23:00
窓を開けて外の空気を吸う。
普段よりのどが凍てつく。
ここから出れなくなってどれくらい立ったんだろうな。
自分の筋力が日に日に落ちているのがわかる。
俺自身もっとやりたいことがあるのに
みんなは病院で安静にして元気になったら
また出かけようと言うけど…
またが来るかわからない。
これでいいのかな。
コンコンと部屋の扉をノックされる。
「すみません、風が廊下まで来ていたので窓締めさせてもらってもいいですか?」
看護師に言われ、窓を閉める。
勝手に窓を開けることができない場所ってどうなんだろうな。
俺って本当に今何してんだろうと思う。
ベッドに潜り、売店で買ったラジオをイヤフォンで聞く。
[May happiness come to everyone who listens.
皆さんこんばんわ。クリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]
落ち着く声だ…。
この人が羨ましい。
外の世界でこうやってラジオを放送出来ている。
俺もこの体でなかったら、大好きなサッカーをやっていたんだろう。
窓のカーテンを開けて外の景色を見る。
みんな俺のために色々やってくれる。
このベッドの横にある千羽鶴に書かれた手紙も、
棚にある赤い大きな花も、
その隣に置いてあるサンタの帽子だって俺のために持ってきてくれたんだ。
元気付けようと思ってくれて。
でも、俺はここから出たい。
自由に走り回りたいし、行きたい所に好きなように行きたい。
ゴールが見えない治療に意味があるのかたまに考えてしまう。
ただ刻々と命が消えていくのが怖い。
みんなと少しで別れるかと思うと眠るのが怖い。
早く朝が開けて1日が始まって生きていたい。
[では、次の曲、奇跡を望むなら… Xmas story。あなたに幸多からんことを。]
確かに…みんながいてくれたから俺は今生きているのかも知れない。
でも奇跡って映画の中だけだよな。
俺は現実で生きてる。
もし、ホワイトクリスマスが見れたなら、
俺もうちょっと頑張って見ようかな。
曲を聴きながら、窓を見ていると、
ふわふわと白いものが見える。
いや…嘘だろ?
イヤフォンを片耳につけながら窓に近づく。
空を見ると曇り…だけど他の場所からは雪が降っていない。
ここの窓の付近だけだ。
どう言うことだ?
窓を開けて空をみようと体を少し投げ出すと、
真っ白い鳥がこんな時間に巣作りをしている。
きっと羽か持ってきたガラクタが雪に見えたんだろう。
そんな簡単に奇跡なんか起こるかよ。
そのまままた外を眺めていると片耳で聞いている曲と同じ歌が町のどこかから聞こえている。
だれか一緒のラジオを聴いているのだろうか…。
冬にあう透き通った声。
今日たまたまここら辺で歌っているのだろうか。
もし、俺がここから出れることがあるならこの人の目の前で歌声が聴きたいな。
イヤフォンを外してその人の歌声に耳を傾ける。
もし、奇跡が起こるのなら、
いちどだけでもいいから外に出るチャンスが欲しい。
俺、もっと時間を大切にするから。
お願いだ。
透き通っている声を聞きながら
だれに願っていいかわからないお願い事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます