第33話 なんなんだお前は
あれからどれだけ経っただろうか。
ホワイトスノードラゴンとの一騎打ちは、僕がひたすら時間稼ぎに徹していることで未だ続いていた。
こちらの魔法は当たったところでまったくダメージが通らず、かといって他に有効な手段がある訳でもない。
それでも、僕から敵意が外れてしまうと他に――二人に攻撃しにいくかもしれない。
だからこそ、、頭部――眉間や目など、攻撃されると鬱陶しいと感じそうな場所を重点的に攻撃してヘイトを稼ぎ続けている。
「キュアォォォオオオオオオオオンッ!!!」
「どこにいくんだ、よっ!!」
悪あがきをし続ける僕が面倒になってきたのか、時折別の場所へと向かおうとするホワイトスノードラゴン。
その度に僕は水魔法でホワイトスノードラゴンをすっぽりと覆うほどの水を作り出し、巨大な水の塊へと閉じ込める。
鱗が纏う冷気のせいですぐにピシッと氷つき、少し身体を動かすだけでパァンと音を立ててはじけ飛ぶけど。
でも、一瞬とは言え閉じ込められたという結果は屈辱なのか、しばらくは再び僕へと一心に敵意を向けて襲い掛かって来てくれるのだ。
ただ、違和感もある。
このホワイトスノードラゴン、攻撃が突撃と尻尾での薙ぎ払い、腕を振るっての切り裂きなど物理攻撃ばかりで、ブレスや魔法といった方法では一切攻撃してこない。
正直、物理攻撃以外の攻撃を仕掛けられていたら一たまりもなかっただろう。
こちらをナメてるのか、何らかの理由があるのかはわからないけど……僕が力尽きるまで、何が何でも付き合ってもらうッ!
二人が逃げ延びるだけの時間を稼ぐんだッッ!!
だが――二人の人影を追うようにガラガラと音を立てながら馬車が戻って来たことで、状況が一変してしまう。
「シズクっ!!」 「シズク様っ!!」
「ど、どうして二人がっ?! なんで戻って来たんだ!!」
勢いよく飛び込んで来た二人を受け止めるも、理解が追いつかない。
「シズク君、すまない……。二人を引き留めておくことができなかった……」
「なっ?!」
申し訳なさそうに告げたカイさんに、僕は思わず顔を顰めてしまう。
「カイを責めんでおくれ。妾たちが無理やり逃げ出したのじゃ」
「帝都に逃げ延びたところで、すぐに対ドラゴン用の迎撃準備を整えることなんて不可能だからね。万が一ぼくたちのことをやつが追って来たら、帝都の民を危険に晒してしまう……とはぼくも思っていたんだ。そこをまんまと彼女たちに指摘されて、図星をつかれて気がそれた隙に……」
「来ますぞっ!!」
ホワイトスノードラゴンの動向を注視していたウォルスさんが叫ぶが、ここを好機と捉えたのか今までで一番早い速度で急降下してくる姿に、僕は最悪の展開が頭を過る。
「……させないッッ!!」
僕は両手を前に突き出し、魔力の過剰供給で頭痛がするのもお構いなしに障壁を展開。
ティアやネイア、カイさんたちもそれぞれ障壁を展開し、ホワイトスノードラゴンを迎え撃った。
でも――。
ホワイトスノードラゴンの突撃のほうがやや威力が上だったため、完全に防ぎきることができなかった僕たちは障壁が破られた余波で吹き飛ばされ地面をバウンドしながら転がっていく。
「みんな……」
僕は身体を襲う激痛に耐え、なんとか足に力を込めて立ち上がる。
辺りを見回せば、剣などを支えに立ち上がろうとしているウォルスさんたちが目に入り、カイさんも片膝をついて腕を抑えているものの無事だった。
ジェンさんもあちこちに生傷があるものの、重症といったほどではない。
「ティア、ネイアっ?! どこにいるのっ?!」
動く者の中に二人が見当たらず、何度も辺りを見回してようやく二人の姿を見つけられた。
ネイアがティアをかばうように覆いかぶさり、大破した馬車の残骸に押しつぶされた姿で。
慌てて駆け寄り残骸をどかすも、二人はピクリとも動かない。
「ティアっ! ネイアっ!! 返事をしてっ!!」
必死にヒールをかけ続けながら声をかけるが、二人から反応が返ってこない。
僕の叫び声に気づいたカイさんたちがやってきて、自分たちの傷もお構いなしに持っていたポーションなどを振りかけてくれる。
でも……動かない。
「お願いだから、返事をしてよ……。ねぇ……」
ポツリ、ポツリと瞳から涙があふれ、頬を伝いこぼれ落ちる。
「キュォォォオオオオオオオオオッッ!!」
勝ち誇ったように上空で鳴き声を上げたホワイトスノードラゴンの声を聞いて、僕の中の何かが
「お前が……お前が二人を……ッ!!!」
キッとホワイトスノードラゴンを睨みつけると、僕は直観的にできると思ったことを実行し、
「一体なんなんだお前は……ッッ!」
僕は生まれて初めて、故意に相手を威圧するよう魔力を解放。
今まで感じたことがないほど力強い何かが僕の中を駆け巡り、今なら龍も倒せると確信させる何かがあった。
僕の身体から可視化できるほど濃密な魔力があふれ出したのを見て、初めてホワイトスノードラゴンに焦りの色が浮かぶ。
『マ、マッテ――』
ホワイトスノードラゴンが言葉を発した気がしたけど、僕はそんなことお構いなしに懐へと潜り込み、下から思い切り腹部を蹴り上げた。
『ガアッッッ』
鱗が何枚何十枚も砕け散りながら、苦悶の声を上げて上空へと吹っ飛んでいくホワイトスノードラゴンを追いかけ、今度は上から翼の付け根付近を思い切り殴り地面へと落下させる。
落下地点目掛けて『
深いクレーターが出来上がり、底のほうで無残な姿で横たわるホワイトスノードラゴンに止めを刺すべく、『氷剣』をバスタードソードに近いサイズで生成して急降下しながら斬りかかる。
『マ、マッテーーーーッ!!』
あと数mで首を斬り落とせる。
そう思った時、ホワイトスノードラゴンが悲鳴交じりの声でそう叫んだ。
「は……?」
僕はなんとかすんでのところで狙いをずらせ、首筋付近に勢いよく突き立てられた氷剣を見て『ヒィィッ』と情けない声を上げるホワイトスノードラゴン。
どれだけ怯えていようが、目の前の龍はティアとネイアを傷つけ、散々暴れまわったのだ。
ここで見逃せば、またきっと……。
『モ、モウマカイヘカエリマス! ニドトコチラニハキマセン! サンダーバードモアキラメマス! アナタサマヲウランダリモシマセン!」
僕の葛藤に気づいたのか、必死に命乞いするホワイトスノードラゴン。
というか、サンダーバード……? んんん……??
訝し気な僕の表情を困惑ではなく不満と受け取ったのか、ホワイトスノードラゴンはポンッと軽快な音を立てて人型に変身して土下座した。
「本当に申し訳ありませんでしたーーーーっ!!」
一糸まとわぬ姿で土下座する女性に、僕はますます困惑してしまった―――。
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