第23話 冒険者ギルド@リディの町
扉を潜るとカラムの町の冒険者ギルドとさほど変わらない造りのフロアが広がっている。
部屋の中央付近には冒険者とギルド職員を隔てるようにカウンターが設置され、建物の裏手にある訓練場へと続くとも割れる扉が部屋の奥にあった。
壁にはランクに応じて依頼が張り出されている。
「先に張り出されている依頼内容を確認しますか? それとも受付に滞在の申請をしますか?」
とロドニー。
冒険者ギルドを訪れた目的は三つ。
一つはリディの町で出ている依頼がどのようなものかを確認すること。
もう一つがゴートの森に関する情報収集である。
最後が滞在申請だ。
俺とアリシアは商業ギルド、魔術師ギルド、冒険者ギルドの三つの組織に所属しているので、それぞれのギルドに滞在の申請をしないとならない。
「滞在申請は後回しにしよう」
初心者向けの依頼内容から見ていくことにした。
「カラムの町と代わり映えがしませんね」
「G、Hランク向けの依頼は町中の作業や雑用がメインなのは仕方がありませんよ」
残念そうな顔のアリシアにロドニーが言った。
見習い冒険者や下位冒険者や低級冒険者と呼ばれる者たち向けの仕事なので、報酬も安価で仕事内容も一般的な冒険者からはほど遠いものが多くなるのだと付け加える。
「薬草の採取がE、Fランクになるのか」
「そう言えば隣にはありませんでしたね」
カラムの町では簡単な薬草の採取は見習い向けの依頼にも交じっていた。
しかし、ここでは下位ランク向けの依頼。
初心者お断りとなっている。
「薬草採取ができる付近に出現する魔物がそれなりに強いってことですね」
ロドニーの言うとおりなのだろう。
問題は以前からそうだったか、だ。
俺は確認すべき項目にそのことを付け加え、中位ランクの依頼が貼られた掲示板へと移動する。
「ここで初めてゴートの森が出てきたな」
「無属性の魔石採取の依頼もありますね」
キングエイプやブラックタイガーといった戦闘力の高い魔物の名前が出てきた。
単体の戦闘力はともかく、群れたキングエイプにはベルトラム商会の護衛でも手を焼いていた。
無属性の魔石採取依頼の一つを指してロドニーに聞く。
「キングエイプの群れが対象になっているが、これってC、Dランクには少々酷なんじゃないのか?」
「決して無茶な依頼じゃありません。C、Dランクでも人数が揃っていて連係が取れれば何とかなりますよ」
高位ランクの冒険者でも急造パーティーなどの連係に不安がある方が失敗する確率は高いのだと言う。
俺とアリシアはロドニー説明に感心しながら高位ランクの依頼が貼られた掲示板の前へと移動した。
張り出されている依頼は討伐と魔石や素材の採取で、ターゲットとなるフィールドは軒並みゴートの森だった。
「ゴートの森に入るんなら、魔術師であることを公にしないと絶対に揉めますよ」
俺もロドニーの意見に賛成だ。
「やっぱりそう思うよな」
「そうなのですか?」
不思議そうにするアリシアにロドニーが説明をする。
「冒険者ってのは縄張り意識が強いんです。だから、他所を拠点としている冒険者に狩り場を荒らされるってのは受け入れがたいんですよ」
「よく分かりませんが、そうなのですね」
本当に分かっていなさそうなアリシアにロドニーが力無く言う。
「この町だと、低位ランクの冒険者がゴートの森で採取をしようとしている、って噂が立つだけで目を付けられます」
「まあ!」
「ところで、若旦那とアリシア様の冒険者ランクはどれくらいですか?」
「Bランクだと思います」
「じゃあ、俺はCランクかな?」
「勘弁してくださいよ。それは魔術師のランクですよね」
ロドニーが天を仰いだ。
「ちょっと待ってくださいね」
アリシアが冒険者のギルド証を確認しようと鞄の中を探しだす。
「お二人とも冒険者として何か依頼を受けたことはありますか?」
「いや、ないな」
「ありません」
俺に続いて手を止めたアリシアが言った。
「多分、お二人ともFランク、下手したらGランクかHランクです」
「冒険者ギルドのランクって魔術師ギルドのランクが考慮されるんじゃなかったのか?」
「あたしはてっきり同じランクになるのかと思っていました」
驚く俺とアリシアを前にロドニーが頭を抱えた。
「冒険者のランクは強さだけじゃないんです。貢献度や依頼達成率の影響の方が大きいんです」
初耳だ。
「お二人とも冒険者のギルド証を確認してください」
ロドニーの言葉にアリシアがギルド証を捜すのを再開した。
俺もバッグから取り出す振りをして
アリシアと二人、互いに冒険者のギルド証を見せ合うと……。
見事にFランクだった。
しかも、「Fランク相当とする」という謎の補足事項が書き込まれている。
「どちらもFランクですね」
「Fランクですね」
「Fランクだな」
三人の視線が交錯する。
「えっと、どうしましょう?」
「先ほども言いましたが、他所者、それも低位ランクの冒険者がゴートの森で採取をしようとするのは不味いと思いませんか?」
力無く笑うアリシアにロドニーが詰め寄る。
「思います」
「でしたら、アリシア様からも魔術師ギルドのランクを開示するように若旦那を説得してください」
ロドニーのやつ!
俺を説得するのにアリシアを利用したな。
「ダイチさん、開示しましょう」
即決かよ、アリシア。
だが、アリシアにそう言われては嫌だとも言えない。
「そうだな、あとで滞在申請をするときに開示しよう」
俺の言葉にロドニーが安堵のため息を漏らした。
「兄ちゃんたち、ゴートの森に入るつもりか?」
「素人が入るところじゃねえな」
背後から不穏の響きの籠もった声が聞こえた。
続く、嘲笑を含んだ笑い声。
「あちゃー」
ロドニーが再び天を仰いだ。
さて、イベント発生だ。
「ええ、そうなんですよ。ゴートの森で無属性の魔石を採取する予定です」
不穏な空気をまとった背後の連中に余裕たっぷりの笑顔でそう言った。
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