第25話 S級冒険者を目指す
昨夜は色々とあった……。
事の始まりは、宿屋備え付けのベッドがあるにも関わらず、普段使っている僕が作ったベッドが良いと駄々をこねる二人からだった。
仕方なく準備を始めると、久しぶりにネイアと二人で寝たいから大きめのものにしてほしいとティアが言いだし、僕は疑うことなくそのお願いを聞き入れてしまった。……しまったんだよ。
いざ完成して設置したところ、見計らったかのように二人掛かりで僕をベッドへと引きずりこみ、即座に腕の中へとするりと潜り込まれてしまった僕は、両脇に二人を抱きかかえる形になってしまう。
慌てて引きはがそうとすると、瞳をうるるっとさせながらまるで親から引きはがされる子猫のような、とても悲しそうな顔をした。
「……妾たちも、色々あって不安なのじゃ。どうかシズクの傍で、安心させておくれ……」
「お願いします、シズク様……。私たちにお情けを……」
「うっ……」
二人が本気で不安がっているのか、演技なのかの判断がつかない。
いや、ついたとしても引きはがせるのかな、これ?!
結局どうしていいかの判断がつかず、夕食までの一時間ほど言われるがままじっとしていた僕。
カイさんたちが呼びに来てくれて一度は解放されたんだけど、食事のあと再び部屋に戻ると、今度は二人がするりと恥ずかしそうにしながら服を脱ぎ始めた。
「な、なにしてんのっ?!」
「その……ずっと『
「わ、私もです。それで……できれば、シズク様に背中を拭いて頂けないかと……。もしかしたら、調理するときのように不思議な効果が表れるかもしれないですしっ」
顔を真っ赤にしてもじもじとする二人に、ドキドキしてしまう僕。
嫁入り前の女性が素肌を晒すなんていけないことなんだよっ?!
なんて心の中では突っ込めても、口にはできませんでした。僕も男ですもの。
桶に水を張り、火魔法で適温に温めてから手ぬぐいで背中を拭いていく。
二人は一応前を隠しているんだけど、胸がとても大きいので完全には隠しきれておらず、腕の隙間からはみ出してしまっている。
見ちゃダメだ! とは思いつつ、時々チラッと見てしまうのは仕方のないことだろう。うん、仕方ないんだ。
そうしてなんとか耐えきり、二人の背中を拭き終えた僕。
でも、二人はあろうことか今度は僕の背中を拭かせてほしいと言い出し、無理やり服を脱がされてしまった。
「その……もし痛かったりしたら言ってほしいのじゃ」
「し、失礼しますね……」
思わず逃げ出しくなる気持ちを抑え、そっと背中に触れる布や手の感触に必死に耐える。
顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしいとはこのことを言うのだと、初めて知った。
気づけば拭き終えたのか背中に当たる布の感触がなくなっており、ふぅーと息をつこうとした時。
左右から背中にむにゅっとした柔らかいものが押し当てられ、思わず挙動不審になってしまった。
「な、なにを……」
「シズクは……妾たちのことが嫌いか?」
「私たちは、シズク様をとてもお慕いしております……」
今にも消え入りそうなほどか細い震える声でそう告げた彼女たち。
ああ……僕は何をしているんだろうな。
肩に添えられた二人の手にそっと自分の手を重ねて、語りかけた。
「僕は……二人のことをとても大切な存在だと思ってるよ」
「「な、なら……!」」
僕の言葉に、声を揃えてぐっと迫る二人。
「でもね、僕には……その気持ちを伝える資格がないんだ。僕は指名手配犯だし、ネーブ王国の国王からも悪い意味で目をつけられている。今後何が起こるか、まったくわからないんだ。もしかしたら、明日にはウェルカでも追われる身になるかもしれない。ある日突然捕まるかもしれない。そんな不安が頭から離れないんだよ。だから……」
「「……」」
黙って話を聞いてくれている二人の顔は見えないけど、どんどんと暗い雰囲気になっていってるのだけは感じ取れた。
「もう少しだけ……待ってくれないかな」
「「え……?」」
「二人が僕の状況に何も言わないのを良いことに、甘えすぎていたと気づいたんだ。僕は……ティアとネイア、二人とこれからも一緒にいたいからね。だから、きちんと胸を張って二人に想いを伝えられるよう、今の状況に何が何でも抗うことに決めたよ。僕は……S級冒険者を目指す。そして、正式にネーブ王国へと抗議するよ」
S級冒険者は、国のトップ――つまり王の認可が必要。
それはそのまま、僕のことを国として問題無しと判断した、ということと同義でもある。
ここウェルカやその他の国など、ネーブではない国で功績を立ててS級冒険者への推薦を受けられれば、僕への指名手配についても必ず正式な調査が入ることになる。
後ろ盾もない以上、それが最も確率の高い身の潔白を証明する方法なのだ。
「フフッ……シズクは本当に、妾をどこまで惚れさせるつもりなんじゃ……」
「シズク様……大好きです」
二人はそっと僕の頬に優しくキスをすると、そそくさと服を着始めた。
「じゃが! 妾たちにお預けを食らわせたんじゃ、今日は共に寝てもらうからの!」
「そうです! 明日のデートも、期待していますからっ!」
「……なんだか、先送りにした意味がない気もするけど。二人には敵わないなぁ」
僕の言葉に満面の笑みを浮かべた二人と共にベッドで横になった僕は、久しぶりに気持ちがとても晴れやかでぐっすりと眠ることができた。
翌朝、食堂へと降りるとすでにカイさんたちが朝食をとっていた。
僕たちに気づくと、何かに気づいたように「へぇ……」と声をもらし、ニヤニヤし始める。
「どうやら、何か進展があったようだね?」
カイさんの言葉に二人がぼんっと顔を赤く染め、僕の後ろへと隠れた。
その反応を見てにっこりと笑ったカイさんを始めとした一同は、今日は存分に楽しんでくると言いよと送り出してくれる。
二人を連れて観光へと繰り出した僕は、美しい噴水を見たり美味しい魚料理に舌鼓をうったり。二人の新しい洋服を選んだり、僕の洋服を選んでもらったりと、楽しいひと時を過ごした。
「君たちっ! ああ、実に美しいっ!! 子爵家三男であるこの私――メッサ・ゲースイが、二人を貰い受けてあげようじゃないかっ!!」
彼に出会うまでは―――。
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