第19話 録音

 死神総合大学病院から少し離れた駅のそばには居酒屋やスナック、キャバクラやピンサロが多く軒を連ねており、病院勤めが終わった医者や看護師はそこで、人様の命を預かるという相当なストレスを発散させて英気を養うのだ。


 猪狩もまた、日々の激務の憂さ晴らしに、スナックで綺麗なお姉さんと一緒に酒を飲んでいる。


「ねぇ、あの死神病院に勤めているって本当なの!?」


 齢25歳ぐらいだろうか、妙齢らしきマッシュヘアーの化粧をバッチリした女性店員は、猪狩の腕を掴み、サービスを行う。


「うん、マジだよ」


「凄いわねぇ、ささ、飲んでね!」


 女性店員は、水割りを猪狩に差し出す。


(確かここの店員は、お金を出せばやらせてくれるんだよな……)


 猪狩は水割り焼酎を飲みながら、鼻の下を伸ばして、胸元を強調する服を着ている女性店員の胸を凝視する。


「ねぇ……」


 女性店員は、艶めかしい表情を浮かべて、猪狩に顔を近づける。


「なんだい?」


「私とやらない?」


 猪狩は、強く首を縦に降る。


「幾らで……」


「5千円で良いわよ」


「え!? そんな破格で良いの?」


「良いわよー」


「これ飲んだら行こうか、ホテルに」


 この街には、デリヘル客向けの低価格のラブホテルがある、この女性店員のように、固定客目当ての売春をしている女性は少なくはない。


 猪狩はニヤニヤと笑い、女性店員の腰に手をやる。


 ☆


「なぁ、新聞社に医療ミスが違うってチクるったって、朝比奈さんの証言しかないし、確固たる証拠がないぜ……賄賂の事は別として」


 健吾は学力が小学生高学年並だが、ニュースはマメに見ていた為、マスコミに話そうにも証拠がない事を不安に思っており、クマ達に尋ねる。


 午後17時の昴病院、ここは真知子の入院している部屋、真知子の命が狙われているとクマは院長に話したら事情を了承してくれた為、クマ達はここで寝泊まりをする事になった。


「なあに、それだが俺には考えがある、その前にすべき事がある……」


 クマは周囲を見渡して、天狗を顎で指図する。


「この病院に、宇多田と繋がりのある医者が働いている、今からそいつを潰す」


「え? うちらの計画ダダ漏れじゃん……誰だよそいつは」


「副院長の風間だ、今からそいつをこちら側に引き入れる事にする」


「え? いや確かにあの親父は性根が悪そうだが、引き入れるったって……どうすれば?」


 頭の回転が悪い健吾は、クマの考えを理解できないでいる。


「これから行くぞ」


「え?あぁ、分かった」


(いや俺病み上がりなんだけどなぁ……)


 健吾は塞がりかけた盲腸の傷跡に軽く痛みがあるのか、そこを抑えながらクマ達の進む方へと足を進める。


 ☆


 駅前にあるラブホテル街にある、とある安い値段のラブホテルの一室に、猪狩達はいる。


「ねぇ、あんた凄かったわよ」


 女性店員は艶めかしい顔で、猪狩を見やる。


「へへ……」


「ねぇ、死神大学病院で医療ミスがあったって聞いたけれども……」


「あぁ、ぶっちゃけやったのは俺だ、看護師に頼んで別の奴に罪をなすりつけた」


 猪狩はかなり酔っ払っているのか、上機嫌で医療ミスの事をベラベラと話す。


「そっかーねぇ、もう一度やりましょうよ」


 女性店員は、猪狩の目の前に、整った裸体を見せつける。


「そうだな。明日非番の日だしな」


 猪狩は女性店員にキスをして、秘部に指を入れる。


「濡れているじゃねぇか、いいね」


「フフフ……」


 猪狩は女性店員をベットに押し倒す。


 *


 昼間の燈火公園に似つかわしくない、気合いを入れたメイクをした、如何にも水商売をやっていますよと言った具合の女性が、ミカドと何かを話していて、小さな機械を手渡し、ミカドは茶封筒を手渡す。


「こんな仕事ならいつでも紹介してくださいね、喜んでお受けしますから」


「ありがとうね、助かるわよ。ゴムやフェラはしたんでしょう? 念の為に性病のチェックはしたほうがいいわね、あいつ、女たらしで有名だからね。これはお礼の二万円よ」


「え?でも、一万五千円だったんじゃあ……」


「五千円は私の気持ちよ」


「あ、有難うございます」


 その女は、ミカドに深々とお礼をして、去って行き、その様子を、クマ達は物陰から見ている。


「やったわよクマさん、猪狩から証言の裏は取れたわよ」


「でかした」


「クマさんの言う通り、猪狩って男は相当な女たらしで、ちょっと可愛い女の子がいればすぐに手を出すのね」


「あぁ。よし、これであとは、新聞社にたれこむだけだ」


「でも、風間は……」


「あいつなら平気だ、あいつ、大学受験を控えた息子がいて、死神大学に裏口入学をすることが決まっていたのだが、もっといい大学に入れるようにしてやった、光明大学の推薦状を渡したらこっち側に寝返った、後は新聞社にチクるだけだ……」


「それなら安心ね」


 暖かな日差しが彼らを照らしている。


 まるで、この計画の成功を案じているのかの様に

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