9:00

やっぱり朝は手の動きが悪いな。


指を一本一本伸ばして、ほぐす。


ピアノを弾く。

今日の課題曲、ずっと前から練習していて一度も間違わず、感情を込めて弾けるようになっている。


先生も賞が取れそうと言っていたが、

あの日からうまく弾けなくなった。


君が僕のコンクールを聴きにいくと連絡をもらってからもうぶっれぶれだ。

先生も驚いてた。

どうした、誰かに刺されたのかって。


胸は刺された。

ぐっさぐっさと君が刺したんだ。


君は僕が想っているのを知ってか知らずか

彼氏が出来たと報告をしてくる。

最近は慣れていたから感情をブラされなくなった。


だけど、クリスマスの日に、

一人で僕のコンクールに来るってどういうことなんだ?


あのやんちゃそうな男とは会わないのか?

あのメガネの青年とは会わないのか?

あの無邪気な笑顔をするおじさんとは会わないのか?


なんで、今日僕のコンクール来るんだよ。

結構大事なんだけどな…ああ、感情ブレブレで

もうこれは一旦休憩して立て直そう。


リビングに行くと母さんがコーヒーを入れながらラジオを聴いていた。


[May happiness to everyone who listens.

皆さんおはようございます。クリスマスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]


「僕ももらっていい?」


「あ、今持っていこうとしてたの。ミルクは?」


「いる。」


母さんが冷蔵庫からミルクを出してくれる。


「ありがとう。」


「いつまでもブラックは飲めなさそうね。」


「いいんだ!これが一番美味しいんだから!」


「そうね。この組み合わせ見つけた人すごいわよねー。」


話がふわふわするのは母さんの性格のせい。

でも少し落ち着く。


[では、次の曲、silent。あなたに幸多からんことを。]


あー、流行ってるやつ。

クリスマス独特のアレンジ結構好きなんだよなぁ。


「そろそろ準備しなくていいの?」


「ああ、もうちょっとやってから。」


「そう、あ、あなたのお友達と席が隣なの。一緒に応援してるわ。」


「え!そう…なんだ。」


「うん、あの子も楽しみにしてるって言ってたわよ。頑張ってね。」


「うん、ありがとう。」


ふと彼女の笑顔を思い出す。


コーヒーを飲み終えて、自室に戻る。


もうだめだ。

僕はコンクールで一番を取って告白する。

君の1番の男になる。

これでいつもの感情の揺らぎもなくなる。

君も取っ替え引っ替え、いい男探しをしなくて良くなる。

僕が君のいい男の条件満たしていくからさ。

見て、聴いてて、頑張るよ。

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