第78話 ゲート封鎖


 ソールへと帰還した日のお昼過ぎ。


 僕とティア、ネイア、セツカ、ラナ、シオンの6人は、一度睡眠をとった後に再びソールを出発。


 現在はシオンの背に乗せてもらい、件のゲートに向かっている。


 当初はリーゼルン騎士団にアスリさんが同行して向かう予定だったんだけど、僕たちの方がコンディションに余裕があること。

 シオンに協力して貰えばゲートへの到達が早い点を考慮して、交代して引き受けたんだ。


 セツカも動けるまでには回復しているそうなんだけど、念を押して今は回復に専念してもらっている。


「そろそろ着くわ。少し揺れるから、気をつけるのよ?」


 必死に背中に捕まるラナたちにふふっと笑いかけたシオンは、広々とした空き地にゆっくりと着地。


 上空から見るとよくわかるんだけど、その空き地から下へ向けて森の木々が荒々しく倒され道を形成している。

 おそらく、ゲートから出てきた魔物が邪魔なものを破壊しながら下山したんだろう。


 全員が降りたのを見計らい、人化すると僕に抱きつく。


「またか! 主殿にひっつくなと言っておるだろうが! 奥方であるティア嬢たちもおるのだぞ?!」


「あらぁ? 本当はセツカもくっつきたいんじゃなくて?」


「何を言っている! ええい、離れんかッ!!」


「あはは……」


 シオンが抱きついている姿を見て初めこそ驚いた様子だったティアとネイアから、その後こっそりとシオン殿に抱きつかれても否定しないようにと言われてしまい、笑うことしかできない僕。


 理由を尋ねても教えてはくれなかったんだけど、何か考えあってのことなのだろうと様子見している。


 ラナはとても不満そうに見つめてくるから、きっと二人というものがありながらって怒っているんだろうなぁ。


「これがゲートだの……。クラーボツめ、本当にろくなことをせん奴じゃ」


 ティアが厳しい視線を向けた先には、直径30mほどの円形をした大きな穴が空いている。


 見た目は僕が作り出すゲートにそっくりだけど、その規模は桁違いだ。

 このサイズなら確かに、大型の魔物はおろか龍でも通り抜けられるだろうね。


「問題はどうやって塞ぐか、ですね……。こちらの魔道具を破壊すればひとまずは問題ないですが、魔界側には残ってしまうので……。見張りを置くにしても、ここは少し遠いですし」


