第22話 リディの町の事情
「ノイエンドルフ王国のカラムの町からです。目的はゴートの森での狩猟と魔石の買い付け、商業ギルドの依頼で市場調査を行います」
リディの町の門番に商業ギルドの身分証を提示する。
「お前たちが市場調査だと?」
年配の衛兵が俺とアリシアに怪訝そうな視線を向けると、復活したリチャードさんが衛兵と俺との間に身体を入れた。
「私が調査団の責任者です」
「こちらが正式な書類です」
それにメリッサちゃんが続く。
カラムの町の代官と商業ギルドのギルドマスターの署名が入った依頼書を衛兵たちの前で広げて見せた。
「後ろの連中は護衛か?」
「護衛はこの四人で二人は商業ギルドの職員です」
リチャードさんの言葉に従って、スハルの
衛兵が身分証を確認する間、年若い衛兵が俺とアリシアに聞く。
「目的は無属性の魔石か?」
「ええ、無属性の魔石が仕入れられればいい儲けになりますから」
「無属性の魔石を求めて荒っぽい連中が随分と町の中に入り込んでいる。あんたらは護衛の数も少ないようだし十分に気を付けるんだぞ」
衛兵は俺とアリシアを見ながら「あんたら、狙われそうで心配だよ」と漏らした。
「ご忠告ありがとうございます」
「もしかして治安が悪化しているんですか?」
アリシアが小声で聞くと衛兵は無言で渋い顔をする。
これは気を付けないと不味そうだな。
俺とアリシアが顔を見合わせていると、スハルの裔たちの身分証を確認していた年配の衛兵が声を上げた。
「四人とも魔術師ギルドにも所属しているのか! しかもBランク魔術師が二人とは凄いな」
「へー、腕利きを雇っているようだな。もしかして、
年若い衛兵が驚いた顔をした。
「まあ、そんなところです」
「その女の子は?」
年配の衛兵がクレアちゃんの身分証を求めた。
「実は道中で盗賊に襲われまして」
リチャードさんがことの
「この町に住む彼女の両親の下まで送っていくつもりです」
「ヨーゼフとマリアの娘ね」
クレアちゃんの祖父とクレアちゃんの身分証を確認していた年配の衛兵がつぶやいた。
その反応にメリッサちゃんが顔を輝かせて聞く。
「もしかして、心当たりがありますか?」
「残念ながらないよ」
「そうですか……」
メリッサちゃんの耳と尻尾が力無く垂れ下がった。
そう都合良く見つからないか。
その後、積み荷の検査を受けて俺たちはリディの町の門を潜った。
◇
門を抜けた広場まで来たところで足を止めた。
「リネットさんはこのあとどうされるんですか?」
俺たちに続いて門を潜った彼女にメリッサちゃんが聞いた。
「商業ギルドへ向かいます」
リネットさんはこのリディの町で商売をする許可を取っていなかった。
その許可を取るために商業ギルドへ向かうという。
「我々も商業ギルドに顔を出しますがアサクラ様たちはどうされますか?」
リチャードさんがこのあとの動きについて確認を求めてきた。
商業ギルドの用事はリチャードさんとメリッサちゃんだけで事足りる。
商業ギルドでの情報収集を二人にお願いして、俺たちは冒険者ギルドに出されている依頼内容の確認をすることにした。
「道すがら町の様子を見て回ろうと思います」
若い衛兵の言っていた治安が悪化しているというのも気になる。
「分かりました。では、四時に商業ギルドで落ち合うと言うことでよろしいでしょうか?」
「問題ありません」
と言うことで、どうチーム分けをするかだ。
「俺とアリシアの二人で冒険者ギルドに行くから、ガイたちとクレアちゃんはリチャードさんたちに同行を頼む」
「その組み合わせは良くないと思います」
反対意見を述べるガイの傍らでメリッサちゃんもうなずく。
「戦力面を考えると理想的だと思うが?」
若い衛兵が言ったように町中の治安が悪化しているならリチャードさんたちに護衛の四人をつけるのが望ましい。
「戦力的にはそうかも知れませんが、アサクラ様とアリシア様の組み合わせはチンピラたち目を付けられ易いと思います」
「その、若旦那とアリシア様はとても強そうには見えないので……」
と言い難そうにロドニー。
「強そうに見えないのは分かっているつもりだ」
この異世界では肉体的な強さよりも魔法の強さがものを言う。
それこそ魔法が使えない屈強な男性でも、魔法が使える子どもに負けるなんて事は当たり前のことだ。
弱そうに見えても魔術師の可能性がある以上、そうそう絡んでくることはない。
「見た目じゃなくて、なんて言うか、その、お二人とも強そうな雰囲気がないんですよ」
「身体的にひ弱な魔術師でも、戦いに自信があれば自然と立ち居振る舞いにそれが現れます。ですが、アサクラ様もアリシア様もそれがないんです」
ガイに続いてレイチェルも言い難そうに続いた。
つまり俺とアリシアは見た目だけでなく言動も弱そうに見えると言うことか。
俺とアリシアの視線が交錯した。
しかし、すぐにアリシアが自信たっぷりに微笑む。
「大丈夫ですよ、いざとなったらピーちゃんがいますから」
「ピーちゃんはダメです!」
「それだけはやめてください」
微笑むアリシアにメリッサちゃんとリチャードさんがもの凄い勢いで迫った。
「え、ええ?」
怯むアリシアにメリッサちゃんが言う。
「ピーちゃんを戦力として考えるのは町の外だけにしましょう」
「そうですか?」
「アリシア、ここはメリッサちゃんの言う通りにしよう」
「ダイチさんがそう言うのでしたら」
少し残念そうに承諾した。
「で、どうしますか?」
ガイが問うた。
「冒険者ギルドや町中でチンピラ連中に絡まれたら俺が対処する。一度力を示せば次から絡まれることもなくなるだろ?」
「やる気満々ですね」
げんなりするガイに続いて、メリッサちゃんがクギを刺す。
「殺人は御法度ですからね」
「手加減は覚えたつもりだ」
「ダイチさんがいれば安心ですね」
余裕の笑みを浮かべてサムズアップする俺をアリシアが頼もしそうに見た。
「どうしますか?」
メリッサちゃんが不安そうに問いかけるとリチャードさんが即答する。
「ロドニー君、アサクラ様とアリシア様を頼む」
この中で一際体格のいいロドニーに俺たちと同行するように言った。
妥当なところか。
「分かりました。ロドニー、済まないが俺とアリシアに同行してくれ」
「了解です」
大きな犬歯を向きだしにして笑う。
リチャードさんたちと分かれた俺たち三人は冒険者ギルドへ向けて大通りを歩き始めた。
歩き始めること十分。
冒険者ギルドまで数百メートルと言うところでロドニーが面倒臭そうに言う。
「若旦那、早速こっちを伺っている連中がいます」
「気付いている」
「私たちってそんなに弱そうに見えるのでしょうか……」
足を止めたアリシアが、ガラス窓に映った自分と俺の姿をシゲシゲと見た。
「見た目で判断して絡んでくるようなら返り討ちにするから大丈夫だよ」
「はい」
アリシアも俺が負けるなんて微塵も思っていないようだ。
全幅の信頼がその笑顔に現れている。
だがロドニーの反応は違った。
「衛兵のやっかいになるようなことは避けたいんですがねー」
「もめ事は一回ですませるよ」
「そうじゃないんですけど」
「諦めろ」
俺は些細なもめ事が起きることを期待して冒険者ギルドの扉に手をかけた。
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