第40話 重鎮たちの茶会
謁見の間をあとにした僕たちは、ほどなくしてカイさんに連れられて皇城内を移動していた。
「失礼します。お連れしました」
護衛の騎士が立つ扉を通り抜け、一本道の奥にある扉をノックしたカイさん。
中から出迎えてくれたのは、とても美しい女性だった。
部屋の中ではエンペラート皇帝陛下とベルモンズ宰相が大きな丸テーブルを囲むように置かれた椅子に腰かけていて、もう一人見知らぬ年配の男性も座っている。
金色の刺繍が入った豪華なグレーのローブを身に纏うその男性は、興味深そうに僕のことを見つめていた。
「ようこそおいでくださいました、シズク殿。中へどうぞ」
女性に促されるまま部屋へと入った僕たちは、陛下の隣を1つ開けてカイさん、僕、ティア、ネイア、セツカの並びで椅子に腰かけた。
先ほどの女性が陛下の隣に座ったのを見て、僕はようやく誰だかを理解する。
美しいブロンドのロングヘアに、フリルがあしらわれた純白のドレス。
席順から見ても、おそらく――。
「ふぉふぉふぉ。紹介がまだだったの」
僕の視線に気づいたのか、陛下が愉快そうに笑う。
「初めまして、シズク殿、ティア嬢、ネイア嬢、セツカ嬢。わたくしはレスティエ、エンペラートの妻で皇后をしています」
にこりと優しく微笑んだレスティエ様は、カイさんにそっくりだった。
「ついでだ、ワシも挨拶させてもらおうか。この国で宮廷魔術師をしている、グラーヴァだ。よろしく頼む」
豪快に笑うグラーヴァ様に呆気にとられつつ、僕たちも自己紹介を済ませると、エンペラート陛下がここに僕たちを呼んだ理由を説明してくれる。
「急に呼び出してすまんのう。なんせこのベルモンズめが、きちんと話を聞かせろとうるさいもんでな」
「おやおや、陛下ともあろうお方がつまらぬ小細工で仕返ししようとするからでしょう?」
「……何を言っておるのか? 仕返しなどと、まるで余が些細なことを根にもつ器の小さい男のように聞こえるのだが?」
「はぁ? 最近カードで負け続きだからって、わざわざ遠回しな説明で私を混乱させて楽しんでいたお方が何を言っているのか?」
「その前は余がずっと勝っていただろうが!」
「ボケてんじゃねーぞ! いいとこ3割程度の勝率だろうがっ!」
「おぉ?!」
「あぁ?!」
まるで子供のような喧嘩を始めた二人に、呆気にとられる僕たち。
「オホホ、気にしないでくださいな。いつものことですから」
「は、はぁ……」
「アナタたち、いい加減になさい? シズク殿が困っているでしょう。だいたい、忘れてもらっては困りますね。いつも勝っているのはわたくしです」
にっこりと微笑んだレスティエ様だけど、カードには参加していたんですね。
「その……すまないね。ここにいる四人は旧知の中で、私室だといつもこんな感じなんだ……」
困り顔でそう告げたカイさんも、きっといつも苦労してるんだろうなぁとすぐに察してしまった。
僕らの会話が聞こえていたのか、オホンッと咳払いして無理やり空気を変えたエンペラート陛下。
まずはサンダーバードのことを説明し、それからワイバーンやセツカのことを伝えていく。
全てを聞き終えたベルモンズさんは、安心したようにほっと胸を撫でおろした。
「ネーブ王国が阿呆で助かりましたよ……。とてもじゃないが、シズク殿が敵に回っていたかもなんて考えたくもないですからね」
「うむ、それについてはまったくの同意見だの。シズク一人で戦況がガラリと変わるなんてことは想像に難くない。まして、今やセツカ殿を従えておるし……」
一同がちらりとセツカへ視線を向ける中、当のセツカは僕が渡したサンドイッチをもぐもぐと食べている。
「しかし、これほどの力を持ちながらなぜ初級魔法しか使えないんです?」
レスティエ様の疑問に、確かに……と考え込む一同。
僕としても中級以上を使いたい気持ちはあるから、理由がわかるのなら知りたいんだけど……。
「『天道』としてはどうなのだ? グラーヴァよ」
「天道?!」
陛下の発言に僕が驚くと、あぁと思い出したようにつけたすグラーヴァさん。
「言い忘れてたな。一応世間じゃワシは天道の一角、『無のグラーヴァ』なんて呼ばれてるんだぜ?」
「すごいです……! グラーヴァさんの本はたくさん読みました! あれ、でも著者の名前はグラーヴァじゃなかったような……?」
「おぉ、アレが理解できたのか!? さすがじゃねぇか! 著者はな、ワシじゃなくて同じ天道の別のやつにしてあんだ。孤児院を経営してるやつでよ、売り上げなんかが全部そっちに回るようにな」
「なるほど……!」
僕がマジックボックスやテレポートなんかを覚えるキッカケを作ってくれた本を書いた方に、こんなところで会えるなんて……!
僕が感動に打ち震えていると、ティアとネイアがどこか納得したように肩を竦める。
「なるほどの……。普段から『天道』の書いた本を普通の教本だと信じて読んでおれば、複合魔法なんかを一般的な魔法だと思っていても仕方ないのじゃ……」
「シズク様の非常識の一端、その理由が僅かに垣間見えましたね……」
「んん? ワシはまだその辺について聞いてねぇんだが、シズクは複合魔法が使えんのか?」
「ええ、一応。といっても普段使いしているのは『氷剣』と『マジックボックス』くらいで、『テレポート』なんかは気持ち悪くなってしまうのでほとんど使っていませんが」
「……はぁ? まてまてまてまて。百歩譲って『氷剣』については、水と風の適正を持つやつならちらほらと使えるやつもいるからわからなくもねぇ。だが、『マジックボックス』と『テレポート』はワシら『天道』が二人掛かりで使うような魔法だぞ?! 本当に使えんのか?!」
かなり動揺した様子で、テーブルに手をついて詰め寄るグラーヴァさん。
「グラおじさん、少なくとも『マジックボックス』は本当だよ。ぼくも実際に、シズクくんがサンダーバードなんかの素材を取り出すところを見たからね……」
「おいおい、まじかよ……。よし、坊主。明日、ちょっとワシに付き合えや」
「え……?」
こうして僕は、国のトップが集う秘密のお茶会から一転、グラーヴァさんの研究の実験台になることが決まったのだった―――。
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