第65話 暴虐の灰厄禍1
セツカが雄叫びを上げながらアッシュヴァイオレンスドラゴンーー灰龍へと掴みかかり、腕同士で突組み合いを始めた。
「ヒャハハハハ! 力で俺様に勝てると思ってんのかよ?!」
「誰も力で勝とうなどとは思っておらん! ただ……直接一発入れておかねば気が済まんのでな!」
セツカは灰龍の後ろ足を地面ごと凍らせて貼り付けにしつつ、組み合っていた前足を離して身体ごとタックル。
僅かによろけた灰龍は足が動かせずにバランスを崩し、翼で体勢を立て直しているところにセツカの尻尾によるビンタが炸裂した。
「テメェ……テメェエエエエエッッ!! 俺様のような真なる強者の血を繋ぐ役割しか持たねぇ雌風情が、あろうことか俺様の顔を殴りやがったな?! ぜってぇゆるさねぇぞ!!!!」
「本当に強き者は、弱者を見下さんのだ! 貴様のその発言が、自身の器の小ささを現していると気付けんとは愚かな!」
「なめた口ききやがって……! 忘れちまってるようだから、俺様の強さをたっぷりと思い出させてやろうじゃねぇか!!」
ギンッと怒りに満ちた瞳でセツカを睨みつけた灰龍が、その場で全身に力を込めると灰色のオーラが身体から溢れ出した。
こめかみから生える二本のうねった角がグググ……と音を立てながら更に伸びたかと思うと、根本から徐々に赤黒く染まっていき淡く輝き出す。
オーラが収まると、そこには全身が一回りほど膨れ上がり大気を揺るがすほどのプレッシャーを放つ灰龍がそびえ立っていた。
セツカを不安そうに見守っていたシズクは思わず息を呑み、リルノードは恐怖のあまりその場に崩れ落ちる。
騎士団長と副団長、アスリとガレリアこそなんとか正気を保てたものの、灰龍の放つプレッシャーにあてられた影響で、熟練の騎士団員ですら恐慌状態に陥ったり茫然自失となったりする者が続出したことからも、龍という生物が持つ計り知れない力の一端を窺い知ることができるだろう。
「セツカ……」
見守ることしかできないシズクの、弱くか細い声。
聞こえたか聞こえずかは当人には現状知るよしもないが、セツカが自分の方へと振り返り笑いかけたような、そんな気がしたシズク。
「あまり心配をかける訳にもいかんのでな。我も全力で相手してやろう!」
セツカの身体からも白いオーラが溢れ出すと、まるでその身を覆う鎧のように氷を纏っていく。
翼、前腕、後脚、胸部、首筋、尻尾、そして頭部。
白銀の鎧を身につけたかのようなその姿は、周囲に漂う雪華も相まってより神秘的な雰囲気が増してとても美しい。
「はぁ?! テメェ、なんだその姿は……そんなんしらねぇぞ!!」
「当たり前だ。そうそう成れるものではないからな!」
驚愕でたじろぐ灰龍に向けてセツカが翼を振るうと、巻き起こる暴風の中に次々と氷柱が出現し、風圧と共に降り注ぐ。
「氷程度、俺様に効くかよっ!!」
灰龍が吠えると、眼前に黒い炎が渦を巻くように出現。
飛んできた氷柱を最も容易く溶かし、無効化してみせる。
「ふむ。流石は黒炎、ただの氷では1秒とてもたんか」
「ケッ、わかっただろうが! そもそもが、俺様はテメェの属性から見れば相性は最低最悪だってことを思い出したかよ!?」
「そうやって目先のことしか見えんから、貴様はいつまで経っても殻を破れんのだ」
「あぁ?!」
「ほれ、防げるもんなら防いで見せろ」
再びセツカが翼を振るい、同様に氷柱が何本も生成され飛んでいく。
灰龍も面倒そうに同じ手順で氷柱を防ごうとした。
だが、今回は先に黒炎に触れた氷柱が爆発。
黒炎を消し飛ばすと、後に続いていた氷柱が灰龍目がけて降り注いだ。
「なぁッ?! チッ!!」
