第37話 盗賊たち (Side 盗賊)

 森に分け入った先、大地たちが発見した盗賊たちのアジト。そこは彼らが予想した通り六十人余りの盗賊たちが隠れていた。

 広い洞窟のなかにともされた松明たいまつあかりが男たちの姿を薄らと浮かび上がらせる。


 町に潜入したアレンたちと夜の草原で連絡を取り合った粗暴そうな男が報告を終えようとしていた。

 村の主要戦力である自警団が北側の入り口に戦力を集中する動きがあることや、自警団の人数と魔術師の数などの大まかな戦力を報告し、


「――――軽くあしらわれたアレンたちは、その護衛の女とガキにすっかりブルっちまっているようでした」


 最後に潜入組とベルトラム商会の護衛とが接触したときのことを付け加えた。


「Bランク魔術師なのは間違いないんだな?」


 落ち着いた雰囲気の壮年の男が聞き返した。


「女の方だけですが、魔術師ギルドの認識票を確認したと言ってました」


「そのBランク魔術師よりも手強いガキというのは本当なのか?」


 壮年の男の隣で報告を聞いていた長身の男が、信じられないといった様子で報告した男に聞き返した。


「ヨーゼフさん、あっしも信じられなかったんでアレンのヤツに聞き返したんですが、間違いなくガキの方がヤバいと言っていました」


 アレンたちの魔装を貫いた遠隔の攻撃魔法について再び語った。その口調はアレンたちの言うことを話半分に受け取っているようである。

 だが、話を聞いていたヨーゼフは違った。


「どうします、ボス?」


 落ち着いた雰囲気の壮年の男に問いかける。

 その傍らで別の男もボスと呼ばれた壮年の男に語りかける。


「ベルトラム商会か……。面倒なのが居座りましたね」


 ボスと呼ばれた壮年の男が無言で考えに浸っていると周囲の盗賊たちの間にざわめきが起きる。


「人数はこっちの方が多いんだし、何とでもなるんじゃないですか?」


「相手はBランク魔術師だぞ」


「Bランクなんざ――」


「おいおい、聞き捨てならないな。俺たちのことをそんな目で見てたのか?」


「いえ、そんなつもりじゃ」


「じゃあ、どんなつもりなんだ?」


「やめろ!」


 ボスと呼ばれた男が一言で制止した。

 彼の背後に座っていた頬に傷のある青年が言う。


「自警団が動きだしたっていうのにベルトラム商会が知らん顔ってことはないと思うんだけどなー」


「ペーターもそう思うのか?」


 自分が違和感を覚えた部分を指摘した参謀役の若者を振り返る。

 ペーターの悪戯っぽい笑顔が彼の目に飛び込んできた瞬間、ハタと思い至る。


「罠の可能性があるかも知れないなということか……?」


「ベルトラム商会の商会長が馬車隊にいるんでしょ? 噂通りの商会長なら自警団を焚き付けて罠を張るくらいはやりそうだと思いませんか?」


 ベルトラム商会の商会長であるクラウス・ベルトラムの噂。


 同数の騎士団員とも渡り合えるだけの護衛を有し、正義感が強く拠点としている都市は勿論もちろん、道々の町や村で起きた揉め事や問題の解決に積極的に協力する人格者、というものだった。

 盗賊たちからすれば鬱陶うっとうしいことこの上ない人物である。


 ペーターの言葉を受けてボスが報告した男に問いかけた。


「自警団が北側の入り口付近を中心に警戒していて、ベルトラム商会は南側の入り口近くの広場に陣取ってるんだったな?」


「はい、アレンたちの報告では」


 確認を待ってペーターが言う。


「自警団が守る北側から私たちが襲撃したら、南側に陣取ってるベルトラム商会の護衛が駆けつけて加勢するだろうね」


 若いペーターの意見に耳を貸さない男たちもいた。


「だったらよー。ベルトラム商会の護衛が到着するまでに、奪うだけ奪って逃げる、ってのはどうだ?」


「自警団をぶっ潰して、時間を決めてかっさらうのか?」


「儲けが減るし、ベルトラム商会の護衛が駆けつけるのを気にしながらってのは乗り気しねえなー」


「前の村とは違ってこっちの村は若い女も多いから時間を掛けて奪いたいねー」


「いつも通り、返り討ちにすればいいんだ」


 浅慮せんりょな男たちの間から笑い声が湧き上がる。

 ボスは瞬時にそれが不可能だと結論づけた。


 普通に考えたら自警団と交戦中に駆け付けられることはないだろう。だが、罠を張っているとしたら駆け付けられるよう何らかの準備をしている可能性もある。

 周辺の住民を避難させて自警団が防衛に専念したらどうだ?


 最初から戦力を増強されていたらどうだ?

 どちらから襲撃があっても対応できるように村の中間地点に遊撃隊を配置されたらどうだ?


 ボスの胸中に不安要素が次々と湧き上がる。

 仮に自警団を壊滅させても略奪に夢中になっている仲間たちが統制のとれたベルトラム商会の護衛――、それもBランク魔術師相手に戦えるとは思えなかった。


 ボスが考え込む間も男たちは好き勝手に言う。


「いっそのこと、ベルトラム商会を襲うか!」


「まとめてヤっちまえば村の金と女だけじゃなく馬車隊の積荷つみにも手に入るな」


「馬車隊の積荷とは豪勢だな」


 たまり兼ねてヨーゼフが口を挟む。


「ベルトラム商会の護衛とやり合うのはなしだ! お前らだって手強いって噂くらいは聞いてるだろ?」


 その一言で男たちが静まった。


「Bランク魔術師か……、確かに面倒といえば、面倒だよね」


 ペーターが薄ら笑いを浮かべる。


「ペーター、何か考えがあるのか?」


 ボスが聞いた。


「怯えていたアレンさんたちの意見はさておき、ベルトラム商会の護衛が優秀だという噂は以前から耳に入ってきてる。こっちの損害を最小限に抑えるためにも、真っ正面からやり合うのは避けた方がいいかな、って」


 ペーターは最後に「可能なら戦闘は避けましょう。でも、やるなら奇襲が望ましいな」と微笑んだ。


「で、具体的にはどうやる?」


 ボスがそうペーターに聞いたときには周囲の男たちもボスとペーターとの会話に耳を傾けていた。

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