第41話 月夜の告白


 S級認定を受けた日の夜。


「……まだ起きてる?」


 セツカが眠っているのを確認してから、そっとティアとネイアに声をかけた。

 二人も寝ていなかったようで、こくりと無言で頷いてくれたので静かに隣の部屋へと移動する。


 というのも、僕らが泊めてもらっている部屋には普段使っている応接間に当たる部屋とは別に寝室が2つついていて、始めは女性用に別室を用意すると言う話もあったんだけど、二人が一緒にいると言って譲らなかったんだよね。


 セツカが「それなら我も!」と言い出した結果、僕とティアたち三人とで別れて寝室を1つずつ使うことになったんだけど。


 結局ティアとネイアは僕と寝ると言って聞かず、セツカも「見張りが必要ですので!」とそれらしいことを言って同じ部屋にいると言い出し、ベッドを追加で二つ用意して寝ていたんだ。


 ただ、今日はS級認定も無事受けることができて、二人に宣言していた通り男としてケジメをつけると決めた日だからね。

 

 二人には悪いかな、とは思ったんだけど、こうして三人だけで話せる夜間に声をかけたという訳。


 バルコニーに出ると、少しひんやりとした心地よい風、上空には綺麗なお月さまが輝いていて、なんだか天気までも僕の背中を押してくれているようだった。


「……改めて、S級認定おめでとうなのじゃ」


「おめでとうございます、シズク様……」


「……ありがとう。それで、えっとね……。二人に大切な話があるんだ」


「「……はい」」


 緊張した様子で、手をぎゅっと握り合ったまま声を揃えて返事した二人。

 

「まだ完全に撤回された訳ではないけど、ウェルカ帝国から無実だと信じて貰えて、無事S級認定も受けられて。僕も堂々と大手を振って歩けるようになったから、きちんと二人に伝えたいと思ってさ」


「「……」」


 黙って僕の話に耳を傾けてくれる二人に、一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。


「……僕はこれからも、ティアとネイアに傍にいてほしいと思ってる。まだまだ至らないところばかりの僕だけど、どうかこれからは仲間ではなく恋人として、共に歩んでもらえないかな?」


 あの時と同じように、頭を下げて二人に両手を突き出す僕。


 ……あれ、何の反応も返ってこない?!


 自惚れでなければ、二人はこの時を待っていてくれてると思ってたんだけど……。


 恐る恐る顔を上げると、それを見計らったかのように二人が飛び込んできて、僕の両頬に同時に口づけをした。


「……こちらこそ、宜しく頼むのじゃ」


「……不束者ですが、よろしくお願いしますね」


「……ありがとう。よろしくね」


 僕は思わず二人をぎゅっと抱き寄せ、しばらくそのまま抱き合っていた。


 ティアの一言を聞くまでは。


「……シズクよ、そろそろベッドに向かわんか? その……決心が鈍ってしまいそうじゃ」


 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに囁くティア。


「え?」


 僕はきょとんと首を傾げる。 


「……む? S級になり、告白され、これを受けた。なれば次は、もちろん……その……夜の営みじゃろ……?」


「……うん? まだ僕たちは、付き合い始めたばかりだよ? その、勢いに負けて同じベッドで寝てしまっている僕が言えることではないけど、そういうのはもっとゆっくりと順を追って――」

「お嬢様、シズク様。まずは一度、中へと戻りましょう。お身体が冷えてしまいますよ」


 話を無理やり遮り、ネイアがさぁと部屋の中へ移動していく。


 ネイアが話を遮ってまで注意してくるなんて珍しいなぁ。

 なんて思いつつも、僕は疑うことなくついていってしまった。

 そう、ついていってしまったんだよ。

 学習能力がないよね。


 部屋に戻るや否や二人に抱き着かれ、そのままセツカがいる寝室とは別の、正反対側にある使っていなかった方の寝室へと連れ込まれた僕。


「ちょ?! 何するの?!」


「お嬢様、シズク様の言葉を聞いてはいけませんっ! ここは年上の私たちがリードしなきゃいけないんですっ!」


「う、うむ?! わかったのじゃ!」


 僕の抵抗空しく、ネイアが僕を抑えている間にティアが服を脱ぎ、今度は裸のティアが僕に覆いかぶさっている間にネイアも服を脱ぐ。


「ちょ、二人ともわかってる?! そもそも、ここは皇城なんだよ?!」


 僕はなんとか二人を落ち着かせようと、ベッドの上で後ずさりしながらド正論を放ってみた。


 でも……すでに僕は負けていたんだ。


「ご安心ください、シズク様。カイゼル皇太子殿下より、頑張ってねと応援頂いておりますから!」


「カイは妾たちの味方なのじゃ! 観念せよ、シズクっ!」


「カイさああああああああんッッ!!」


 僕の心の叫びも空しく、あっという間にひん剥かれてしまった。


 うぅ……僕が力づくで反撃できないからって、ひどい……。


「……こ、今度は大丈夫じゃ。あれから、何度もネイアから話を聞いたからの!」


「お嬢様、頑張りましょう!」


 ハァハァと荒い息遣いで迫ってくる二人に、ダメとは思いつつも反応してしまう身体。


 二人の視線がその一点にくぎ付けになり、ますます興奮している様だった。


 僕の貞操もここまでか……。そう思った時、勢いよく扉が開け放たれた。


「主殿、何やら騒がしいご様子! 如何されま……む? 何をしているのですかな?」


「セツカ、良いところにっ! お願い、二人を止めて!」


 さすがにセツカなら二人を止められるはず!


 そう思ったのに、何かを考え込んだ様子のセツカは驚く発言をした。


「……申し訳ありません、主殿。我は乙女の一大決心を止めることなぞできませぬっ!! それに……人間の交尾というものを見てみたいと常々思っていたのです。ささ、どうぞ我に気にせず進めてください」


 熱いまなざしでじっとこちらを見つめるセツカ。


「「「……できるかーーーーっ!!!」」」


 僕たち三人の想いは、今一つになった―――。

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