第96話 個人の部・本選4
4人のカナミさんは、まったく同じ動きで刀を構える。
「ゆくぞっ!!」
一斉に駆けだすと、僕を取り囲むよう展開しつつ、次々に襲い掛かって来た。
本体に比べれば幾分か『
「『火球』!」
本体は無理でもアイス・マリオネットなら融かせるかもしれないと、人形のうちの1体に火球を放ってみたものの、人形が振るう刀はあっさりと火球を上空へと弾き飛ばした。
魔法で相殺する訳でもなく弾くなんて、あの刀にはどれだけの魔力を込めているんだ……?!
「せぇいっ!」
背後から掛け声と共に、カナミさん本人による袈裟懸けの攻撃。
身体を捻ってなんとか躱すも、避けたところを分身が狙ってくる。
かろうじて氷剣で防いではいるものの、攻撃はおろか包囲網から抜け出す隙もなく、かろうじて致命傷を避けながら時間稼ぎをしているような状況。
腕や足など、いたるところに浅い切り傷が増えていき、にじみ出た血が服を赤く染めていく。
「1:1で決め手にかけていた貴方に、もはや勝ち目はないぞっ! 受け損なえば後遺症が残らんとも限らん、早く棄権するが良いっ!!」
少し離れた場所で操作に集中するカナミさんは、右から左から襲い来る分身に防戦一方の僕を見つめ、そう声をかけてきた。
悔しいけど、分身ですら僕の魔力障壁もあっさりと斬り裂くだけの力があるし、動きが落ちているはずなのにそれでも僕の技量より上をいっている。
いまだに致命傷を受けていないのが奇跡と言える状況だけど、それでも僕にはまだやれることがあるはずなんだ。
「まだですよ! 勝負はこれからです!」
「……強がりは身を亡ぼすだけだぞ!!」
より一層勢いが増す攻撃。
でも、カナミさん本人が攻撃せずに操作に集中しているということは、裏を返せば今の状態が人形にとっての最高のポテンシャルを発揮している状態であり、これ以上はないということ。
それなら――危険と隣り合わせのこの状況で、僕自身がレベルアップすればいいだけっ!
言い方は悪いけど、弟子であるカナミさんをどうにもできないようじゃ、イスラさんと戦うなんて夢のまた夢なんだ!!
「動きをよく見て……吸収しろ。違う、これじゃあ無駄が多い……」
目に焼き付いているイスラさんの動きや、目の前のカナミさん。
修行相手をしてくれたダジルさんや、模擬戦をしているときのリキミさん。
剣を扱う人たちの動きを模倣しつつ、全てを合わせて僕自身の能力に合わせた動きへと昇華させていく。
「これは……?! 動きが別人のように次々と変わる……?!」
目を見開いて驚くカナミさん。
少しずつ、何度も何度もピースをはめては外して試行錯誤するうちに、徐々に受ける傷が減り始め、3体の人形相手に僅かだけど反撃できるまでになった。
でも、まだだ。
これじゃあ、誰かの動きを真似ているに過ぎない。
「カナミさんのように、もっと鋭く……。それでいて、ダジルさんのように守りを鉄壁に。攻めるときは、リキミさんの豪快な一撃をベースに……」
「この状況下で、命がけの修行をしているというのか……?! 良い、良いぞッ!! 武人たるもの、いついかなるときでも貪欲でなければな!!!」
……ッ?!
人形の動きが更に良くなった?! 今までが限界じゃなかったの?!
「それでも……それでもっ!! 僕には成すべき事があるんだっ!!」
「その心意気や良しっ! だが、今回は一歩及ばずだ!! 次はさらに良い勝負ができるだろう、楽しみにしているぞ!!」
満足そうにニッと笑ったカナミさん。
すると、突如として人形の動きが激変。
一体が無理やり懐に潜り込んできたかと思うと、僕の足目掛けて飛びついて来る。
かわそうとしたところを他の二体に邪魔され、取りつかれたと思ったのもつかの間、人形は床の氷と同化しながら氷像へと戻ってしまった。
無理やり引きはがそうにも完全に凍り付いてしまっていて、ビクともしない。
必死に足掻いていたせいで周囲への意識がおろそかになり、他の二体も僕の左右の手に抱き着いたまま氷像化。
瞬く間に両手両足を封じられてしまう形になり、移動することも攻撃することも、防御することもできなくなった。
「勝負あり、だ。どうする、降参するか?」
「いいえ、しません! まだ僕は負けていませんから!」
「フッ、そうか。野暮な質問であった、許してほしい。では、参るッ!!」
刀を構え、真正面から突っ込んでくるカナミさん。
手の中で火魔法を発動しているけど、全然解ける気配がない。
それなら――。
「氷操人形!!」
「なっ?!」
僕を拘束している氷を媒介に、魔力を無理やり流し込んで人形の形を作り出す。
形を変えたことで僕の枷も外れ、迎撃に打って出ることができた。
「さぁ、決着をつけましょう!」
「……?! どうなっている?!」
まだ混乱しているようで、動きに精彩さがない。
ここぞとばかりに攻めるけど、そこはさすがカナミさんというべきか。
見る見る間に冷静さを取り戻し、傷1つ付けられないまま元の動きへと戻ってしまった。
でも、それでいいんだ。
真っ向から実力で打ち勝って、初めて自信につながると思うから。
「フッ、この短時間でよくぞここまで……! 基礎は出来上がっていたという訳か?!」
「この大会のために、いろんな人から鍛えてもらいましたからね!」
「初戦のときの姿が、もはや見る影もない……! 男子、三日会わざればというが……まさにソレだな!!」
カナミさんは心底嬉しそうに、楽しそうにしながら満面の笑みを浮かべながら次々に鋭い一撃を見舞ってくる。
それらを僕も負けじと受け止め、流し、反撃した。
接戦と呼べるだけの打ち合いは、互いの実力を限界以上に引き出しながらヒートアップ。
観客も固唾を飲んで見守る中、ついに僕の一撃がカナミさんの腕をかすめた。
「……ッ?! まさかここまでとは……!! 底がまったく見えん!」
すぐさま距離を取って真剣な表情で僕を見据えたカナミさんは、刀を鞘に納めると足を大きく前後に開いて前傾姿勢を取る。
「これ以上長引かせるのは勿体ない……! 互いがまだ万全の力を出せる今、最高の一撃をもって決着をつけよう!」
「……望むところです!」
僕も切っ先をカナミさんに向けて、両手で強く握りしめた氷剣を顔の横に構えた。
「……勝負ッッ!!」
カナミさんの気迫の篭った叫びを皮切りに、互いに強く踏み込み前へと駆けだす。
すれ違い様、目にも留まらぬ速度で抜刀された刀が逆袈裟に走る中、僕は刀ごとカナミさんを斬り伏せる。
折れた刀身が宙で水へと戻り、互いに背を向けたまま足を止めたところで、カナミさんがゆっくりと仰向けに倒れた。
「……清々しいな。某の負けだ」
「カナミさんと戦えて、本当に良かったです……。ありがとうございました!」
僕が振り返りお辞儀をしたところで、会場は盛大な歓声に包まれる。
なんとかカナミさんに勝てた僕は、ついに明日――天道、氷のイスラさんへの挑戦権を得たのだった―――。
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