第2話、時代の伝承者、『 中点 』
皆さん、『 中点 』って、ご存知でしょうか?
「 耳にした事はあるけど、何だっけ? 」
ですよね~?
しかし、実際に目にすれば、誰でも知っています。
「 ・・・・・ 」← コレです。
「 おい、おい・・ それって、三点リーダーで表現する部分を『 代用品 』的に使ってるだけだろ? リーダーがあるんだから、ちゃんと使えよ 」
「 そうそう。 大体、中点の連続なんて、見た目も変だし 」
そんな意見が、大多数かと。
でも、よ~く思い出して下さい。
ドコかで、見た記憶がありませんか・・・?
・・そう、メッチャ古い小説や、新聞です。
見聞が無い方は、当然、記憶にも無いかとは思いますが、創作を始めるにあたり、古い日本純文学を参考にされた方は、見覚えがあるかと。
大正や昭和初期の頃は、現在のような上質の紙では無く、紙の繊維が見えるような粗悪な紙でした。 印刷された文字は、所々、インクが滲んでいるかのように見え、特に『 中点 』の連続表記は、心理を比喩する表現としては、非常に武骨に映ったものです。
当時の作家たちは、表現を軟調かつ抒情的に表現するのではなく、己の意志を訴えるかの如く、まるで論評のように書き綴っていました。 従って使用する機会も少なく、その使用頻度も極端に少ないものでした。
『 中点 』は、当時の文学表現には少々、遠い存在だったのかもしれません・・・
「 そんな古い話、どうでもイイじゃん? 俺の創作と、カンケー無いし 」
まあまあ、もう少しお付き合い下さい。 別に、無理に理解しろとは申しません。
ただ、『 1つの知識 』として、頭の片隅にでも置いて頂けたら幸いなのです。
現在、ほとんどの方がPCを使って、物語の創作をされている事でしょう。
PCより以前は、ワード・プロセッサー( 略してワープロ:懐かしい )です。
キーボードから入力して文字を打ち込み、プリントするだけのもので、メモリー機能などは、ほとんど無い簡素な機械でしたが、手書きでは無く、印刷されたような文字がプリント出来、当時としては『 イケてる営業マン 』が手にする最先端のハイブリッド機器でした。
では、その前は・・・?
・・そう、原稿用紙です。
先記の『 ワープロ 』が一世を風靡したのは、1990年くらいの事です。
当時、グラフィックデザイナーからアートディレクターに転身した私は、スタッフの人員不足や経費節減の為、制作物のコピーライティングも手掛けていましたが、実際、仕事で使用するコピーも、原稿用紙に書いていました。
徹夜を連続し、苦労して書き上げた原稿用紙を、印刷所に廻します。 ほどなくして第一稿のゲラ( 試し刷り印刷の事 )がアガり、赤ペンを持って校正に入ります。
そこで、『 中点 』が消滅し、三点リーダーに変換されている事に気付くのです。
・・そうです。
これと同じ事が、かなり以前から印刷業界では、公然と行われていたのです。
いつからそうなったのか、それを知る術はありません。
おそらく、印刷業界の中にて視覚的統一を図る為に、暗黙の了解の内に、実施されていたのでしょう。
ちなみに、古い純文学の中で、刷り版の若い文庫本などを見ると、この『 中点 』を見い出す事が出来ます。 原稿のまま『 中点 』を変換せず、印刷されているのです。
私の知り得る限り、昭和30年代発行の文庫本には、既に『 三点リーダー 』が登場していますから、それ以前の出版物にしか『 中点 』は存在しない事になるかと。
私が『 創作らしきモノ 』を書き始めたのも、『 ワープロ時期 』と同じ、1990年代の後期辺りです。
当然、創作は原稿用紙です。
1マスに、中点は1個。 縦書き1文字分で、当然、縦に連続します。
その後、PCが普及し、文章形式が『 横書き 』中心になっても、ずっと『 中点 』を使用し、創作活動を続けて参りました。
意外かもしれませんが、簡単に打てる『 中点 』は、現在のプロの作家さんも、草稿によく使っています。 しかし、草稿が出版社に渡った時点で、校正により『 三点リーダー 』に変わるのです。
実は、最近、若い創作者の方から批判を頂きました。
『 中点 』を使用している事に触れ、宇宙人を見るかのような驚愕的記述にて酷評頂いたのです・・・
『 三点リーダー 』の存在には当然、以前から気付いておりました。
しかし、長年使って来た『 中点 』を捨て去る事が出来ず、そのまま創作を続けて参りましたが、『 中点 』を使用する事が、そんなに恥で、酷い表現法なのでしょうか?
