第11話 真相
大都会には似つかわしくない場所は必ずと言っていいほど存在する。
今朝、健吾達が和成と一世一代の大勝負をしたY県K町は日本では有数の都会で、大企業の本社ビルが乱立する場所であり、就活生や中途採用のおこぼれにあずかろうとするサラリーマン達にとっては憧れの聖地。
その街の片隅にある灯公園は燈火公園よりもやや狭い面積ではあるのだが、緑があり、休日になると暇を持て余した学生のデートスポットや家族連れが来る場所、だが、そんな場所にも必ずと言っていい程ホームレスは社会の闇として存在する。
(仮にも俺は大企業の副会長だぞ、わざわざこんな場所に呼び出さなくてもいいのだが、だが、カフェとかで会社の人間には見られたくは無いしなあ、まあ仕方ねえか……)
葉山は心の中で桐生に毒づきながらも、自分がやっている事がリスクがある事だから仕方の無い事だと渋々了承して、初夏の夜の肌寒さに身を震わせながら、桐生との待ち合わせの灯公園に足を進める。
夜の灯公園は、根城にするホームレスが数名おり、市役所の説得空しく、世間を拗ねるようにして公園にテントを張り、社会不適合生活ライフを存分に楽しんでいる姿が桐生の目に入り、彼等ホームレスの体から発する、不衛生な独特の体臭に鼻をつまみながら、桐生にスマホで着いたことを伝え、ベンチに腰掛ける。
(ここで私はくじける為にはいかない、この日の為に私はわざわざ汚したくない手を汚した、あの餓鬼とじじい、相当なペテンだぜ、まあ俺が会長になったら、社会的に抹殺してやる……)
学生時代は勉強に明け暮れて恋愛の一つや二つできず、苦学の末に一流私立大学の理工学部へと進学し奨学金を使い卒業して、大学で手に入れたコネを使い馬力鉄鋼に大卒で入社して、エリートコースを驀進、恋愛等今まで無く、童貞は高級ソープで捨て、社会人が経験する青春時代は接待などに明け暮れて、そんな毎日の果てに、とうとう会長の座が目の前に現れる――筈だった。
だが、何を狂ったのか和成は、勇気を見つけ出した者に株式の3分の2を譲渡するとのお触れを周囲に出して、健吾が現れた事で、葉山の人生設計は大きく狂った。
(あの野郎、何故勇気を見つけ出したんだ?このままでは、一色が出世してしまう……!)
「葉山さん」
深刻そうな表情を浮かべている桐生が、ふらりと葉山の目の前に現れる。
「遅いぞ、裏は取れているのだな?」
「それが……」
桐生は、複雑な表情を浮かべて、口を開く。
「はいここまでだ」
ホームレスの住むテントの中から、クマ達が出てくる、そこには、和成と一色の姿がある。
「な!? 会長!? それに一色、何故貴様がここに!?」
「葉山、貴様は勇気君を殺したんだな?」
和成は憎悪の目で、葉山を見つめる。
「な!? いえ、それはありませんが……何を根拠にそう言っていらっしゃるのですか?」
「桐生が、俺に話した、数年前に勇気君を拉致して、殺したと、その死体はコンクリートに入れて海に沈めてあると……! 貴様、そこまでして出世したいのか?」
「葉山さん、あなたが殺したという証拠は、桐生の持ってるスマートフォンのラインに書いてある、貴方は勇気君を拉致した後に拳銃で殺したと、桐生が証言した。その証言は俺達が持っているスマホに同期して保存してある、これを警察に行って話そうかな? ……観念しろ、この人殺し野郎が!」
クマは、にやりと笑い、スマホの桐生とのやり取りを葉山に見せる。
「……安心しろ、この事は警察には話してある、もうすぐでここに来る。白状して貰おうか、全てを」
「分かったよ!勇気は俺が殺した、出世する為に必要だったんだ!何であんな少し頭のいい餓鬼がいきなり株式の大半を貰うんだ!? おかしいだろうが! 俺はこの会社の為に身を粉にして働いてきた!」
「それはお前が人望が無いからだ」
和成は、絶望の表情を浮かべる葉山を見て淡々と告げる。
「……そうか、わかったよ、畜生!」
葉山はポケットから拳銃を取り出して、和成に向ける。
「てめえを殺して俺も死んだるわ!」
「ふん」
電光石火の天狗の飛び蹴りが葉山に炸裂して、葉山は拳銃を地面に落とした。
「糞ったれ!」
葉山の無念の叫びが、灯公園に響き渡った。
$
葉山が逮捕されてから、次の日の朝を迎え、改めて和成は一色とクマ達を会長室に呼び出した。
「先日はお世話になりました」
和成は、クマに深々と頭を下げる。
「いえいえ、礼には及びません」
「今日はその件で話をしたくて、お呼びいたしました」
和成は、複雑な表情を浮かべてうつむいている一色を見やり、口を開く。
「まず一色、お前がした事も葉山と変わらない事だ、貴様は俺を騙そうとした……」
「申し訳ありません」
「だが、ここはクマさんに免じて許そう」
「は、はい」
「え!? いやおいちょっと待てよ、てか、俺はあんたを騙そうとしたんだぞ!? 何故俺達を罪に問おうとはしないんだ!?」
健吾は昨日とは打って変わった、薄汚れたジーンズにパーカーというラフないでたちで和成の前にいる。
「いや、仁美が死ぬ前に一度だけ、勇気君の顔を見せてあげればそれでよかった。今回の株式の件なのだが……無しだ」
(やっぱり、株式の話は無しか、あーあ、残念だったなあ)
健吾の頭の中にある、普通の会社に入り、普通の生活を送る夢はもろくも崩れ去っていく。
「その件なのですが、お話があります、確か会長は、より強い強度を持つ鉄鋼を研究しておられましたよね?その鉄鋼が作る事が私にはできます」
クマは、自信満々に和成にそう告げる。
「ほう、その情報は会社の一部の人間にしか知らない情報なのだが、一色、言ったのか?」
和成は、内部情報を誰かが漏らしたのか不安になり、同じく不安な表情を浮かべる一色に尋ねる。
「いえ、私はそんな事は一言も言ってないんだが……」
「それは、私がある筋の人間から聞いたのです、私の耳には、日本中全ての情報が自然と集まってくるのです……」
クマはにやりと笑い、ボロボロのバッグから最新式のタブレットを取り出す。
「そうか、確か風の噂では、ここら辺一帯を仕切っている人間がいると聞くが、それは貴方の事か。見せてくれ、その情報を」
クマは和成に、中古品のタブレットを見せ、少しの時間が流れ、和成は口を開く。
「今すぐ、わが社に入ってくれ! 君は必要だ! 今なら、部長待遇で使う!」
「いえ、私は自由なホームレスが性に合っているのです」
「ならばせめて、株式の3分の一を譲渡させてくれ!これがあれば、わが社の将来は安泰だ!」
「株式ですか、ならば、株式と引き換えにお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」
「何だ!? 何でもいい、言ってみろ!」
「私に株式を渡す代わりに、私の仲間である君島というホームレスをこの会社で雇ってほしい、それではだめでしょうか? 彼がこれを作ったのです」
「う、うん、構わない! うーん、こんなに凄いものを出すから、きちんとした正社員として雇う!」
「有難うございます」
クマと健吾は、目を合わせて、にやりと笑った。
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