第34話 黒幕
帝民党党首の胡桃沢は、かなりの強運の持ち主として知られる。
学生時代は麻雀と女遊びに狂い、大学受験の際にたまたまちらりと見た参考書のページがテストに出て有名私立大学に合格、大学時代には株で儲け、エスカレーター式で官僚の道へと進み、悪巧みをやり続けて今や飛ぶ鳥を落とす勢いで帝民党党首となった。
そんな胡桃沢の趣味はロシアンルーレットとして一部の人間には知られており、強運の持ち主と聞きつけば相手の弱みを握りロシアンルーレットの勝負を挑み、ことごとく勝ち残ってきた、その回数は5回――
健吾は、生前のクマから胡桃沢の事は朧げながら知らされてきた。
「こいつは日本で一番気をつけた方がいい人間だ」
(まさかこんなクソ野郎に目をつけられるとは思いもよらなかったな……)
ずしりと重い拳銃に弾丸を一つだけ入れてぐるりと回し、自分の頭に突きつける。
「どちらが先に撃つか?」
「あぁ、俺が撃つ」
健吾は、諦めているのかそれとも勝機があるのか、ニヤリと笑いながら、拳銃のトリガーを押す。
☆
「ねぇ! オオカミちゃんロシアンルーレットの勝負をうけたわよ!」
ミカド達は食い入るようにして、黒服が持ってきたポータプルTVプレーヤーを見つめる。
「あいつ死ななければいいな」
天狗は、不安そうにテレビで冷や汗を流しながら拳銃を握りしめる健吾を見やる。
「商談だが……」
黒服のリーダー格は、咳払いをしてマイコンに話す。
「あぁ、俺たちが持っている50億円をそのままあんた達に渡すから、それで俺たちを解放してくれるという話だな。持ってけよ、これ。中に50億円が入っているから」
マイコンは、預金通帳と印鑑を黒服達に手渡す。
「確かに頂いた」
「あんたらも大変だなぁ、あんな変態野郎の下で働いていて、でもあんたら借金あったろ?これで解放されたな」
「あぁ、あんなクソ野郎の下では働けないからな」
胡桃沢の手下の黒服達は、皆胡桃沢に借金があり、こき使われている。
その情報は、天狗達の耳に入ってきており、50億円渡す代わりに自分達を解放して胡桃沢からも解放されろと天狗達は交渉をした。
「でもねぇ、これでうちらの手持ちの銭はパーよ、約束の日まで後10日ぐらいだけど……」
「馬鹿野郎、しけた事話してるんじゃねぇよ、オオカミがなんとかしてくれるんだよ、あいつはかなりの強運の下に生まれついた男だからな」
――でも、不安だな。
天狗達は健吾を見やり、溜息をつく。
「うん?」
「どうしたの?」
「ビットコインの額が少しずつだが値上がりしてきているぞ」
「でも、バブルはとっくに弾けたんじゃないのか?」
「いや、そのバブルはまだ弾けてはいないだろうというのが専門家の見解だ」
「そうか……」
マイコンはスマホの画面に映るビットコインのグラフを食い入るようにして見つめる。
☆
ガチャン……
撃鉄が空を切る音が部屋の中に鳴り響き、健吾は溜息をつく。
既に撃ったのは、4発目である。
――こいつ早く死んでくれねぇかな。
健吾は目の前で、ニヤニヤしてこめかみに銃口を当てる胡桃沢を見つめる。
ガチャン……
「ククク、これで残りは後2発だ、あとは君が撃つのを待つだけだ」
「上等だ、やったらぁ!」
パン、という乾いた音が部屋に鳴り響き、健吾はこめかみから血を流して崩れ落ちる。
「賭けは私の勝ちだ、ククク……」
胡桃沢のサディスティックな笑い声が部屋じゅうに響き渡る。
電話が鳴り、至福の時間を邪魔されたのにムッときながら、胡桃沢は電話を取る。
「何だ?」
「えー、貴方から借りた借金の額を全て払いますので、今日限りでここを辞めさせていただきます、お世話になりました」
電話は切れて、ツーツーという音が部屋に鳴り響く。
「ケッ、あんなんよりも、俺には使える秘書がいるんだよ! 渋沢!後処理をしろ!」
外の部屋にいる、中年の頭が禿げ上がったスーツ姿の男が入ってきた。
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