第86話 首都ザオルクス
僕たちがザザーランドに入国して、早二ヶ月近く。
いくつかの街を経由しつつ、ようやくザザーランドの首都であるザオルクスへと到着した。
どこか雑多な印象を受けるザオルクスは建物に統一感がなく、所狭しと石造りだったりレンガ作りだったり、はたまた木製だったりする家屋や商店が立ち並ぶ。
ただ活気はすごいもので、ゼニーに負けず劣らずの人で溢れ返っている。
色々な街が寄り集まって形作られている国の首都ということで、きっと格街の特色や伝統などが混ざり合った結果なんだろう。
「賑やかなのじゃ……。まるでお祭りだの」
「お嬢様、アレを……」
「む? アレは……」
ネイアが促す先をみたティアは、眉を潜めて表情を険しくした。
「どうしたの?」
「いや、何。ここでは妾たちの目的も果たせそうだと思っての」
「まさか……」
「うむ。同胞がおるようじゃな」
裏路地へと続く通路を見つめながら、強い決意の篭る声音で告げたティア。
ネイアも強く頷いていて、どうやら間違いなさそうだった。
僕たちはザザーランドへブラックマリアさんの遺骸を譲ってもらえるよう交渉に来たんだけど、ティアの同胞ーー
「ひとまず大統領府へ参りましょう。彼女たちをすんなりと渡してもらえるとは思えませんし、まずはこの国のトップと交渉してみるべきです」
「ネイア……。うん、そうだね。ありがとう」
本当は今すぐにでも殴り込んで助けたいだろうに、僕や後ろ盾となってくれているウェルカへ配慮してくれていることがひしひしと伝わってくる。
同時に、僕たちなら必ず助けてくれると信じてくれているからこそ、待つという選択を取ってくれているんだ。
一度深呼吸をして昂る気持ちを抑えてから、真っ直ぐに大統領府へと向かう僕たち。
程なくして到着したそこは、至る所に剣を交差させたX印の旗が立っている、無骨な石造りの巨大な屋敷だった。
「すぐに確認する。しばしまたれよ」
入り口の門番兵にウェルカからの書状を手渡すと、一人が確認のために大統領府の中へと入っていく。
それから数分後、立派な鎧を着た一人の男が中から出てきた。
「ほう、お前が今噂の……。大統領がすぐにお会いになるそうだ、ついてこい」
興味深そうに僕をじろじろと観察していた男は、踵を返すとガシャガシャと大きな音を立てながら屋敷へと戻る。
後に続いた僕たちは広い応接間に通されると、少し待てと言い残して男は去っていった。
室内はソファとテーブルこそあるものの、煌びやかな調度品などは一切ない飾り気のない部屋。
代わりに壁には使い込まれた剣や盾などがいくつも飾ってあり、武をとても重んじていることが窺える。
ザザーランド共和国。
別名、武闘国家ザザーランド。
その意味を、改めて垣間見た気がした。
「待たせて悪ぃな。で、なんだったか? あぁ、黒龍の素材だっけか」
扉を開けて入ってきたラフな姿の男性ーーザザーランド現大統領ブジーンは、僕たちの対面するソファにどかっと腰掛けるなり口を開く。
「はい。ぜひ故郷に返してやりたいんです」
「返す、ねぇ。とりあえず、その酔狂な考えに至った理由を聞いてやろうじゃねぇか」
僕とセツカ、シオンの三人でブラックマリアさんのことを説明すると、ほぉ〜とかなるほどねぇとか、合間合間で頷きながら相槌を打つブジーン大統領。
全てを聞き終えたあと、しばらく悩んだ様子を見せてからニッと笑う。
「理由はわかった。納得もできた。だが、だからと言ってはいどうぞって渡す訳にもいかねぇ。本質なんざ関係なしに、権利だけを主張する連中は五万といる。それはわかるだろ? そこで、近々開かれる武闘会の優勝商品に追加するってのはどうだ? 知ってるかもしれねぇが、うちの国は武で強い奴こそが正義だ。弱い奴の言葉なんぞ、誰も聞きはしねぇ。おめぇらが武闘会で優勝するほどの力を見せつけりゃぁ、反対の声なんぞすぐに収まるだろうよ」
「そこで優勝すれば、間違いなくお譲り頂けるんですね?」
「ああ、約束する。万が一約束を違えるようなことがあったときには、即自害してやるよ」
自分の首を、親指でつーとなぞって見せるブジーン大統領。
その瞳からも嘘偽りない本心であることが伝わってきて、僕は思わず息をのんだ。
「ふむ。当然我らが優勝する気でいるが、何が起こるかわからんのが勝負だからな。万が一我らが優勝を逃した場合、どうするのだ? 見ず知らずの者の手に渡ってしまうことになるぞ。そうでなくても、龍の素材だ。喉から手が出るほど欲しがる者も多いだろう?」
「ああ、その辺は心配いらねぇよ。武闘会は参加者に制限をかけないからな。国仕えの騎士やらも大勢参加予定だし、前大会で優勝したうちの国最強の『天道』も参加予定だ」
そう言って、ニッと笑うブジーン大統領。
ザザーランドの『天道』ーー氷のイスラさん。
天道でも屈指の武力を誇るとされる、最強の一角。
なるほど、簡単に渡す気はさらさらないと言うことだね。
「望むところです。僕たちだって簡単に譲ってもらえるとは思ってませんでしたから、納得できました」
「おう、試合を存分に盛り上げてくれることを期待してるぜ。参加登録はもう締め切ってるんだが、俺の方で無理やりねじ込んどいてやる。ついでに、イスラのやつに賭けでも申し込んだらどうだ? そうすりゃ、あいつが持ってる分の素材も一緒に入手できるだろ?」
「あらぁ、面白そうねぇ。じゃぁ、ブジーンと言ったかしら? 貴方もうちたちと1つ、賭けをしてみない?」
「ノリが良い姉ちゃんだな。いいぜ、賭けようじゃねぇか。そうだな……勝負は誰が優勝するか、でどうだ? 俺は当然イスラに賭けるぜ」
「良いわね。なら、うちは自分たちに賭けるわ。貴方の望みは何かしらぁ?」
「そうだな……姉ちゃんが3日間、俺の相手をしてくれるってのはどうだ?」
「なっ?!」
思わぬ提案に動揺する僕を、後ろからそっと抱きしめて制すシオン。
「構わないわ。ご主人様が絶対に守ってくれるもの。そうね……うちたちが勝ったら、この国で奴隷を禁止して、奴隷を全て解放してくれないかしらぁ?
「ほう……? なかなか義理堅いんだな。まぁウェルカも絡んでるし、力づくでどうこうするのは得策じゃねぇか。いいぜ、乗ってやるよ。そのかわり、レートが釣り合わねぇからこっちのベットを上げさせてもらうぜ? 俺が勝った場合、姉ちゃんを含めた全員が俺の奴隷になってもらう」
「フフ、いいわね。その条件で受けて立つわ。でも、後から掌返しなんてしようものなら、国ごと滅ぼしちゃうかもしれないからそのつもりでいるのよ??」
僕たちが困惑した表情を浮かべる中、楽しげに笑うシオンはあっさりと無茶な賭けを成立させてしまったのだった―――。
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