第4話 初めての戦い
黒い巨大な虎がゆっくりと辺りを見回した。
背筋を冷たいものが伝う。
「落ち着け、まだ距離はある。大丈夫だ、百メートルの距離があれば最初の一撃で仕留められなくても次で仕留められる」
対象物の重量や大きさに関係なく収納する限界距離、収納したものを出現させる限界距離ともに百メートル。
トレードスキルの検証過程で何度も確認している。
黒い虎が巨体をゆっくりと前へと進める。
足がすくむ。
震えが止まらない。
「敵が射程範囲に入ったら能力を発動するだけだ。俺はそれまでただ待てばいい」
黒く巨大な虎がゆっくりと近付く。
あと十メートル。
俺は夜営するためのシェルターとして取り寄せた巨大なコンテナのアイコンを凝視した。
コンテナのアイコンにさらに意識を集中すると、脳内に実物のコンテナが浮かび、
続いてもう一つのアイコンに意識を向けると液体が揺れる映像が脳内に映された。
「準備は万端だ」
再び意識を黒い巨大な虎へと向けると、能力の効果範囲である百メートルまであとわずかの距離まで迫っていた。
左腕に抱えたニケも虎を睨み付けている。
「大丈夫だ、安心しろ」
そっとニケの頭をなでたそのとき、黒い巨大な虎が効果範囲に入った。
ここだ!
能力を意識した瞬間、虎の足元にぽっかりと大きな空間が出現した。
地面の土を
「ガァー!」
突然足場を失った虎はなす術もなくバランスを崩し、
「よし、次だ!」
攻撃はここからが本番だ!
間髪を容れず、黒い虎を吸い込む巨大な落とし穴の中に口を開けたコンテナを出現させる。
黒い巨体がコンテナの中へと吸い込まれた!
「これで、お終いだ!」
虎が落下しきる前にコンテナの中に大量の液体窒素を送り込む。
コンテナの下部三分の一を液体窒素が満たすと同時に激しい水音が聞こえた。
「ゴアァー!」
続いて、コンテナのなかから虎の
「やった、のか?」
身を乗りだしたつもりだったが、ニケを抱えてその場に座り込んでしまった。
何とも締まらない話だ。
「ミャー」
腕のなかから俺を見つめるニケにほほ笑みかける。
「どうだ、俺の作戦は?」
俺が「大したもんだろ?」、と続けようとした瞬間、落とし穴から巨大な何かかが飛び出してきた。
「ガァー!」
咆哮が
落とし穴から飛び出してきたのは体毛を白く凍り付かせた巨大な虎。
「まさか……」
信じられないという思いと、選択を誤ったという後悔の念が胸の内を
先制攻撃の直前まで、とどめを刺す武器を液体窒素にするか、ガソリンにするかで迷っていた。
殺傷力ならガソリンで満たしたコンテナに火を放つ方が確実なのは分かっていた。
だが、大量のガソリンに火を放つことで自分たちが巻き込まれるリスクもあった。
結局、リスクを避けて液体窒素を選択したのだ。
「グルルー」
不気味なうなり声を上げて辺りを見回す巨大な虎。
怒りを
後悔している場合じゃない!
「武器だ、戦える武器!」
「フーッ」
威嚇の鳴き声と共に俺と練習していた
次々と撃ちだされる
だが、虎の勢いは止まらない。
「ゴァーッ!」
一際大きな
「何かないのか! 何でもいい! そうだ壁、壁になりそうなもの」
必死に
俺の意識が一つのアイコンの上で止まった。
「これなら……」
距離は三十メートル。
液体窒素による攻撃のせいで幾分か動きが鈍くなっているとはいえ、黒く巨大な虎がもの凄い勢いで迫るのは迫力があった。
全身から汗が噴きだす。
震える脚を自身の拳で殴りつけ、恐怖ですくみ上りそうになる脚と心を鼓舞する。
「逃げ場はないんだ! 迎え撃たなきゃ、ここで終わる!」
覚悟を決めて迫る虎を凝視する。
「タイミングが大事だ。相手の動きをよく見るんだ」
理想は飛びかかった瞬間。
あと十メートル!
先ほどまで焦りを増長させるように激しく波打っていた心臓の音が消えた。
震えが止まった。
虎の動きが妙に遅く見える。
「もしかして、俺、随分と落ち着いてないか?」
自分でも驚くほどに落ち着いていることに気付いてそうつぶやいた瞬間、俺に狙いを定めた黒い巨大な虎が宙に舞った。
「ラストチャンス!」
その言葉とともに虎の数倍はあろうかという巨大な岩が空中に出現した。
スキルの検証をしていたときに取りこんだ巨岩。
一度に収納できる限界を確認するために取り込んだもののなかで最大の重量物。
それを飛び掛かった虎の軌道に合わるように出現させた。
巨岩と虎は互いに引き合うように地表近くで重なると、巨岩はその重量で虎を地面へと叩き落し、そのまま押しつぶす。
「グオー!」
断末魔の咆哮が轟き、重量物が地面に衝突したとき特有の鈍い音と振動が響き、土煙が舞った。
「今度こそ、やったよ、な……」
土煙が晴れると巨岩の下敷きになっている黒く巨大な虎が現れた。
首があらぬ方向に曲がっている。
「念のため、
その瞬間、恐怖の対象であった黒く巨大な虎が消え、
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