第63話 ヒドラ討伐戦2
「ガレリアッッ!!!」
アスリさんの悲痛な叫び声が響くと、ぴくりと反応する2つの人影。
「あ……すり……?」
「ガレリア、お前はまだ死ねぬようだぞ。やはり私がいこう」
「ま、待て……!」
ガレリアさんの制止を振り切り、ヒドラ目掛けて駆け出す鎧を身に纏った女性。
おそらくあの人が、騎士団の人が言っていた副団長だろう。
手には頭ほどの大きさをした塊のようなものを持っている。
「おやめなさい、ミーザ副団長!」
「リルノード閣下?!」
リルノード公の声に反応したミーザさんは、目前に迫る魔物の攻撃を掻い潜ると大きく後方へと飛び退く。
「相打ちなど許しません! 大丈夫です、心強い救援が来てくれましたよ!」
「救援……?」
チラリと僕たちを見て、怪訝そうな表情を浮かべるミーザさん。
まだ20にも満たない僕と、とても戦えそうには見えないセツカの二人じゃ仕方ないか。
「久しぶりに本来の姿で暴れて良いと許可をもらえたのだ。邪魔してくれるなよ!」
ニィーと凶悪な笑みを浮かべたセツカは、その場で大きく飛び上がると人化を解除。
美しい純白の龍へと姿を変えると、周囲にはびこる魔物を氷漬けにしながらヒドラへと向かっていった。
「ド、ドラゴン……?!」
腰の鞘から慌てて剣を引き抜いたものの、緊張からか僅かに手を震わせるミーザさん。
「ミーザ、警戒しなくて大丈夫です。セツカ様は味方ですよ」
「は、はぁ……?」
リルノード公の言葉に、困惑とも驚愕とも取れる何ともいえない表情を浮かべたミーザさんは、ヒドラ相手にはしゃぐセツカをじっと見つめていた。
「ガレリア! しっかりおし、ガレリアッッ!!」
「何でアスリがここに……。まぁ……何でもいい……。最後に顔が見れて、満足だぜ……」
「何を言ってんだい! あたいが来たからには、助かるに決まってんだろ! 最後なんて言うんじゃないよっ!!」
ヒドラの毒にやられたのだろう。
皮膚の所々が紫に変色し、一部は肉が腐りかけている。
顔は血の気がひいて真っ青で、呼吸も浅く誰の目から見ても余命幾ばくかなのが理解できた。
アスリさんが涙を流しながら必死にヒールやポイズンヒールをかけているけど、ほとんど効果が見られない。
「へへ……こんなオレによぉ……愛想も尽かさず、いつもそばにいてくれてありがとうな……」
「お黙りっ!! あたいはそんな言葉、聞きたくないよっ!!」
「最後なんだ……素直に聞いてくれよ……」
「嫌だって言ってんだろッ!! シズク、あんたも手伝っておくれ! あんたとあたいの2人がかりなら、きっと……!」
「は、はいっ!」
僕も必死にヒールとポイズンヒールを交互にかけるけど、ガレリアさんの呼吸はどんどん浅くなっていく。
どうして全然効果がないんだ?!
ヒドラの毒は、その他の魔物がもつ毒とは何かが違う……?!
「死なせないっ! 死なせるもんかっ!! あんたに死なれたら、あたいは……ッ!!」
「アスリ……。神よ、どうかご慈悲を……」
リルノード公も涙だけは溢さないよう気丈に振る舞っているけど、祈りを捧げるように握り合わせた拳は力を入れすぎてプルプルと震えていた。
「主殿っ! あのヒドラ、普通の個体より遥かに強い上に、どうも何者かに精神支配されているようなので、十分に注意してくださいっ!」
上空を旋回しながらそう叫んだセツカは、再びヒドラの元へと飛んでいく。
だからポイズンヒールが全く効かないのか……!
でも、精神支配されているってことは、誰かが操っているってこと……?
疑問が尽きない中、ポイズンヒールでの治療を諦めた僕はダメ元で
より強力な効果を発揮するようにと強く念じながら、解毒薬を作り出した。
「アスリさん、これをっ!!」
「ああ! ほらガレリア、これを飲みな!」
アスリさんが口元に解毒薬を流し込むと、溢しながらも何とか一口飲み込んだガレリアさん。
でも、わずかに反応こそあったものの、危険な状態からは回復できてない。
アスリさんが続けて飲ませようと無理やり流し込むけど、口元からただ流れ落ちるだけだった。
「ありがとよ……。いいんだ……自分のことだ、オレが一番よくわかってる……。良い人生だったなぁ……」
「諦めてんじゃないよっ! あんたらしくもない! いつもの無駄にでかい自信はどうしたんだいっ?!」
「女を泣かせんのは……2回目だなぁ……。やっぱ……苦手だぜ……」
「ガレリアっ?! 気をしっかり持ちな! あんたは生きて帰るんだ!! こんなとこで死ぬんじゃないよッ!!」
スッと目を閉じて、徐々に呼吸が浅くなっていくガレリアさん。
アスリさんはボロボロと涙をこぼしながら、ガレリアさんの頬に両手を添えて何度も何度も叫んだ。
……?
涙が光って……??
アスリさんからこぼれ落ちる涙が、とても強い光を放っているように見える。
まるで、アスリさんの想いが全て凝縮したかのような……儚くも強い輝き。
僕は無意識のうちにアスリさんの涙を掌で受け止めると、その涙に力を与えるように自分の魔力を目一杯注いだ。
そうして僕の掌に生成された、淡く光る水色の液体が入った小瓶。
「アスリさん、これを飲ませてください!」
「……おうッ!」
アスリさんは何も聞き返すことなく、僕の手から小瓶を取ると自身の口に全て含む。
そのままガレリアさんに口付けすると、口移しで液体を流し込んだ。
5秒……10秒……。
わずかな時間がとても長く感じる。
ピクリと、僅かにだがガレリアさんの指先が動いたかと思うと、スッと目が開いた。
「オレは……」
「……フン、死に損ねたようだねっ! まってな、今傷も治してやっから」
しっかりと呼吸し、顔色も幾分良くなったガレリアさん。
腐りかけていた傷口は生傷へと変わり、紫に変色していた皮膚は元の色に戻っている。
へへっと嬉しそうに笑うアスリさんと共にヒールをかけ続けること数回、ガレリアさんは体力こそ回復できていないものの、命に別状がないまでに回復したーーー。
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