第47話 混乱と悲しみ。そして怒り
議会当日。
ゼニーモールの最上階、展望台が議会の会場だった。
早々にエンペラート皇帝陛下と共に会場入りした僕たちは、ウェルカ帝国と指定された場所へと移動すると、陛下とレスティエ皇后様を先頭に、三角形の形で置かれた椅子へと腰かける。
陛下たちのすぐ後ろをベルモンズ宰相、グラーヴァさん、僕が。
その後ろには文官たちが並ぶ。
ティアたちは証言が必要になった際にすぐ呼べるよう、隣室で待機中だ。
続々と参加国が集まっていき、最後にネーブ王国一行が席についたところで議会が開始。
尚、リーゼルン公国については魔物の対応で外せないとのことで、代理の大臣以外は欠席のようだ。
今回の議会における最大の議題も、その支援についてということらしい。
様々な議題で意見が交わされ、やがてリーゼルン公国の支援の話になった頃。
ネーブ王国が待ってましたと言わんばかりに、僕のことを話し始めた。
「さて。先日発表した通り、我が国ではそこにいるシズクという冒険者に、指名手配をかけている。そこの犯罪者はとてもじゃないがサンダーバードを討伐できるような力もなく、自身より弱い女を一方的に好き勝手した極悪人だ。ウェルカ帝国には、なぜそんな者をS級認定した挙句、こちらが事情を説明しても引き渡しに応じないのか、その真意を説明願いたい」
こちらを見てニヤリと笑ったロド王。
エンペラート陛下は気にした様子もなく立ち上がると、口を開いた。
「ふむ。確かにこちらでも、貴国が彼に指名手配をかけていることは承知しておる。その上で、我々は独自の調査により彼を潔白だと判断し、余の名においてS級認定を与えたに過ぎん。彼が
サンダーバードの単独討伐という部分に反応した各国の陣営が、ヒソヒソと話しながら僕のほうを窺ってくる。
「皆様も噂くらいは聞いたことがないだろうか。そこにいる犯罪者――シズクという男は、かつて我が国で神童と呼ばれたほど有名な者だったのだ。だが、実際には初級魔法しか使えないという有様。やつの父であるラインツ伯爵は、優秀な家庭教師を雇ったりとあの手この手で息子のために手を尽くしていたというのに、やつは親の想いすら踏みにじった。あろうことかその男は自身の家に奉公に来ていたメイドに暴行を加え、国外逃亡したのだ!! そんな者がサンダーバードなど討伐できる訳もあるまい!!」
ロド王の言葉に、今度は厳しい視線がウェルカ帝国側へと向けられた。
「……確かに。貴国の言う通り、彼は中級魔法や上級魔法と言った魔法は使えないようだの。だが、それらを補って余りある力が彼――シズクにはあるのだ。自らの物差しだけで使えぬと決めつけ、その本質すらも見抜けなかった者が何を吠えようと、こちらには一切響かんのう。そもそも、貴国の言い分には無理がありすぎんか? 貴国は犯罪を犯したものがあっさりと国外逃亡できるほど、警備が緩いということかの?」
「ええい、戯言ばかり抜かしおって! 良いだろう、そこまで言うのなら証拠を見せてやるっ! ローレン、連れてこいっ!!」
「はっ!」
ロド王の言葉に一礼したラインツ伯爵は、一度部屋から退出するとローブで全身を覆い隠した人物を一人伴って戻って来た。
「おい犯罪者ァ! この顔に見覚えがあるだろう?! 貴様のせいでこうなったのだからなぁ! んん?!」
ロド王はひどく憤慨した様子で僕をキッと睨みつけると、勢いよくローブを取り払い連れて来た人物の姿を顕にした。
身体中の至る所についた傷跡、顔からは精気が抜け落ち、どこか虚ろな瞳をしている。
だが、その姿は紛れもなく――。
「ラナァアアアアアアアアアッッ!!」
思わず叫んだ僕の声に反応してか、ラナがこちらを見て瞳から涙を零すとさっと顔を背けてその場にへたり込む。
「見ろ、この痛々しい姿を! 元凶である貴様を見たせいで、こんなに震えているではないか!!」
ロド王の言葉通り、ラナは自らの肩を抱きしめカタカタと小刻みに震えている。
家を出ていくときには、いつも通りメイド服を着て仕事にあたっていた。
なのになぜ……。
僕が茫然としている間にも、周辺国からはウェルカ帝国へ向けて非難の声が飛び交う。
どうすればああまで痛めつけられるのか。とか、心がないだとか。
そんな犯罪者を擁立したウェルカ帝国は腐っているとか。
様々な罵詈雑言が向けられる中、僕は無意識のうちにラナのほうへと向けて一歩踏み出していた。
「おい、坊主っ! 今は……ッ?!」
僕を止めようとしたグラーヴァさんは、なぜか途中でビクッと身体を揺らすと止まってしまった。
でも、今は止められたくなかったしちょうど良い。
シンッと静まり返った会場の中、ラナの元へと辿りついた僕は恐る恐る彼女に手を伸ばす。
「ラナ……僕だよ……。シズク、覚えてるかな……? 君に一体何があったの……?」
「ジィィ……ズゥ……」
僕の言葉にチラリと視線を向けたラナは、何か言葉を発しようとして悲しそうに首を横に振った。
彼女のよく通る綺麗な声までもが一切失われていて、僕は訳がわからず目の前が真っ白になったような気さえする。
「ふ、ふんっ! なんだ、いまさら口裏を合わせてくれとでも頼んでいるのか?! この恥知らずがっ!!」
ロド王が何か叫んでいるみたいだけど、まったく耳に入ってこない……。
なんでラナがこんな目に。
僕は彼女がいたからこそ、ラインツ家での日々も魔法の勉強も、全てが頑張れたと言ってもいい。
姉のようであり、恩人であり、僕にとってはとても大切な人。
悲しみと混乱が大半を占めていた僕の心が、次第に怒りに染まっていく。
彼女をこんな目に合わせたやつを、僕は絶対に許さない―――。
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