第39話 合同会議

 ゴブリン討伐を請け負ったチンピラ冒険者とトレノ村を襲った盗賊たちが接触した夜、タクラ村の村長宅で合同会議が行われた。

 タクラ村側の出席者は村長と村の役職者、自警団の主要メンバー。


 ベルトラム商会側からはクラウス商会長と側近のロイドさん、護衛部隊の責任者であるジェフリー隊長と情報を持ち帰ったカリーナの四人。

 議題は二つ。


 一つは、俺たちが持ち帰った情報を元に騎士団が到着するまでの間、村の防衛体制をどうするか。

 もう一つは今後の情報収集についてである。


 戦力はベルトラム商会の方が上だし、自警団の動きがバレバレなのでタクラ村側の顔を立てるにしても限度があった。


『情報がだだ漏れのタクラ村側に作戦の主導を握られてはたまったものじゃない』とはクラウス商会長のげんだ。


 今頃はベルトラム商会側の主導で作戦会議が進んでいることだろう。

 カリーナとワンセットで動いている俺はデニスのおっさんとフリーダさんとともに別室で世間話をしながら待っていた。


「こちらが立案した作戦を受け入れてもらえますかね?」


 ニケを抱きかかえたまま二人に聞く。

 合同会議にのぞむにあたって大まかな作戦を練っていた。


 現在、タクラ村にある戦力は大きく三つ。

 一つは自警団で、一つはベルトラム商会の護衛、最後がゴブリン討伐にきている冒険者たちである。


 冒険者たちは早々に戦力から除外した。

 現在、自警団の主力が村の北側を守備し、ベルトラム商会が南側の広場に駐留するかたちで睨みを利かせている。


 この体制と役割はそのままに、盗賊がどちらから攻めてきても対処できるように村の中央付近にベルトラム商会の主力部隊を遊撃隊として配置する。

 中央に配置された戦力なら、南北の入り口だけでなく外壁を乗り越えての襲撃にも迅速じんそくに駆け付けることができる。


 さらに、盗賊が襲撃してきたときの被害を最小限に抑えるため、南北の門に近いところに住んでいる村人には一旦、村の中央付近に避難してもらう。

 騎士団が到着するまでの間、防衛に専念する。


 これがベルトラム商会側の提案した布陣と作戦である。


「心配しなくても作戦の主導をするのも俺たちなら、矢面に立たされるのも俺たちってことになるさ」


 とデニスのおっさん。

 達観してるなー。


「タクラ村側としては代案もだせないでしょうから、こちらの案を飲むしかないわよ」


 フリーダさんがクスリと笑って根拠を示す。


「代案をだす以上、自分たちの戦力を積極的に前線へ配置する必要があるけど、この村にはそれをするだけの戦力がないもの」


 この人もはっきり言うなー。

 そのとき、会議が行われている部屋の方から扉の開く音が聞こえた。


「終わったようね」


「それじゃ、商会長を出迎えに行くか」


 デニスのおっさんが身を起こし、俺とフリーダさんがそれに続いた。

 廊下にでるとちょうど会議に出席した人たちが部屋から出来たところだった。


「予定通りだ」


 俺たちの顔を見るなりクラウス商会長が短い言葉を発し、その後ろに続いていたカリーナも無言で首肯する。

 この時点で誰かに聞かれている可能性を警戒しているのか。


 まあ、用心に越したことはないか。

 予定通りということなら、俺とカリーナ、デニスのおっさん、フリーダさんの四人は、クラウス商会長とともに南側の広場に留まり、南側からの襲撃に備えることになる。


 最も機動力を求められる中央に配置される遊撃隊は、ジェフリー隊長率いる護衛部隊の大半が担当する。

 俺たちは広場に戻ってすぐに迎撃準備を整えることとなった。


 ◇


 テントのなかに虫のと風の音が静かに響く。

 いつ襲撃してくるとも知れない盗賊たちを待ちながら、敵にいるというBランク魔術師への対策を考えていた。


 魔装の強度がどの程度かは分からないがデザートイーグルで致命傷を与えられない可能性も考慮こうりょすべきだろう。

 となると、対物ライフルか……。


 だが、誰がBランク魔術師か分からない。

 全員をBランク魔術師と想定して対物ライフルを連射するのは非現実的だ。


 アサルトライフルの掃射で先制して、残ったヤツらを対物ライフルで撃ち抜くのが妥当だろうか……。

 魔装は光と音と空気は通すから、麻酔ガスという手もあるな。


「ミャー、ミャー」


 ニケの鳴き声で思考が中断された。


「どうした?」


 足元で鳴いているニケを見ると、先ほどまで遊んでいた紙を丸めて作ったボールを俺の足元に押しやった。

 先ほどまでこの紙を丸めて作ったボールを俺が投げてニケが取ってくるという、犬がよくやる遊びをしていた。


「またこれで遊びたいのか?」


「ミャー」


 聞くと可愛らしい鳴き声が返ってきた。

 気分転換に相手をしてやるか。


「ニケ、取ってこい!」


「ミャー!」


 テントのなかで紙を丸めて作ったボールを投げるとニケが空中で見事にキャッチした。


「おお! 凄いじゃないか、ニケ」


「ミャー」


 褒めるとすぐに駆け寄り、くわえていた紙のボールを俺の前に置いて爛々らんらんと光る目で見上げる。


「もう一度やりたいのか?」


「ミャ!」


 短く鳴くと飛びかかるような姿勢で紙のボールを見る。


「よーし、じゃあ、もう一度な」


 再び投げると、今度は先ほどよりも強めに投げにも拘わらず、これもテントに当たる前にキャッチした。


「ニケ、お前、凄くないか?」


 ボールを咥えたニケが得意げな顔で駆け寄る。

 そして、俺の目の前にボールを置いた。


 もしかして、これまだ続けるつもりなのか……?


「ニケ、そろそろやめないか?」


「ミャー、ミャー」


「分かった、分かった。続けるよ」


 抗議の鳴き声を上げるニケに降参したことを示すようにボールを持ったまま両手を挙げた。

 すると途端に鳴きやみ目を輝かせてボールを見つめる。


 そのとき、虫の音と風の音だけが流れていたスピーカーから人の会話が聞こえてきた。


「ニケ、ごめん。後で遊んでやるからな」


 俺がスピーカーから聞こえる会話に耳を傾ける。

 するとニケもスピーカーが置いてあるテーブルの上に飛び乗り俺と一緒に会話に耳を傾けるのだった。

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