純文学を、創作の基本として来た私・・・
時代遅れ的な指摘ならまだしも、さも当たり前の『 取決め事 』が存在するような批判は、あまりにもどうかと思う次第です。
まあ・・ しかし、時代は常に動いています。 新しい秩序に従うのも道理。
『 その方 』の酷評を機に、これからの創作には、『 三点リーダー 』を使おうと、心に決めました。
・・でも、『 中点 』は、私の顔でもありました。
かなりの数の拙作が、このカクヨムにも掲載されています。 とても、全ての作品を校正する訳には行きません。
さて、どう対応するか・・・
『 異世界モノ、ちょっと斬ってみた件について 』。 お陰様で、PVの伸びが順調な、この論評作品をまず、校正してみました。
続いて、つい最近に完成したばかりだったSF作品『 マテリアル・ロジッカー 』、PVが伸び始めて来た、最初で最後のファンタジー作品『 異世界のチャーリー 』、続編を創作予定の『 銀河エクスプレス 』・・・
しかし、描写を抒情的に創作するのは、私のスタイルです。 心理描写、会話文などは、どうしても『 中点 』を多用してしまい、『 三点リーダー 』に置き換えると、文章の雰囲気そのものが変わってしまいます。 まあ、『 中点 』に頼る事自体、表現が稚拙な証拠、そのものなのですが・・・
悩みました。
苦慮しながらの、校正でした。
結論。
続編を構想中の作品は、あと『 4429F 』がありますが、この作品を最後に、その他の作品は『 三点リーダー 』への換装は行わない事に致しました。
やはり、『 中点 』の存在を前提に構成した作品は、単純に『 三点リーダー 』に置き換えるだけでは、校正し切れないと納得したからです。
・・・お気付きかとは思いますが、この創作論には、あえて『 中点 』を使用してみました。
いかがですか?
文章で埋められた面積の事を、通称『 文章の顔 』と表現されますが、この『 中点 』を使用しますと、文章の顔は一変致します。
とても懐古的な雰囲気になるのです。
純文学的な作風には非常に適している、と私は思いますが、それを良しとするか否かは、創作する作品の方向性も関係しますので、制作される個人の方の自由でしょう。 ファンタジー作品には、『 中点 』は似合わない事ぐらい、文才の無い私でも分かりますし・・・
ちなみに、『 三点リーダー 』を使用しなくてはならない、と言う法規は、どこにも存在しません。
文章構成に至っても、句読手を打たない方や、段落空けをされない方、会話文で改行をしない方・・・ まさに、人それぞれです。
常識的なマナー。
それが、いわゆる『 小説の書き方 』になると、私は確信しています。
つまりは、名作とよばれる作品・・・ それがスタンダードに値する、と私は考えます。
まあ、何を持って『 常識的 』とするかは、まさに時代が証明する事になるかとは思いますが・・・
では、『 中点 』が使用されるに至った経緯は?
実は、日本古来のものではありません。
英文タイプライターが、基礎となっているのです。
古い英文資料をご覧になった事はありますか?
近代歴史のドキュメンタリーなどで、よく英文のタイプ文字などが画面に出て来ますよね?
アレです。
アルファベットに混じり、簡単な記号も打てました。 『 # 』や『 $ 』、『 % 』、『 & 』などです。
その中に『 ・ 』もあったのです。 ピリオドではなく、ドットと呼ばれるもので、日本的に言えば、まさに『 中点 』です。
英文タイプ文字では、LOVE YOU・・・ と印字され、区切りとしては、1文字です。
これが、そのまま日本語訳され「 愛している・・・ 」となりました。
大正時代、初期・・・
翻訳文字は、時代を先駆する若き詩人たちに模倣され、それは純文学にも起用される事となり、ここに『 中点 』文化が始まったのです。
・・ちなみに、この『 学説 』は、文章学等の特別講義をして頂いた文法学者の教授・日本文学研究者の先生方の持論であり、その真価を証明する書籍・証拠などは、当然にして存在しませんので悪しからず・・・
では次章、日本純文学作品に『 中点 』の痕跡を見い出してみましょう。
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