灰龍は翼を前面に伸ばして交差させると、勢いよく開くことで暴風を発生させて氷柱を全て弾き飛ばす。
お返しと言わんばかりにそのままその場でかがみ込むと、後脚にグググっと力を込めて目にも止まらぬ速さでセツカ目がけて飛んでいく。
鋭い角を前に押し出し、空気を裂きながら飛んでいく姿はまるで弾丸のよう。
セツカがあっさりと躱すも、壁に当たったボールの如く縦横無尽に右に左に空中を跳ね返りながら執拗にセツカを狙い続ける。
その軌跡を辿るように角が放つ赤黒い輝きが残り、夜空にセツカを取り巻く幾重もの光の線が描き出された。
「目標に当たるまで止まらんという訳か。なんとまぁ力任せの出鱈目な技だな」
「ヒャハハハハ! 俺様の角はあのアダマンタイトですら穿つ! たとえ龍だろうが、当たれば風穴が空くゼェ?!」
勝ちを確信したかのような、心底愉快そうな声音で笑う灰龍。
その言葉を聞いたリルノードら一行は、焦った様子を浮かべた。
「セツカ様……!!」
「あんなふざけた技があるかい?! なんのひねりもないただの突進が、防ぐことも許されない絶対無敵の威力を持つなんて……!!」
「ありゃー流石にオレ一人じゃ止めきれねぇな……。黙って見てるしかねーのか……?」
「シズク様とアスリ、ガレリアが三人で協力すればどうですか!?」
「無茶言うんじゃないよ……! 仮にできたとしても、一度、たった一度弾いて進行方向を変えることができるかどうか?! ってところさ……!」
「そんな……」
アスリの返事に、上空で攻撃を躱し続けるセツカを見上げて思わず泣きそうな顔をしたリルノード。
「いや……あの龍が協力してくれんだったら、不可能じゃねーんじゃねーか?!」
「何か妙案を思いついたのかい?!」
「ガレリア、その作戦を早く!」
「落ち着け! いいか、まずあの龍にどデケェ氷塊を作り出してもらう。そんで、オレたちが協力して壁を作り出し、その氷塊に向けてうまくあいつを弾いて突っ込ませるんだ。氷塊に当たって失速すれば、あの龍が強力な一撃をたたき込む隙ができる。おそらく、これが一番現実的で可能性のある作戦だと思う」
ガレリアの発案に、果たしてそんなにうまくいくのだろうか……? と、口には出さないものの不安を滲ませる一同。
「ガレリア、私が言うのもなんだが……本当にそんなことが可能なのか?」
黙って行く末を見守っていた副団長が問いかけると、ゆっくりと肯くガレリア。
「全てが上手くいくかどうかは別として、一度だけ目的の方向へと弾く。この一点についてだけなら、オレはいけると思ってるぜ。オレがベースを作り、アスリが補強。そんでシズクがありったけの魔力を注ぐ。これなら、一時的にアダマンタイトを超える硬度を持つ壁を作り出せるはずだ」
「僕にできるでしょうか……」
自身の掌を見つめながら、不安そうに呟くシズク。
「お前の魔力ならいける。自信をもて!」
「……はい!」
ガレリアの確信に満ちた力強い瞳を見て、シズクは覚悟を決めた。
「心配無用です! これくらい、大したことありません!」
だが、そこへセツカから思いがけない言葉が飛んだ。
「避けることしかできねぇくせに、大したことねぇだぁ?! 強がりは見苦しいだけだぜ!」
「何か次の手があるのだろうと予測して、様子見していただけだ。どうやら我の過大評価だったようだがな」
セツカは呆れたようにそう呟くと、尾の先端に大きな氷塊を生成。
高速で正面から迫る灰龍目掛けて尾を振り、遠心力をのせた氷塊を叩きつけると地面へと弾き飛ばした–––。
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