第46話 商業都市


 定期的に襲い来る魔物を片づけながらリーゼルンを抜けた僕たちは、間もなく商業都市ゼニーへと到着するところだった。


「凄い……! 本当に商人のための都市なんですね!」


 僕は思わず興奮してしまい、笑顔でフェーサルさんに声をかけた。


 ――商業都市ゼニー。

 名前の由来通り、商業を生業とした人たちが作り、商業のためにある都市。


 ゼニーは六角形の形をした外壁で覆われ、それぞれの辺に大きな門が作られている。

 それら6つの門から中央へと伸びるメインストリートの脇には個人商店が軒を連ね、中央にはひと際大きな建物が建っていた。


 個人商店には食料品や衣類はもちろんのこと、冒険者向けの武器や防具、はたまた地方の特産品など、様々な商品が置かれた店が所狭しと立ち並んでいる。


 ここで手に入らないものなんてないんじゃないか?

 

 そう思えるほど、見たこともない商品が目白押しだった。


 街中を進みながら、護衛中だと言うのについつい目を輝かせて辺りをキョロキョロと覗ってしまう僕に、フェーサルさんが笑いかける。


「気に入ったようだね? ここは物流の中心だから、各地から様々なものが集まってくるんだ。食事も屋台飯からレストランまで色々あるから、食べ歩きやデートにもオススメだよ?」


 そう言って、チラッと後方を見やるフェーサルさん。


 時間があれば誘ってみようかな。

 なんて思いはするけど、すんなりと解決するとも思えないし、それはまた次の機会かな。

 

 そうこうしている内に商店街を抜けると、中央にそびえ立つゼニーを象徴する建物、ゼニーモールが目に飛び込んでくる。


 三階建ての巨大な四角い建物、その中央からは見上げるほど高い塔が立っていて、上には辺りを一望できる展望台があるそうだ。

 まるで長方形の積み木に細長い円錐台の積み木を重ね、その上にさらにひし形の積み木を置いたような、そんな形。


 宿はゼニーモールをぐるりと囲むように立ち並んでいて、商店街へもゼニーモールへもアクセスしやすい立地になっていた。

 

 僕たちはその中の一棟、ウェルカ帝国で貸し切りにしてあるという宿屋のうちの1つへと向かう。

 陛下が泊まる宿はホテルと呼ばれる宿の中でも最高級の場所で、一階は受け付けのあるエントランス以外は全て馬車をとめる駐車場となっていて、二階から上が全て宿泊施設というクリーム色の巨大な建物だ。


 チェックインなどの手続きはすでに先行した文官の人たちが済ませているそうなので、早々に陛下とレスティエ様を最上階である6階へとお連れし、僕たちは1つ下の5階に宛がわれた部屋でようやく一息つくことができた。


「ふー。みんなお疲れ様。何事もなくたどり着けて良かったね」


「妾たちは残党処理だけじゃったからの。楽なもんじゃ」


「ですね。ほとんどシズク様が倒してくれましたから」


「我はえっと……はんばーぐなるものが大変美味でした!」


「あはは……」


 いざというときに動けないと困るので、定期的にセツカには僕が作った偽物フェイク料理を渡しておいたんだけど。

 後方からの襲撃はなかったため、ひたすら食べ続けていたみたいだね。


 議会が開かれるのは三日後ということもあり、その後は常に陛下の近くで行動していた僕たち。


 ティアとネイア、セツカの三人がレスティエ様とお茶会をしたり、僕がグラーヴァさんにこれも勉強だとカードを教え込まれたり。


 セツカの食料事情について尋ねられたとき、セツカがついポロッとフェイクのことを漏らしてしまいグラーヴァさんに問い詰められたり。


 レスティエ様があれもこれもとお茶菓子を僕に食べさせ、フェイクで作らせたりと色々あった。


 エンペラート陛下がつまみ革命を起こすって言いだしたときは、とても困ったけどね。


 そうこうしている内に日々は過ぎていき、議会前日にはネーブ王国の面々もゼニーに到着。

 窓から眺めるにとどまったけど、久しぶりに懐かしい面々を見たというのに特に何の感傷も抱かなかったことが印象的だった。


 僕にとってネーブ王国はすでに過去のものであり、自分の中できちっと清算がついているんだろう。


 唯一の心残りはラナだけど、彼女はとても気立てが良く容姿も美しいので、貰い手には困らないはず。

 少し気が強いのが玉に瑕だけど、それも愛嬌だと思えば気にならないし。

 きっと大丈夫……。


 そう思いはするのに、拭いきれない不安が頭を過る。


「シズク、いよいよ明日じゃな。……大丈夫かの?」


「……うん。ごめんね、ぼーっとしちゃって」


「色々と思うところもあるじゃろ。じゃが、それも明日で決着する。安心せい、何があろうとも妾たちはシズクの味方じゃ」

 

「そうですよ、シズク様。どうにもならないときは、みんなで逃げちゃいましょう。いっそのこと魔界に行くという手もありますし!」


「主殿、魔界のことならお任せください! 我がいた場所なら、魔族もうかつに入ってこぬのでのんびりとできます!」


「うん……。そうだね、それもいいかもしれない。魔界もぜひ行ってみたいし」


 僕が笑顔を向けると、微笑み返してくれる三人。


 みんなの優しさをもらい元気が出た僕は、明日はなんとしても無実だと証明しよう。そう強く心に決めた。


 そして翌日――。


「ラナァアアアアアアアアアッッ!!」


 僕は議会の最中にも関わらず、悲鳴にも似た叫びを上げることになるのだった―――。

 

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