケの頭の上から飛び立ったピーちゃんがアリシアの人差し指に止まった。
ギルド内が一瞬で静寂に包まれる。
チンピラ五人も例外ではない。
「このブルーインフェルノは彼女の従魔なので心配はいりません」
俺の言葉に再びざわめきが起こるが、先ほどのような騒ぎになることはなかった。
無言で固まっているチンピラ五人にロドニーが言う。
「アリシア様が危険だと判断するとこのブルーインフェルノが暴れ出すから、そうならないようアリシア様を護衛するのが俺の仕事だ」
俺よりも強いわけではないと告げた。
「分かる、分かるぞ。そいつは重要な仕事だ」
「ああ……、重要だ」
チンピラ五人はロドニーが護衛であることに納得し、仕事の重要性にも理解を示した。
「もしあんたたちがアリシア様に近付いていたら、この青い小鳥が壁を突き破ってたことだろうな」
「よかった……」
「お嬢さんを脅かさなくて助かった……」
五人が一斉に脱力した。
「そろそろ話を戻しても良いか?」
俺たちに絡んで来た理由を話すよう、ダグラスに促した。
ついでにゴートの森の情報も聞き出しておくか。
「実はですね」
「あの、よろしいでしょうか?」
ダグラスの言葉を遮ってギルドの女性職員が話しかけてきた。
気のせいか頬が引きつっているような……。
「お話の途中で申し訳ありませんが従魔の申請とリディの町への滞在申請が必要でしたそちらを先にお願いします」
「彼らとの話が済んだら直ぐに」
「申し訳ございませんが、こちらを先にお願いいたします」
有無を言わせない凄みがある。
やっぱりピーちゃんの存在をそのままにして置いてはくれなかったか。
「若旦那、ここは素直に従いましょう」
俺はロドニーの忠告に従って、
「分かりました。では早速手続きをさせて頂きます」
女性職員に手続きを優先すると告げた。
ダグラスたち五人が動かないよう、ニケとピーちゃんを見張りに残して、俺とアリシア、ロドニーは女性職員の後に付いてカウンターへと向かった。
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