第5話 降り止まない雨

花火大会当日、結依は先に学校の前に

来ていた。

浴衣姿の結依はとてもかわいかった。

「おくれてごめん」

「全然待ってないよ」

「じゃあ行こうか」

夜の学校に忍び込むのは少し罪悪感しかないが、

今日ぐらいは良いだろう。

僕と結依は門を登り、中へとはいった。

そして、今日の朝、部活の時にこっそり潜入

して開けておいたトイレの窓から潜入した。

夜の学校はお化け屋敷みたいだった。

「怖いね」

結依は僕の腕に寄りかかりながら、屋上を

目指した。

屋上の扉の前まで着いた。

花火が始まるまであと10秒

僕たちはカウントダウンを始めた。

「5.4.3.2.1」

0の瞬間にドアを開けた。そこには

満点の星空に花火が咲き乱れていた。

「うわーきれい」

学校の屋上からは何も障害物が無いから

最高の場所だと去年から考えていた。

まさか、彼女と来れるとは。

それから僕たちは1回も目を合わせることもなく

花火に夢中になっていた。

最後の花火が上がった瞬間、結依が

「ありがとう」と言った。

「こちらこそ」

ありがとうの言葉には力が無いように感じた。

花火が終わり、学校の前で解散をした。

でも、結依を助けるために僕は尾行を始めた。

結依はフラフラしながら歩いていた。

急に結依が足を止めた。

何かあったのか。そう思ったときには

結依は倒れていた。

僕は急いで結依の元に向かった。

「大丈夫か!?返事をしろ…!」

「た…たす…けて」

小声でそう言って倒れた。

僕は急いで救急車を呼び、

病院に運んでもらった。

病院につくとすぐに、緊急手術が始まった。

それから、3時間が経過した。

手術が終わったみたいだ。

「先生、結依はどうですか?」

「一応、命に別状は無いですが、

結依さんはすい臓がんを持っていました」

「すい臓がん!?」

「すい臓がんの生存確率は20%」

「20%ってどんな感じなんですか?」

「生きるか死ぬか分からない。」

先生との話が終わり、急いで彼女の病室に、

行った。

「お願い、助かってくれ」

結依は眠っていた。

しかし、その日1日目覚めなかった。

次の日は、朝から雨が降っていた。

それは、強い雨だった。

僕はそんな雨の中、自転車で病院に行った。

結依の病室に着き、カーテンを開けると、

雨が嘘のように止んでいた。

そこには虹が出ていた。


『雨が降り止まないですね』


彼女の声が頭の中に響いた。

そうか、これは雨が止むまで2人で

一緒にいたいっていう意味だったのか。

そうなると、返事は……

時間はどんどん過ぎていき、

朝の1時になり眠たくなってきたが、

寝てはいけない。

僕は結依が目を覚ますことを信じていた。

すると、結依が目を覚ました。

「ここはどこ?」

「結依。大丈夫か?」

「君は誰?」

僕は絶望した。今まで積み上げてきた思い出が

頭の中を回った。

水族館、花火、何もかも忘れたのか。

「僕は拓斗だよ。覚えてない?」

「ごめんね。覚えてないわ」

結依は記憶喪失になってしまった。

そのあと、両親がきた。

「結依の両親ですか?」

「そうだが。結依は大丈夫か?」

「はい。結依は大丈夫ですが、

記憶喪失になってしまいました。」

「お前が結依を花火大会に連れていったのか。」

「はい。そうです」

「結依はな昔から病気を持っていて、

体も弱かったんだ。だから、あまり

運動してはいけなかったんだよ」

「でも、結依は僕には何も話してくれませんでしたが。」

「それは、結依がお前の事を心配したんだろう」

「そうか……」

「君はもう帰った方がいい」

「何でそんなことを言うんですか?」

「君にはもういる意味がない」

何も言い返せなかった。

夜、帰っているときふと、

美結の事を思い出した。

僕は急いで学校に向かった。

屋上の扉を開けると、美結は座って星を

眺めていた。

「結依が記憶喪失になってここに来たのか」

「これからどうしたらいいの?」

「はあー。もう諦めるのかよ」

「だって。だって、記憶喪失だよ!!」

「だから何?」

「どうしたら良いの?

思い出もすべて消えた今、何をしたらいいの?」

彼女はぼくに近づいてきて、ビンタをしてきた。

痛みが全身に走りわたる。

「君は結依の事をどう思ってるんだよ!」

「僕は………」

「その結依への思いをもう一度伝えることが

大切なんじゃないのか。

そして、結依が死ぬまで寄り添うことが

君の最後にやることだよ」

「わかった」

空はあの花火大会の日と同じように

星が広がっていた。

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