 魔道具を観察しながら思案するネイア。


「一度向こうに行って、魔道具を壊してからすぐにこっちに戻ってくる事はできないの??」


「できない事はないと思うが、万が一ゲートの消滅に巻き込まれればひとたまりも無いのじゃ……」


「それは危なすぎるね……」


 ラナの思いつきに弱々しく首をふったティア。


「主殿のゲートは、魔界からこちらには繋がらないのですか?」


 首を傾げたセツカの言葉に、それだーーーッ! と言わんばかりに目を見開く三人。


 シオンは別の意味で驚いているようで、険しい顔をしている。


「セツカ……? ご主人様がゲートを使えることにも驚きだけど、いくらなんでもそれは無茶振りじゃないかしら……??」


「ネイア、このゲートは魔道具さえいじらなきゃ安全に行き来できるんだよね?」


「はい、そのはずです」


「じゃあ、一回僕が向こうに行って試してみるよ。成功すれば僕が向こうの魔道具を壊して戻ればいいし、ダメならまた何か考えよう」


「ええ、なんで誰も止めないの……? うちがおかしいのかしら……??」


 困惑した表情を浮かべるシオンに、セツカがポンポンと肩を二度叩く。


「主殿のお力は、常識では測ることなどできないのだ。直慣れるさ」


「そ、そうなのね……」


 頬を引きつらせたシオンもまた、僕にあり得ないものを見るような視線を向ける。


 あはは、この視線にすっかり慣れてることが嫌だなぁ。


 僕は現実逃避しながら、ゲートを潜り魔界へと足を踏み入れた。


「ここが魔界……。本当だ、向こうよりも魔力濃度が高い気がする。でも、綺麗な景色だなぁ」


 視界一杯に緑が広がり、その先には切り立った崖や天高くそびえる一本岩が何本も見える。


 もっとおどろおどろしい場所を想像していたけど、全然そんな事はなかった。


 ここがティアやネイア、セツカやシオンの故郷……。


 おっと、物思いにふけってる場合じゃないね。


 気を取り直した僕は、固定化されているゲートに手をかざすと自分が使うものと何か差があるのか確認していく。

 

 ……うん、特に差はなさそうだね。これなら大丈夫そうかな。


 一度ゲートを作り出し顔だけ出すと、ティアたちと目があった。


「繋がるみたいだから、こっちの魔道具を壊しちゃうね。すぐ戻るから待ってて」


「ご主人様は本当に人間なのかしらぁ……」


 顔を引き抜くときにシオンのぼやきが聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。うん。


 気にしないことにした僕は、魔道具を1本だけ回収して残りを全て壊すと、ゲートが閉じたことを確認してから自分のゲートで人間界へと戻った。


「ただいま。向こうはちゃんと閉じたよ」


「ありがとうなのじゃ、シズク。では、こちらも壊してしまおうかの」


「あ、先に1本だけ回収させてもらっていいかな? 何かの証拠になるかもしれないし、取っておこうと思って」


「確かに、それもそうじゃな」


 ティアが同意してくれたので、先ほどと同様に地面に刺さる棒状の魔道具の一本に手を伸ばした。


「お待ちくださいっ! この魔道具はゲートを維持するために全てリンクしていますので、起動している状態で一本だけ引き抜くと空間の亀裂が不安定になり、そこから空間の狭間に引き込まれてしまいます!!」


「え……?」


 こともなげに引き抜いてしまった僕は、思わず固まってしまう。


「シズク様ッ!!」


 すぐさま飛び込んできたネイアが、僕を抱きしめると勢いそのままに倒れる。

 僕はなんとか自分の背中を下にして倒れることに成功し、腕の中にいるネイアに声をかけた。


「ネイア、大丈夫?! ネイア?!」


「私は大丈夫です! シズク様こそご無事ですか?! 何事もありませんか?!」


「うん、僕は大丈夫だよ。ネイアが守ってくれたから。ありがとね」


「いえ……」


 地面に倒れたままネイアと見つめあっていると、コホンとわざとらしい咳払いが響く。


「あー、いつまでそうしてイチャイチャしているんじゃ?」


「ずる……じゃなかった、そろそろ離れなきゃダメだよネイア!」


 二人に引き起こされたネイアは、名残惜しそうに僕を見つめている。


「わ、私はシズク様が危ないと思って……!!」


「うむ、それはわかっておるよ。じゃが、何も起こっとらんぞ」


「え??」


 ネイアがキョトンとしながらゲートに視線を移すも、確かに何も変化はなかった。


「大丈夫よ。ご主人様は魔道具を引き抜くときに自分の魔力で一時的に回路を迂回させて、一本だけ接続を遮断させたみたいだから。考えてもみなさい? 誰か、この魔道具の破壊方法をご主人様に教えた?」


「「あ……」」


 ティアとネイアの二人は、今気づいたと言わんばかりに固まる。


「そういうことよ。向こうですでに破壊したのに、何事もなく戻ってきている時点で大丈夫なの。ご主人様にとって、この程度のことは意識する必要すらないほどに簡単なものって訳ね」


 シオンは笑顔で言っているけど、それって僕が色々とおかしいって言ってるんだよね??


 そんなことないよ!!


 とは口が裂けてもいえず、僕はそそくさと目の前の魔道具を破壊したのだった―――。

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