第39話 S級冒険者
煌びやかな装飾を施された謁見の間に通された僕たちは、赤い絨毯の上を歩き玉座に座るエンペラート皇帝陛下の前に片膝をついて跪いた。
「表を上げよ」
許しが出てから顔を上げた僕らに、エンペラート皇帝陛下がにっこりと笑いかける。
腰にかかりそうなほど長いゆるくウェーブしたプラチナブロンドの髪、豊かに蓄えられた真っ白な顎髭に柔和な印象を与える目元。
賢皇と呼ぶに相応しい雰囲気を持つと共に、重厚な威厳も兼ね備えたその姿に、思わずかつて見たロド王と比較してしまう僕。
「お、お目にかかれて光栄です、エンペラート皇帝陛下」
「ふぉふぉふぉ、そう緊張せずとも良い。我が子の命を救ってくれたばかりか、この国に降りかかったかもしれぬ脅威を取り除いてくれたのだ。感謝するぞ、シズクとその婚約者たちよ」
孫に接するかのように優しい声音で語りかけてくれたエンペラート皇帝陛下のお陰で、少し緊張が和らいだ。
「ありがたきお言葉。カイゼル皇太子殿下の護衛としてその任務を全うできたこと、心より嬉しく思います」
「うむ。お主でなければ、間違いなく息子の命はなかっただろうな。のう、カイゼル」
「ええ。ワイバーン5頭に襲われ窮地に陥っていたところを助けてもらい、先日はドラゴンの襲撃からも守って頂きました。その上、なんと龍を手なずけてしまわれた。まさに歴史に残る偉業と言えるかと」
謁見の間にいる騎士や家臣たちに聞かせるように、内容を語るカイゼル殿下。
「そうかそうか。しかも、それほどの御仁が我が国でS級冒険者としての認定を求めている、と聞いているが。間違いないか?」
「ハッ、間違いありません」
僕が肯定し頭を下げると、周囲がザワザワと騒がしくなる。
「良かろう。余の名において、シズクをS級冒険者として認定することをここに宣言する。何か異論があるものはおるか?」
エンペラート皇帝陛下が周囲を見回すと、ほとんどの人が委縮してぐっと押し黙る中、一人だけ一歩前に出る人がいた。
白のウエストコートに紺のコートを羽織り、黒いブリーチズを身に着けるふくよかな男性。
騎士には見えないので、おそらく国政を担う人――宰相か何かだろうか。
「恐れながら、発言をお許しいただきたい」
「許す。ベルモンズよ、意見を申してみよ」
「ありがとうございます。カイゼル殿下のお話にありました件ですが、国としてそれらの情報を公開する訳にはまいりません。なれば、シズク殿のS級認定における功績がそれらであるということでしたら、宰相として看過する訳にはいきませんぞ」
臆することなくハッキリと自分の意見を告げるベルモンズ宰相に、頼もしさを覚えてしまう僕。
中々目上の人に対して、それも皇帝陛下になんて意見を言えるものじゃないと思う。
それは皇帝陛下も同じなのか、どこか嬉しそうに頬を緩ませた。
「ベルモンズよ。あくまで功績の内容が問題というだけで、シズクのS級認定を否定している訳ではないのだな?」
「もちろんです。彼のような英傑と呼ぶに相応しい実力を持つ御仁なら、大歓迎こそすれ拒否など致しません」
「そうかそうか。では、先の二件については別途褒賞を授けることにし、S級認定に関しては『サンダーバードの討伐』の功績ならどうじゃ?」
「それは、現在ネーブ王国が我が国内に飛んでいくのを見たと騒いでいるサンダーバードを、シズク殿に討伐して頂く。ということですか? でしたら、まったく問題ないかと」
「ふぉふぉふぉ。ちと戯れが過ぎたかのう。運びこませよ」
陛下の言葉を合図に、騎士たちがせっせと僕が国へと渡したサンダーバードの素材を運んで来る。
「これは……?!」
「件のサンダーバード、その素材じゃのう」
「……すでに討伐済み、という認識で宜しいので?」
やや困惑した様子のベルモンズ宰相が、タラーと流れた汗を拭きながら問う。
「うむ。偶然にも、プーテル近郊でシズクがサンダーバードと遭遇したそうでな。襲われたから狩ったらしいぞ、ベルモンズよ」
「は……ははは……。頭痛がしてきましたな……」
こめかみを抑え、頬をピクピクと引きつらせるベルモンズ宰相。
その姿を見て、陛下は楽しそうに笑う。
「すまんのう。たまにはお主を驚かせてやりたくてな、黙っておったのよ」
イタズラをした子供の用に喜ぶ陛下に、スッと真顔に戻ったベルモンズ宰相が笑い返した。
「……陛下にはのちほど、詳しいお話を聞くために時間を割いて頂くとしましょう。シズク殿、此度の一件、重ね重ね感謝する。お陰で、ネーブ王国の行軍を阻止できそうです」
「偶然ではありますが、ウェルカ帝国の一助になれたのなら幸いです」
腰を折って礼をした僕を見て、ベルモンズ宰相が陛下へと二度頷いた。
「うむ。では、改めて余の名において宣言する。シズクをウェルカ帝国のS級冒険者に認定し、これにより名誉騎士爵の位を授けるものとする!」
陛下の言葉に、謁見の間は盛大な拍手に包まれる。
こうして、僕は予定よりも随分早くS級冒険者になれたのだった―――。
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