20:00

静かに一人用のケーキをデザートに食べる。


壁に飾ったクリスマスツリーも

このショートケーキも色がない。


この年の普通は、家族がいて子供もいていい家でワイワイクリスマスを祝うんだろうけど

私はそんなことをしてくれる人に巡り会えなかった。


きっと巡り合わせが悪いだけなんだろうけど…

やっぱり一人は堪えるなぁ…。


無音の家がとても寂しく感じて近くにあった

昔から使ってるラジオをつける。


[May happiness come to everyone who listens.

皆さんこんばんわ。クリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]


どこもクリスマスばっかりね。


ケーキをまた口に入れて味があることを確かめる。

同じケーキを二つ買っていたあの人は

もっと美味しく感じてるんだろうか。


友人も結婚している人が多く、

同じく独身でも会社の飲み会に行かないといけないらしくて私は今ひとりぼっち。


こうやってみんなが一緒に過ごしてる感を出してくるこの日が好きじゃない。


[では、次の曲、恋人がサンタクロース。あなたに幸多からんことを。]


お姉ちゃんと実家に暮らしてた時

クリスマスの時期になるとよく聞いてたなぁ。


お姉ちゃんはいい子だったから

すぐにサンタクロースがやってきて

新しい家に住み始めた。


私も私なりに頑張っていたけど、

なんだかうまくいかないものなの。

それで前の恋愛した人も忘れてる今もズルズル一人でこうやって家で過ごしている。


「外出よ…。」


食べかけのショートケーキを冷蔵庫に入れて

コートをきて暗い外を散歩する。


少女漫画のような恋愛も

少年漫画のような夢も見れなくなったこのおばさんに新しい出会いなんかあるのかな。


適当にふらふらと外を歩いていると

賑わっている声が聞こえてくる。


私も誰かと一緒にいたい、

だから少し怪しげな扉をくぐれた。


すると心に響く歌声が聞こえてくる。


「いらっしゃい。」


綺麗なお姉さんが出迎えてくれる。


カウンターに座り、暖かいおしぼりをもらう。


「お湯割りの梅酒濃いめでお願いします。」


「はい。」


作っている間、壇上で歌っている3人をみる。

私より若くて目がキラキラしてる。

もうあんな風な目できなくなっちゃったなぁ。


「おまたせ。」


「ありがとうございます。」


梅酒のお湯割りで手を温める


「おーい!兄ちゃん、一番はじめに歌ったやつアンコール!」


「OK!じゃあ入れちゃうねー!」


と女の子がリクエストに答える。


また懐かしい歌が流れる。


あの子の声すごく私の心に刺さるな。

きっと歌手志望なのね。


歌詞は英語だったけど、意味を知っていたので

瞳が熱くなる。


プレイヤーだったら曲を変えたり、止めたり出来るのだけれど、生はずっと心に語りけてくる。


曲が終わる頃にはおしぼりもう一つもらってしまった。


頑張ってね、お兄さんたち。

ずっと嫌いだったこの日が少し好きになった貴方達に感謝するわ。

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