19:00

もう俺の人生なんなんだ。


昨日はバンドメンバーと解散で俺一人で責任者に謝罪しないといけないし、

彼女は他の男と旅行行くし、まともな人間周りにいねぇな。


家にいると悶々としてずっと同じことを考えてしまうから外にとりあえず出たけど…

やることがない。


とりあえず商店街きて人混みに紛れて流れに身をまかせることにした。


するとこの時間でも結構並んでいる店があった。

興味だけで足を向けてみるとみんなコロッケやカツを買っていってる。


俺も一つ買おう。


[May happiness come to everyone who listens.

皆さんこんばんわ。クリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]


街が賑わう中コロッケを売ってる店からラジオが聞こえる。

なんかわかんないけどレトロだなぁ。


「いらっしゃい、お兄さん。何にする?」


「コロッケ一つお願いします。」


「はーい。すぐあげるからちょっと待っててねー。」


お金を渡して窓口のすぐそばで待つ。

揚げたてだからみんなこんなに並んでたんだな。


美味しかったらまた来よう。


[では、次の曲、Please Come Home For Christmas。あなたに幸多からんことを。]


俺の好きな人が歌ってる曲だ。


「はい、おまたせ。また来てね。」


「ありがとうございます。」


コロッケをもらい近くにあった階段で

うっすら聞こえるラジオの曲を聴きながら食べる。


うまい…。

久しぶりに手作りのもの食べたかも。

また来よう。


サクサクとした衣が噛むたびに鳴る。


コロッケの暖かさでかじかんだ手が温まる。


食べ終えてポケットにゴミを入れる。


まだ家に帰る気分ではないけど、

さっきより気分が楽になったかも。


美味しいものを食べて好きな曲を聴いたら

なんか歌いたくなった。

でもここらへんカラオケの入ってるビルなんてないもんなー…。


少し人通りが少ない路地から、

賑やかな声が聞こええてなんとなく行ってみる。

すると、カラオケバーがあった。


普段ならこんな怪しそうなところ入らないが

今日は冒険心が勝った。


勇気を振り絞って入るとまあまあな人がいる中、

若い男女が仲よさそうに歌っている。

どちらもパワフルな歌声で見てるみんなも楽しそうにしている。


「いらっしゃい。」


「ウイスキーのお湯割りお願いします。」


「はい。」


背の高めのお姉さんがお酒を作ってくれる。


その間二人をみる。

いいな、俺も誰かとああやって楽しめたら

昨日のことなんて忘れられるのに。


「おまたせ。」


「ありがとうございます。」


「あなたも歌歌うの?」


「え?」


「歌ってそうな顔だったから。どう?」


マイクを渡される。


「あーでも、あの二人の邪魔したくないんで。」


「大丈夫よ。ねぇ!」


と言って大きい声で歌い終えた二人を呼ぶ。


「なに?ねーさん。」


「このお兄さんも歌いたいんだって。」


「またひっかけようとしてるでしょ!全く抜かりないなぁ。」


「いいでしょ。いい男がいるならアタックして損はないからね。」


「はいはーい。じゃあおにいさん、なに歌う?」


と言って若い女の子がカラオケの曲を入れようとする。


じゃあ…とさっきラジオで聞いた曲をお願いする。


「私たちもいい感じに手伝うよー!」


「いいの?兄さん。」


若い男の子が聞いてくる。


「知ってるなら…お願いしようかな。」


「よし! やるぞー!」


若者のパワーはすごいな。


俺は大好きな人の歌を今の気持ちを発散するかのように歌った。


さっきまで賑わっていた客はみんな涙を浮かべて拍手してくれる。


「まじずげーって!兄さん!別のも一緒に歌お!」


「やばい!おにいさん惚れるわー。」


みんなが俺を認めてくれる。

やっぱり歌って裏切らないんだなぁ。


またもう一度頑張るか。


俺は二人と一緒にまた歌い始めた。

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