第87話 課題


 大統領府を後にした僕たちは、正直言って頭を抱えたくなる大問題に直撃していた。


 と言うのも、シオンが嬉々として賭けを受けたまではまだ良かったものの、肝心の武闘会の内容を聞いていなかったのだ。


 で、いざ聞いてみたら……。


 1.個人の部と団体の部があり、ブラックマリアさんの遺骸は団体の部の優勝景品であること


 2.イリスさんが参加するのは個人の部であること


 3.個人の部、団体の部ともにトーナメント方式で優勝者を決めること


 4.団体の部は7vs7の団体戦で、先に4勝したチームの勝利であること


 5.個人の部と団体の部は日程がズレているため、両方で参加することも可能なこと


 大まかなルールはこんな感じだ。


 問題は団体の部の方で、当日までに必ず7人分の選手登録を済ませなければならないのだ。


 僕、ティア、ネイア、セツカ、シオン、ラナ。


 ラナには選手登録だけしてもらうとしても、1人足りない。


 かと言って、誰でも良いと言うわけにもいかず困り果てているんだよね。


 声をかければ参加してくれる人はいるだろうけど、優勝商品に興味がない、もしくは僕たちの意向を理解して別の報酬で手を打ってくれる人でなければいけない。


「困ったのう……。いっそのこと、傭兵でも雇うかの?」


「お嬢様、それだと厄介ごとになりかねませんよ。契約書を交わしたところで、いざ優勝したら欲にくらみ、契約は無効だ、素材の権利を主張すると言いだす可能性がありますから」


「それもそうだの……」


「うちが話を手っ取り早くしようとしたばかりに、ごめんなさいね……」


 シュンと目を伏せるシオンを、慌ててフォローするティアとネイア。


「ふん、わざとらしい演技をするんじゃない! お前のことだ、楽しくなってきたとでも思っているのだろう?!」


「あらぁ……心外ね? 確かに誰かを困らせることは好きだけれど、今回のことは意図してた訳じゃないわ」


「そうか。なら、その楽しそうなにやけづらはなんだ?」


「元からこんな顔よぉ。ねぇ、ご主人様ぁ?」


 誤魔化すように僕に抱きついてきたシオンを、引き剥がそうと躍起になるセツカ。


 シオンは僕の頭を撫でると、すっと離れていった。


「あはは……」


「うらや……じゃなくて、シズクくんも大変だね……」


「ラナは何か良い案はない??」


「うーん……。ウェルカかリーゼルンで声をかけてみるのはどう?」


「確かにシズクのゲートがあれば行き来はすぐじゃし、協力してくれる者がおりそうだの!」


「名案です、ラナさん!!」


「そ、そうかな??」


 二人に褒められて、頬をかきながら照れるラナ。


 と、そこへ不意に声をかけられる。


「あら? ご機嫌ようシズク様、皆様。こんなところでどうされたのですか?」


「リルノード公……?! ど、どうしてここに……?」


「以前よりブジーン大統領から武闘会へ招待されておりまして、皆様のお陰で国もだいぶ落ち着きましたし、息抜きがてら楽しんできてはいかがですかとコアンが予定を組んでくれたのです」


「なるほど……。実は僕たちもその武闘会に参加することになったんですが、メンバーが一人足りなくて困っていたんです」


 リルノード公にザザーランドが保有するブラックマリアさんの遺骸が団体の部の優勝商品になったこと、メンバーが一人足りないことなどを説明。


「大変厚かましいお願いなんですが、どなたか僕たちの事情を理解した上で参加してくれそうな方に心当たりはありませんか?」


「そうですね……。ミーザが騎士を率いて護衛として付いてきてはいるのですが、いくら友好国とはいえ彼女に抜けられると些か問題があるんですよね……。かと言って本国の騎士団長やアスリ、ガレリアも今は各地の復興に尽力してくれているので、申し訳ありませんが武闘会に参加する余裕はないかと思います」


「そうですよね……」


 ここは一度ウェルカに戻り、グラーヴァさんに相談してみようか。


 そう思っていると、リルノード公が掌に拳を打ち付けて笑顔になる。


「少々お待ちくださいね」


 そう言い残し、少し離れた場所でこちらを見守っていたミーザさんの元へ向かっていった。


 リルノード公と話すミーザさんが凄く焦っているけど、大丈夫かな……?


 程なくしてどこかやつれた様子のミーザさんを連れて、リルノード公が戻ってくる。


「シズク様。適任が一人おりましたのを思い出しました!」


「本当ですか?!」


「はい! わたくしです!!」


「……??」


 何を言っているのか理解できず、首を傾げる僕と満面の笑みを浮かべるリルノード公。


「あー……。妾は凄く嫌な予感がしてきたのじゃ」


「奇遇ですね、お嬢様。実は私もです」


「やっぱり? あたしもそんな気がしてしょうがないよ」


「リル嬢の行動力は凄まじいからな。うむ、間違い無いだろう」


「あらあら……。あの子、確か国のトップよね? 良いのかしら?」


 みんなの反応を見て、僕は聞き間違いじゃなかったことを悟った。


「わたくしがシズク様のチームに加入します! これで7人、完璧ですね」


「ちょ、ちょっと待ってください?! リルノード公は見学に来たんですよね?! 参加したらまずいんじゃ……」


「大丈夫です。観覧席にいるか、舞台上にいるかの違いでしかありません。武闘会を楽しむことに変わりないですから、全く問題ないはずです!」


「み、ミーザさん?!」


「すまないな、シズク殿。閣下は一度こうなると、何を言っても聞かんのだ。迷惑ならハッキリと断ってくれて構わないよ」


「め、迷惑ですか……?」


 うるうると瞳をにじませ、上目遣いで見つめてくるリルノード公。


 あれ、この人こう言うタイプだったっけ……?!


「め、迷惑じゃ無いです……」


「本当ですか?! では、よろしくお願いしますね。ふふ、楽しみです」


 こうして晴れて問題をクリアできた僕たちだけど、なんだか別の問題を抱えることになった気がしてしまうのだった―――。

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